剣道の構え② 竹刀の握り方・左拳の位置 「前腕」「中指・薬指」の機能を考えて、一番操作性の高い握りを導く
今回は、さっそく「構え」をやっていきます。第一弾は「左拳」です。
まずは、剣道指導要領を引用しましょう
左拳は、下腹部へそ前より約一握り前に絞り下げた状態に位置する。左親指の付け根の関節が臍の高さ、左拳は、へそより少し低い位置になるようにする。
そのまんま親切にかかれていますが、結論を述べれば、この通り意識して、左手の位置がずれたりせずに、この位置を保つようにして稽古すべしということです。
補足すると、親指と人差し指には力を入れずに、薬指・中指で軽く握るように構えてください。打突する時は、薬指・小指を一瞬握るように打突してください。
あと、この動画をみて、初心者の方はここで終了です。分かりやすくてありがたいですね。
では、上級者向けの以下のポイントを解説をします。
1.親指を力んではダメ
2.左親指の付け根の関節が臍の高さにおく意味
3.構える時、小指感覚ではなく中指感覚
4.右手は下から中指・薬指で握る。親指・人差し指は開く
1.親指と人差し指で握ってはいけない
「竹刀の握り」編でも、同じような解説をしますが、筋肉には「屈筋」と「伸筋」があります。主に身体の前側が「屈筋」で後側が「伸筋」です。身体を前に進むアクセルの筋肉は「伸筋」つまり、広背筋、大腰筋、ハムストリングスなどであり、人間の身体は「伸筋」の方が圧倒的に多いです。逆に「屈筋(腹筋、胸筋、太もも)」は、身体にブレーキをかける筋肉であったり、猫背になったりと剣道においてあまりいい効果を得られず、必要最小限のみの筋肉量で充分です。そして、筋肉量も「伸筋」より少ないです。
さて、この「屈筋」と「伸筋」ですが、人間の身体は「柔構造」で出来ていますから、末端の筋肉の影響にしても身体全体に影響が及ぶのです。親指と人差し指は「屈筋」に辺りまして、親指と人差し指を握った場合は身体の「屈筋」に影響を与えます。逆に、「小指」「薬指」は「伸筋」と密接につながっているのです。理想としては「伸筋(背骨・広背筋・大腰筋)」を使いたいのです。
実験:シンプルに竹刀を親指と人差し指で握ってみましょう。竹刀が自分の方に向きませんか?逆に小指と薬指で竹刀を握ってみましょう。竹刀が前に倒れませんか?親指と人差し指を強く握ると構えの際、竹刀が垂直方向にたってしまいますし、打突の際では、絶対に仕えません。
構えは左の「薬指」で握る
最も重要な本題です。剣道の竹刀では、全部の指で強く握らずに小指・薬指・中指に感覚をおいて握るとよいとよくいわれますが、宮崎正裕先生は「中指を軸に握ります」と言っています。
前腕には回外(右手でドアノブを右に回す動き)動作、回内(回外と反対方向の動き)がありますが、これは、前腕にある二つの骨のうち、橈骨と尺骨の周囲を回転することで生じますが、これを車軸関節といいます。回内動作は、橈骨が尺骨にクロスするようにぐるっと回旋して動くことで引き起こされます。回外動作は、反対に交差した橈骨を元に戻す動きです。橈骨の方が太く、尺骨の方が細いのですが、橈骨と尺骨の間の線上には中指ではなく薬指があります。したがって、前腕の回内動作・回外動作の軸は薬指となります。この動作って言うのは構えた時の前腕をコントロールする上で重要になっていくわけです。
しかし、薬指は、独立して立ったり動かしたりするには難しい指であることはわかります。これは、薬指の腱が両隣の指の腱とつながっているためです。薬指は単独では動かしずらいため、両隣の「中指・小指」が補助に回ります。
回内・回外に関わる動作は、薬指が軸とするとしましたが、肘が伸展している状態では、回内・回外運動の軸は小指も通りますし、肘からまがった状態では、その軸は中指も通るようになっております。というわけで、構えの最初から小指に感覚を置くのではなく、薬指を軸・中指を補助に感覚を置いておき、肘が伸びる時に薬指を軸・小指を補助に感覚を移すというのがベストです。
もし、構えを小指中心の感覚で握ると、構えている時点で肘を伸ばしたくなると思います。僧帽筋を緊張させ、肩を吊り上がった構えになり、そこに「力み」が生じます。
剣道だけでなく、武道、ボクシングにおいても構えは肘をたたみ、インパクトを与える時だけ、身体の質量エネルギーを腕を通して伝えるために肘を伸ばし、腕を固めるという形が理想なわけです。「柔」は身体を異動しやすくするが力を伝えにくい、「剛」は身体が固まるが力を伝えやすい。腕というのは、打突する瞬間だけインパクトで固める。以上のような考えからやはり構えは薬指軸・中指補助感覚の方がいいかなと考えます。
左手:薬指を軸に中指を添えて構える。右手も薬指を軸・中指補助で軽く握る
左掌が床方向を向ける構造:何故左親指付け根の関節が臍の高さか?
まず、パンチにおいても打突においても、掌(てのひら)と肘が同じ向きに向いていないと腕から竹刀へのエネルギーが効率よく伝わらないからです。剣道的にいえば、掌(てのひら)と肘が床の方を向いている状態が理想なのです。逆に、拳を絞らないで掌が横に向いていると、肘と同じ方向を向きませんよね?これではエネルギーが効率よく伝わりません。これは何故かと言いますと、前腕の骨は2本(尺骨と橈骨)ありますが、掌と肘が同じ方向を向いた場合、重力エネルギーを伝える腕の骨がクロスして力が一点に集中することになります。
先程、説明したとおり、それは、前腕の回内動作です。回内動作をうまく行うには、やはり、薬指軸で調整して構えてあげます。
下手に腕の筋肉を縮めて打突するよりも、この骨をクロスさせて打突した方が力を込める意識をせず、楽して、かつ、強い打突が可能になるのです。
以上、説明は長くなりましたし、読むのが大変ではありますが、理屈がわかっていれば、肝に銘じるポイントになりますので熟練度が大幅アップすることでしょう
右手は下から握る
続いて、右手ですが、右手は絶対に親指・人差し指で握る、ましてや、抑える、絞るといった行為でさえOUT。この「note」では、右手に関しては若干、親指・人差し指は開く形となります。これは、何故かというと、従来の構え、人差し指と親指を上から被さるように右手を構えた場合、打突した瞬間に、力を入れていなかったとしても、竹刀が相手の方向に押し込むのに邪魔になり、「冴え」が落ちるわけです。
右手は、小指球から小指・薬指・中指で下から握るようにして、人差し指と親指は開く
まとめ:
・左手は、薬指を軸に中指を添えて構える。右手も薬指を軸・中指補助で軽く握る。打突する時、左手は薬指を軸に小指を添えるようにシフトする
・左親指付け根関節部分をへその手前にくるようにする
・右手は、小指球から小指・薬指・中指で下から握るようにして、人差し指と親指は開く
このマガジンの結論としして、この3つのポイントは絶対に抑えるようにしてください。
ここで「攻める」ときの剣先の攻め方は、ここでは説明しません。