人体取扱説明書:身体のパーツの意味と力の伝え方を「一」から学ぶ記事
スマブラをやる時によく、小ジャンプや着地キャンセル、1F乗りなどの技術をコントローラー使って練習していましたが、ところで剣道はどうでしょうか?それどころか他のスポーツでも「人体の操作制度」というものを練習してきたことはない。それどころか操作方法もわからず人体のテクニックも知らないのではないだろうか?
日本のスポーツ科学のレベル、指導者のレベルは非常に低くほとんどの日本人はそれゆえ「物理的な運動量」と「統制力」のみで試合に勝ち上がろうとすると武井壮の言葉を一部引用する。最初は興味本位で始めた剣道が10代の頃にやらされまくったあげく怒られて指導され、試合でも結果がでない。そして、剣道が嫌になった犠牲者の諸君こんにちは。
このマガジンでは、今一度、人体の仕組みや力学などを一から学んでいき、剣道において合理的な動きを追求する土台とそれと同時に他のスポーツや武道にもあっさり応用できる身体能力を身につけていこうという方針のものである。
この記事は、すぐに成果が出るものではありませんが人体の力の出る仕組みを一から丁寧に文章だけで説明しますので、剣道の本当の根幹の根幹の部分でプロフェッショナルを目指そうという方針です。
基礎の基礎の基礎部分を理解して、剣道にしろ、トレーニングにしろ理由を持ってメニューを作ることができ長期的に応用できる。それを目指します。
身体に関しての骨、筋肉、関節、動かし方、出力を理解しなければ、動きに対して解剖できない。論理的になりたいのならば、その究極の入門書となります。
また、注意しておきますが中学校の物理の理解レベルを要する記事なので、がんばって理解しましょう。理解し終えた頃には他のスポーツを応用するための切り口が拡がるはずです
今回は、その第一歩。
人体の超大雑把で1ページ目にあたることを紹介していきます。
内容がボリューミーであるため軽く概要を説明します。
人体は「筋力」によって動かすと思われているかもしれません。例えば腕を上げる時って、肩とその周辺の筋肉(筋群)を収縮させることで腕を上げることができます。次に、肩周辺の力を抜いてみましょう。腕は元の位置に戻ったと思います。これも元の位置まで「動いた」といえます。この時働いた力は「筋力」ではなく「重力」です。
人体は、「筋力」「重力」「地面反力」の3つの総和で出来ています。
この記事では、
骨・筋肉・関節の説明(用語解説なので比較的簡単)→力の説明(物理基礎入門レベル)→エネルギー出力(難しい。理解できるところだけ掴む)
といった流れになります。知らなかったら、超ベーシックな内容なので、読んでおいて損はないです。
※この記事は圧倒的ボリュームになっておりますが、解剖学・力学の知識からの疑問点をできるだけ洗いざらい解説しておりますので、読む価値は十二分にあると思います。内容はそこそこ難しいですが、わかるようになるところだけでもかみ砕いて読むとよいでしょう。
ヒトの身体構造の特徴
スポーツを上達するためには身体を合理的に使わなければならないが、合理的に身体を使うということはヒトが動物として生まれた体を最大限に活用するということである。まずは、ヒトの身体的特徴を語っていく
人体最大の特徴は、直立姿勢を保った「完全二足歩行」
猿谷熊のように一時的に二足歩行が可能な動物がいないわけではないが、前肢を歩行動作から完全に開放した完全二足歩行の動物は人間だけ
二足歩行とは、下肢だけで体重を支えて移動することであるが、ヒトでは脳が発達して重くなった頭部を楽に支えるために直立した姿勢となった。同じ二足歩行でも、中生代に生息していた恐竜は体幹を水平に近く保っていた。
よって、直立姿勢を保った二足歩行と言うことから、ヒトの身体は主に2点の特徴があげられる
・上体の運動の自由度が高い
四足動物の前肢の先端が地面という一平面近くの範囲しか動けないのに対して、ヒトの上肢の先端は三次元空間を自由に動くことができる。手をぶらぶらさせられるということである。肩関節の可動性は四足動物より大きく、特に、手の指が体重を支える役目を免れたため、自由自在に動く構造と機能を持つようになった。手の指の打ち親指は残りの四本と協力してしっかりものを掴むことができる。類人猿もものをつかめるが、親指に人のような機能がないので、その能力は劣る。手でモノを掴むという機能のおかげで人は、道具を用いたスポーツが可能となる。
・重力の影響を大きく受けた構造を持つ
ヒトの身体は四足動物と比較すると必ずしも有利ではない。四足動物は、前肢と後肢で胴体を支えることからヒトよりも4倍の重力に耐えられるようになっている。ヒトは姿勢を間違えて脊柱が水平に傾くような前かがみの姿勢で長時間仕事をしたり、重いものを持ったりすると、脊柱の固定端に相当する腰椎やその周りの筋肉が応力に耐えられなくなり、腰痛を起こすし、胃下垂や痔も直立したことの代償である。
身体の重力の影響を大きく受けるがそれに対抗できる構造にもなっている。
重力上の中に垂直に立つ構造物は、自分の重量を支えるため下部の方が太くなっている。身体を支える脊柱も上部の頸椎より中ほどの胸椎、下部の腰椎と次第に大きくなっている。脊柱はS字状に湾曲しているが、走ったり跳んだりしたときのショックが大切な頭部に伝わらないようにS字のたわみで吸収するためでもある。
ヒトは直立して手が器用に使えるようになったことで、その指令室に当たる大脳が著しく発達した。ヒトの頭部の質量の半分以上は脳が占める。このような重い頭部を支えるには、他の四足動物のように前方を前に突き出すより、下から鉛直に支える方がラクである。
また、ヒトはきゃしゃな首に支えられた薄い頭骨の中に大きな脳が入っているので、激しい身体接触を伴うスポーツでは首を折ってしまうほど頭部の構造が弱いので頭部の安全面が欠かせないようになっている。
ここで「じゃあ、身体の下部ほど大きいのならば、ふくらはぎは太ももより筋肉量小さくない?」という疑問が浮かぶ。一般に、各関節を動かす筋肉は原則として中枢側についている。構造の強度からいうと、脚や腕の先端が重くなると動かすのに不便なため、筋肉はなるべく中枢側に分布するのであろう。
身体各部の基本運動の現し方
頸部(首)...前屈⇔後屈、右屈⇔左屈、右回旋⇔左回旋
体幹部.....前屈⇔後屈、右側屈⇔左側屈、右回旋⇔左回旋
股....股関節の屈曲⇔伸展、外転⇔内転、外旋⇔内旋
膝...屈曲⇔伸展
下腿(足首)...外旋⇔内旋
上肢帯(肩甲帯)...挙上⇔下制、外転⇔内転、上方回旋⇔下方回旋
肩...屈曲⇔伸展、外転⇔内転、外旋⇔内旋、水平伸展⇔水平外転
とまぁ、主に人体の操作方法なのですが、股関節と肩ですね。そこの関節の自由度の高さをみて頂きたいのですが、一般人はそんなに意識していないと思います。人体を動かすためにメインの操作を担うのは、「足ではなく股を意識して走る」と「前腕ではなく肩を意識して腕をふる」という意識をかえるだけでも、運動神経が変わると思います
人体の関節の自由度(やや難)
実際の自由度を数値化したものです。読み飛ばしてOKです
人体というのは、骨格を関節で繋ぎ(「関節で支えている」)、骨に付着した筋肉(腱)で骨格を動かす
関節の自由度をみてみる。
動く方向の数を数値にする
上肢:計29(指4(3)×5:手2(3):肘2(1):肩5)
この「29」という数字は下肢・胴体と比べて明らかに大きいのだが後述して、概要を解説する。
手の指の先端の二つの関節は屈伸するだけなので自由度が1、指の付け根の関節は二方向に動くので自由度が2。指一本当たりの自由度は合計4(ただし、先端の二つの関節を完全に別々で動かすことは難しいので、自由度を一つ減らして3と考えることもできる)
手首の関節は二方向に動くので2、回内と回外を加えて自由度は計3。手首のひねりは一見手首の関節で起こっているように思われるが、実は、前腕の日本の骨が互いにより合わせるように動くことによって生じる。尺骨と橈骨が手首と肘の所で組み合わさって橈尺関節を形成している。
肘関節は屈伸の自由度1だけであるが、前腕のひねりまで加えれば2になる。いずれにせよ、手と膝の両関節で自由度は合計4となる。
肩関節は上腕を上下左右に動かし、捻ることもできるので、自由度は3。肩関節は上腕骨と肩甲骨をつないでいるが、この肩甲骨は限られた範囲ではあるが、上下左右に動く。肩をすくめるのは肩甲骨の動きによるもので、この運動を肩関節の機能に含めると自由度は5となる。肩甲骨を使った肩関節の動作が上肢の中で最も自由度が高いこととなる
下肢:計11(指4:足2(3):膝2(1):股3)
足の指は屈伸とひろげたりすぼめたりの2つのみなので、1本当たりの自由度は2。しかし、地下足袋という作業ぐつのあることから、推し測れるように親指と残り4本の指がまとまった計2本の指のように動く。したがって、足の指の自由度は合計4とみなしてもよい
足首と膝関節はそれぞれ手首と肘の関節と同じ動きをする
股関節は肩関節と同じ自由度が3である。
体幹:計6(頭、首3:胴体3)
頭(首)は左右前後に間借り、ひねりもできるので自由度は3。胴体の運動は細かく見ればかなり複雑ではあるが、単純化すれば頭部と同じく前後左右の屈曲と脊柱まわりの回転の自由度3。
上肢の自由度は下肢や体幹に比べて特に大きいが、四足動物では、上肢の自由度は下肢とほぼ同じであることから、ヒトがいかに上肢を器用に使う動物であるかが再認識できる。
さて、関節を動かすには、1自由度あたり、少なくとも2本の筋肉が必要で、筋肉は縮むときに力を出せても伸びる時に力を出せないので、たとえば、肘を曲げる時に縮む筋肉と伸ばすときに縮む筋肉の両方がいるのである。実際には1自由度中もっと多数の筋肉があるが、おおまかにみれば、身体の各部分の筋肉の本数はその自由度に比例するとみなしてよい。
ざっくり骨・関節・筋肉の構造
人間の身体は206個の骨に付着した約600の筋肉がある
数を暗記しろ、というわけではない。それだけ人体は複雑な動きをできるという構造の元になるものである。
「人体というのは、骨格を関節で繋ぎ(「関節で支えている」)、骨に付着した筋肉(腱)で骨格を動かす。」
この言葉を抑えつつ、今度は、各用語にピックアップしてみよう。
骨
成分:
骨の20%~40%は水分で残りは固形成分(3分の1有機成分:タンパク質=コラーゲン繊維で骨に柔軟性を与える。3分の2無機成分:リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等を含み、骨に硬さを与える)
幼児の骨は有機物に富み、弾力性があって骨折を起こしにくいが、高齢になると有機物が少なくなり、弾力性が乏しいので骨折しやすくなる。
機能
・身体を支える(支持)
・骨格筋は骨をテコにして関節を動かす
・頭蓋くう、脊柱管、胸くう、骨盤くうをつくり、柔らかい内臓を収めて保護する(内臓の保護)
・カルシウムの99%は骨で蓄えられる(カルシウム、リンの貯蔵)
骨は鍛えられるか?
宇宙飛行士が宇宙へいくと、無重力のため骨に負荷がかからない。そのため、大量のカルシウムが尿中にでて、骨は短期間でスカスカの状態になり、骨粗しょう症になる。逆に、骨細胞による骨気質の形成や骨の成長などには、骨の衝撃や力学的負荷などの要因によって刺激される。つまり、骨も骨密度を増強させるという意味で「鍛える」必要はある。
筋肉(今回は骨格筋のみ)
皆様、筋肉筋肉と言っていますが、ここでは、具体的な骨格筋の作用を説明する。
筋肉は意識的に動かせる随意筋と、無意識で動く不随意筋がある。その中でも骨格筋は骨と骨の間に貼っており関節運動に必要なもので、一般的に筋肉と呼ばれている部分であるが、筋肉と骨格筋は動物とサルの区分レベルの違いであることはまず理解しておこう
そして、ここから
何しろ、まずは付着部(起始と停止)を知ることが重要。骨格筋の中央部分は筋腹と呼ぶ。起始(筋頭)→筋腹→停止(筋尾)である。筋肉の起始部、停止部は筋肉が直接、骨に付着しているのではなく、筋肉は繊維性の腱や腱膜に移行した後、腱が骨に付着している。これなんで、頭と尾を知ることが重要かというと、伸び縮みするのは尾だからです。頭を起点に尾が動くテコ運動が筋肉運動の本質だからですね。
骨格筋には、筋頭が2つのものを二頭筋、3つのものを三頭筋と呼ぶ。
単頭筋、二頭筋、三頭筋、四頭筋など。尾は負担がかかるので、よく動かす筋肉ほど頭の数が多いということですね。上腕二頭筋、上腕三頭筋だと上腕三頭筋の方が動いた時の筋力(質量)が大きいことがなんとなくイメージできますね。これによって各部位の名称の意味も理解できるようになりました。
主働筋、協働筋(補助筋)、拮抗筋
筋肉の関係性は対になるか補助になるかです。一つの動作の視点からみたときに中心となる動作を主働筋、補助する筋肉を協働筋、その動きと逆の動きをするのが拮抗筋となります。
関節運動は必ず主働筋と拮抗筋がセットになっておこりますね。
で、主働筋が縮むと拮抗筋が伸びますよね?
ここでおさえてほしいのは、関節運動の「縮む」と「緩む」の原則です。
関節運動には、主働筋の収縮力(筋力)と拮抗筋の弛緩(柔軟性)が必要となります。
ここで理解してほしいのは、なんで柔軟性が必要なのか?です。ここをしっかり応えられるようになるとレベルが上がります。
もし柔軟性が失われると、片方めっちゃ筋肉あるのに、反対側が柔軟性がなくて、しっかりと伸びてくれなかったら、ちゃんと収縮してくれないということです。勿論、筋力トレーニングによって、筋肉の弾性(柔軟性)も生まれるので、そういう意味で主働筋の反対の拮抗筋も柔軟性を養うための筋力トレーニングがある程度必要であることを抑えておいてください。
関節
骨と骨の繋がりを全て関節と広い意味で定義される。その部位に応じて動かないようにしっかりと連結された関節と、よく動くように連結された部位の2種類がある。ここで最小限覚えておきたいのは、筋肉も同様で、身体を固定させる筋肉と身体を動かすための筋肉2種類があるということ。
関節の特殊装置:じん帯
骨と骨を結合する強靭な結合組織。じん帯と関節包(骨の骨膜がお互いに連結してできる膜)は一般に癒着していて、両者を綺麗に分けることは困難なことが多い。じん帯の中で関節内にある者を特に関節内じん帯と呼ぶ。じん帯の役割は、関節での骨の結合を助けることと関節における運動を制御すること。じん帯が人体の動きに歯止めというか、それ以上動かない部分ように停めているから、身体があらゆる方向にふにゃふにゃに動かないようになっている。じん帯はあらゆるところで、出てくるので人体の画像をみるときに位置をチェックしましょう。
関節の特殊装置2:半月板
「半月板損傷」とよく言われるが、両関節面(関節する骨の相対面のこと)の適合性を高めて、ショックを吸収し、関節運動範囲を拡大する機能がある。同様に関節円板も半月板と同じような働きを持つ。
超重要:人体の操作方法
身体の各部位は関節の働きによって行われるが、関節運動の軸と可動範囲は、関節面の形状によりほぼ決まっている。まずは、次の用語を理解して各体の部位の動かし方を要チェックすることが必要不可欠である。そして、動かし方をチェックしたら、次に力の出力がどうなっているのか把握できれば、かなり論理的な剣士になることができる。ここは、難しい部分でもないので絶対に抑えておきたい
屈曲、伸展
両骨間の角度を小さくする運動を屈曲、逆に大きくする運動を伸展。
肩関節、股関節、頸部、体幹に関しては、お腹側への動きが屈曲、背中側は伸展。ヒトは直立姿勢になっているが四足動物のように四つん這いにすると、掌は腹側、足の裏も腹側にあると確認できるので、手関節・手指、足関節・足指にかんしては、掌、または、足底への動きは屈曲、手背、足背への動きでは伸展と定義されている。
内転・外転
通常は、前額面(身体を前後に分ける面)の運動。体肢(腕・足)を体感に近づける運動は内転、それを体幹から遠ざける運動は外転。
股関節では、脚を外に広げる動作は股関節の外転、脚を閉じる運動は内転。ここは、剣道で足の動きを説明する時に内転と外転、内旋・外旋の違いは理解しておきたい。ただし、手指・足指を閉じる運動は指全体の内転、それを広げるのは指全体の外転。しかし、手指は、第三指、足指は第二指が基準となる。
内旋・外旋
ねじりの運動。通常は水平面の運動で、四肢の垂直軸に沿って運動する。四肢の前面を内側に向ける運動を内旋、外方向に向ける運動を外旋と呼ぶ。
体幹のねじる運動は回旋とも呼ばれ、左回旋・右回旋に分けられる。剣道だったらなるべく回旋はしたくないはず。
回内・回外
内旋・外旋に相当する前腕のねじりの運動。肘関節屈曲位のときに、親指を真上に、掌を真横に向いた状態を中間位とし、掌を下に向ける運動は回内、掌を上に向ける運動は回外という。
内返し・外返し(内反・外反)
足部の運動で足底を内方に向ける運動を内返し、外側に向ける運動を外返しと呼ぶ
挙上・下制
肩甲骨での操作。引き上げる運動を挙上、引き下げる運動を下制と呼ぶ。肩甲骨、がく関節、骨盤で出来る。骨盤・肩甲骨とわかりにくい箇所で引き上げ下げが実はできる。
関節をまたぐ数
しかも、ひとつの関節の動きだけに関わる単関節筋とは別に、複数の関節をまたぐ多関節筋が存在する。多関節筋の中で特に重要なのは二つの関節を跨ぐ二関節筋で、こうした多関節筋によって一つの関節の動きが他の筋関節の動きに影響し、身体の中心部に近い大きな筋肉を発揮した大きなエネルギーが末端の小さな関節に伝わり、その関節が単独では出せない大きなパワーを出す仕組みとなっている。
二関節筋というのは、イメージでいうと、関節を二つ跨いで繋がっている筋肉のことですね。
例えば、大腿直筋は、股関節と膝関節を跨ぎます。手・足関節なんかは、小さい骨いっぱいあるので、あそこは多関節地帯です。上腕筋は単関節です。
筋肉の両端にあって筋肉と骨を繋げる組織を「腱」という。筋肉が短縮することによって腱が引き延ばされ、バネのようにエネルギーを蓄えてから一気に放出するという働きをする。筋肉と腱が一体となって、働くので筋腱複合体と呼ぶ。
剣道でも「腕だけで竹刀を振るな、身体全体を使え!」といった曖昧な指導は、人間にある多関節筋と筋腱複合体の存在によって、中心部からのエネルギーを末端の腕から竹刀へと力を伝えられるからである。
人間が、中心部からエネルギーを伝えられるのは、多関節筋・筋腱複合体の存在があるから
骨格は「テコ」の集合体(やや難)
小学生の時の理科の授業でテコの実験やりましたよね。とりあえず、各部位はテコで動いているというのを知っておく程度で読み飛ばしていいです。
一つ注意しておきたいのは、関節と腱の距離によって、人体のパワーとスピード違うことを説明しますので、関節と腱が違うことは人体の図を見ながらチェックしてください。そうしないとここの項目はさっぱり理解できません。ではいきます
人体を骨格、筋肉、腱の集合体と考えると、骨格はテコとして働きます。
支点となる関節の両端に、筋肉が付着した部分(力点)、外部に働きかける部分(作用点)がある第一種テコと
支点→力点→作用点の順に並んだ第三種テコがある。
ちなみに、支点→作用点→力点の順に並ぶ第二種テコは人間には存在しない。外部に働きかける部分というのは、外、末端ということとなる
作用点と力点に働く力が平行な時、『支点から作用点までの距離』と『支点から力点までの距離』の比を「テコ比」という。力点に加わる筋肉の収縮力と、作用点で外部に働く力の比は、テコ比に等しい。
たとえば、肘関節のテコ比を「5」とすると、屈筋の収縮力が「5」のとき、手首付近を動かす力は「1」になる。その代わり、筋肉が「1」の距離だけ短縮すると、手首付近は「5」だけ動く。このように、テコ比が大きいほど作用点の力が小さく、動きが大きくなり、力で損して動きで得する。
L(支点【関節】から作用点【骨の末端】までの距離):l(支点【関節】から力点【腱】までの距離)=F(力):f(速さ=人体を素早く動かす力)
「力」が出るけど「スピード」が小さい動かし方、「力」は出ないけど「素早く」が大きい動かし方です。
具体的な画像がここくらいしかなかった。一回画像でチェックしてください
例えば、腕を伸ばし切ると、肘の関節と腱の距離が縮まるし、速さが出る。腕を90℃に曲げて、一番、肘の関節と腱の距離が大きくなる位置に保つと、力出る(速さは出ない)ということになります。
具体的に一番わかりやすい腕相撲のてこの原理から理解してみましょう。「力点(筋肉が付着した部分=主に腱)」と「支点(関節の両端)」で第三種テコですね
また、このテコ比は、関節角度が大きくなるほど支点(関節の両端)から力点(筋肉が付着した部分)までの実質距離が小さくなる(イメージとしては、腕の関節と腱の位置が近づく)ので関節の角度によって変わる。曲げすぎても肘の関節と腱の距離が小さくなるので、90℃がベスト。腕相撲で負けそうになった時、なるべく肘を90度くらいに保てば、テコ比(『支点から作用点までの距離』と『支点から力点までの距離』の比)が大きくなり過ぎず耐えやすい。
おさらい注意ですが、腱は筋肉と骨をつないでいる部分で、関節は骨と骨をつなぐ部分です。
テコ比は関節ごとにかなり異なり、足関節のようにつま先の動きは遅いが大きな力の出せる関節と、逆に膝関節のように足首付近の動きは速いが力で不利な関節がある。
力の損と動きの得を合わせると、筋肉が収縮して発揮した仕事もパワーも、損得なく外部に伝わる。一般に、身体が外部に作用させた力より、身体内部に生じる力の方が数倍大きいので、跳躍の踏切の瞬間やアームレスリングで、丈夫なはずの腱や骨が損傷るうのはこのためである。
腱(筋肉と骨をつなぐ部分)が力点で、関節が支点である。
各関節部分で、力を出すか?人体の動きの素早さを出すか?どちらか
各部分ではテコの原理が働いているというのを最低限抑えておきましょう。
剣道的に考えれば肘をのばせば、肘の関節と腱の実質距離が小さくなるので素早いけれども力の弱い打突になりますが、下半身から力を伝達する(関節間力)の関係もありますのでごっちゃになると思います。
では、次に人体の力の流れを説明しますが、その前に「力」とはなんぞやを理解していないとついていけない内容になるため、力について軽く整理します
人の理想的剛体
・腕の力は腕の筋肉を固めることに100%用いる
・足の力も足の筋肉を固めることに100%用いる
・腕や足を動かすのは重心移動や腰の動きによる慣性力を伴う
剣道の構えは、通常、竹刀が相手の打突部位に接触しない間は身体を柔らかくして自由度を大きく保ちつつ体制を維持することができる粘性流体とする。腕は先述した通り、質量が小さいため、腕だけで打突してもパワーをあたえられない。腕はあくまでも、胴体のエネルギーを竹刀に伝えるための部位となる。そのために、打突する時だけ、左腕に軽く力を入れる形となる。
打突部位を捉えた瞬間だけ、必要となる身体部位は男性を持った剛体とする。
人間は単一剛体ではなく複数の塊がバネやヒモで繋がった柔構造である。相手に接していないとき、わざを繰り出す前には身体各部を柔らかくして自在に動けるようにしておく。しかし、柔らかな状態で打突すると力を与えられないので、いざ打突する時にだけ最小部位だけ最大限に固めておかなければならない。
「柔」→身体を自在に動かすことができるがパワーを与えられない
「硬」→身体を動かせないけれどもパワーを与えられる
人間は、衝撃時のみ筋肉を「硬」くして、柔軟な動きで強い打突を可能にする。
日本刀を持つ手首は特に柔らかくしなやかなまま刃先が物体に当たったのでは刃こぼれを起こすだけで斬ることは出来ない。一刀両断に斬るためには、手首と肘を含めて日本刀を持つ両腕を最大限に固めておかなくてはならない。鋭い刃先を高速回転させるエンジン付きの草刈り機で雑草を狩る場合でも、刃先を支えるアームが緩んだりしていては雑草を斬ることができないのも同じ原理である。
中心部から上肢にエネルギーを伝えるのがハイパフォーマンスである理由
下肢の質量は、上肢より男子で3.7倍、女子で4.3倍もある。仮にこれが、上肢と下肢の筋肉量の比率に等しいとするなら下肢は上肢の4倍前後のパワーを出すことができる。なぜなら、筋肉の発揮するパワーは質量に比例するから(運動方程式:加速度×質量=力)
すなわち、ヒトにおいて下肢は最も重要なパワー源である。この圧倒的質量の下肢を伝えたパワーと、単なる上肢だけのパワーだったら明らかに前者のパワーの方が大きいことがわかる。これが主として「身体全体を使って」といった指導が曖昧にされる理由ともいえる
下肢・胴体は重要なパワー源であるが、それ自体が重たいので、加速に時間がかかる(運動方程式:加速度=力/質量)発生したパワーをそれ自身の運動エネルギーまたわ位置エネルギーとして一度蓄えた後、短時間内に上肢に伝える。
主な質量比(体重60キロの場合)
頭4.4、首3.3、胴47.9、腕8.3、手1.8,足30.7,足首3.8
胴体・足の質量を手に伝える方が明らかにパワーが出るでしょう
下肢→腰→胴体→上肢(肩→肘→手)の順に連動して動くようになっている。
人体は伝導していった方が効率よくエネルギーを出せることがわかりました。それではその伝導する力について次に解説していきます。これは、まぁまぁ厄介です
中心部からエネルギーを伝えられる力とは??
ここは、軽く読む程度でいいです。
人体の動きは、筋肉の収縮力が骨を引っ張って関節回りに回転させ、その動きが他の関節を通して次々に他の骨に伝わることで生じる。
中心部からエネルギーを伝達する関節と関節の間には、伝達する力と回転する力が作用し、これは、足したりかけたりするのではなく、各部位によって使い分ける形である。
関節間力...骨組みを伝わる力
竹刀を持つ際に、竹刀の重りが伝わる。構えを維持している状態を力で説明してみます。素振りする時に身体の重心を動かさないためには釣り合いの力として、胴体から肩関節Oを通して外力と向きが反対で同じ大きさの力が作用する(作用反作用の法則...押すと押し返され、引っ張ると引っ張り返されること)。この肩関節Oから反対の向きの力は胴体まで届く。両腕を支える胴体には、肩関節Oを通して外力と向きも同じ大きさも同じ力が作用する。
見方を変えると、竹刀を握った部分点Pに加わった外の力が、そのまま胴体に伝わったといっていい。一般的に、相手の力に対抗して動かないように頑張ると必ずその力が全身に伝わるようになっている。
人体の関節は様々にあり、それが様々に働くため今回は肩関節だけで説明するが、これらの関節と関節同士が伝わっていくとなると必然的に中心部へと力が伝わることになる。
肩関節(他の関節も可)に作用する、大きさが同じで逆向きの二つの力を関節間力という。
一般の関節は、関節間力に耐えやすいようにできているので、力が極端に大きくない限りあまり負担を感じません。
人体における身体の負担は小さいのだが、その代わり力が出ません。
とりあえず、理解は置いておいてもう一つ紹介します
トルク.....筋収縮における回転力(トルクは厳密には「力」ではないが、「広義の力」として扱う)
両腕に作用する二つの力により、両腕の重心は動かず釣り合うけれども、同時にこれらの力は両腕を左回りに回転させる働きを持つ。
トルクN=力の大きさN×テコの腕r
「テコの腕」とは「テコの腕の長さ」のこと。力とその作用点が同じでも、回転の中心が変わるとテコの腕が変わるので、その点のまわりのトルクが変わることにも注意。
身体の一か所に加えた外力に対抗するため、ほぼすべての関節にトルクと関節間力が生じる。そのトルクを出せない弱い関節が最初に外の力に負けて、角度が変わってしまうわけである。
作用反作用の法則により、外力のトルクNに対抗するには、同じように、肩関節点Oの周囲についた筋肉の力により、右回りのトルク-Nを発生させなければならない。
ただし、外の力Fが、肩関節点Oと竹刀を握った部分点Pに平行な場合は、テコの腕がゼロになるので、回転の作用を持たない(トルクN=0)。両腕をOP方向に押したり引いたりするだけの力となる。
関節に感じる負担の大部分は、外の出力に対抗するトルク(回転)を発生させるために収縮する筋肉の負担である。
人体における回転動作は、大きな力を得られるが身体の負担が大きい。
このように
・関節間力(骨組みを伝わる力)....力は出ないが関節の負担も小さい
・トルク(筋収縮による回転力)...力は出るが関節の負担も大きい
人体の力にはこの2つの力があります。じゃあ、これをどうやって使っていくのかというと
人体には関節間力が働ける。つまり、筋力の大きい中心部からでもエネルギーを伝達できるのであれば、筋力の弱い部分では関節間力を使い、筋力の大きい部分で関節トルクを用いると身体全体として最大の力を出せるのではないか、ということになります。
剣道の打突の際でも、腕は基本的に中心部分の力を伝達するように専念させる原理ですね
トルクと関節間力の力を、バーベルをあげる足の方に例を挙げると、
・バーベルをぶら下げて、両脚を伸ばして立って静止している状態のとき、片方の膝関節(大腿骨と下腿の脛骨をつなぐ関節)に生じる関節間力は、体重の半分。
このとき、股や膝には押し合う関節間力、肩や肘には引き合う関節間力が作用する。どの関節にも関節トルクは発生していない
これは、バーベルをぶら下げている人間はものすごい力を発揮しているが、バーベル自体は動いていないので、力学的には「仕事(物体に一定の力 F [N] を加え続けて、その力の向きに距離 s [m] *だけ動かしたとき、その積 F × s を、力が物体にした仕事)」は行われていない。
つまり、「関節間力だけが発生するような体勢、関節角度を保った時、楽に大きな力を出すことができるが、関節トルクがほとんどなく仕事が行われない」
・両足をスクワットのように曲げて、静かにしゃがんでいくとき、膝関節に膝より上の体重がかかっていることには変わりはないので、関節間力は膝の角度に寄らず体重の半分を維持
・まがった膝関節の角度を保つ場合、大きな伸展力(トルク→足を伸ばそうと骨を縦に回転する力が釣り合いで必要)が必要で、太股前面の大きな筋肉が体重よりずっと大きな収縮力を発揮する。この筋肉の収縮力が、付着する大腿骨と脛骨に作用する。
これがどういうことかというと、
大きな外力=大きな関節間力に耐えることができる関節角度(膝を伸ばした状態)では、パワーを出すことができない。一方、筋肉の収縮によってパワーを発揮しやすい関節角度(膝を曲げた状態)では、逆に大きな力に耐えることができない(ずっと膝を曲げた状態で立っていることは難しい)という関係である。
またバーベルを持ち上げた状態に関して
肘と肩に発生する関節トルク(回転直)は、バーベルの重量を支えるのに不十分であるが、バーベルの上昇する勢いが大きく落ちないように保つことはできる。バーベルが持ち上がる時、一旦、股・肘を曲げて身を沈めて、バーベルを胸の前に受け止めてから、再び股・肘を伸ばしてバーベルを持ち上げる。
結局、肘・肩を伸ばす関節トルクではバーベルを持ち上げることができず、股・肘を伸ばす関節トルクの方がダントツで強力である
原理:肘・股・体幹といった部分の大筋肉群によって動く関節は、大きな関節トルクと仕事を発揮できる。それによる大きな力や仕事を伝える経路となる肩・肘のように小さな関節は、関節間力だけで発生するような角度に調節するべきである。伝えるべき力が小さくなった段階で補助的な力とパワーを出してもよい。
この原理を生かすためには、上半身と下半身を動かすタイミングア重要であり、タイミングがずれると力が浪費されるだけでパワーが出ない。
悪い例として、股関節の伸展によりバーベルが上向きに加速している途中で腕を曲げ始めたとする。ひつような関節トルクを出せないため、せっかく曲げ始めた腕が力負けしてしまう。つまり、下半身が出したパワーがバーベルを持ち上げるためではなく、腕の関節を伸ばすために浪費されてしまう。
・上半身は筋肉群が下半身より小さいので関節間力を中心に使いたいから関節角度と体勢を保ち、下半身の出したパワーに対し補助的に関節トルクを使う
・下半身は筋肉群が上半身より大きいので関節トルクを使ってパワーを発揮したい