フィリピンの危険地帯へ行った話④

■英語通訳の女の子

フィリピンで話されている言語は、100以上あると言われていますが、僕は一般的なタガログ語も話せません。

ミンダナオ島のホームステイ先でも、周囲にいる人が話す言葉は、印象から何となくイメージする程度で、まるで分かりませんでした。

日本語が話せる人がいても、内容は非常に限られています。

そんな中、6人いたメイドさんの内、1人の女の子が英語で通訳してくれたので、僕はとても助かりました。

何しろ分からない事だらけで、これからどうするか、何をしてはいけないのか、その都度尋ねて、何とか日々を過ごしていました。

ところが、ある事件がキッカケで通訳の女の子が突然いなくなってしまいました。

ちなみに通訳の子は、
前回の写真に写っていた女の子です。
フィリピンの危険地帯へ行った話③

今回は、その事件の経緯と感じた事を書いていきます。

■事件と病院のない街の治療法

その日は、農園の敷地内にコンクリート造りの小屋を作ってるから、それを見に行こうと言われ、付いて行きました。

行ってみると、このまま家には帰らず、小屋で一晩過ごす事になっていると言われました。

シャワー室がないので下着の上から井戸水を浴びて、農園に居た男性が焚き火でご飯を作ってくれて、夕食を済ませました。

事件は夜になって起きました。

いつも英語で通訳してくれていた女の子が、身体を痙攣させていたのです。

どうも様子がおかしい。

他の女の子も気づいていたので、すぐに病院に連絡しようと提案してみました。

するとムスリムの女の子が、
「ここに病院、ない。」と言いました。

いや、病院がないなんて事はないだろう!

一刻を争う状況で、予想外の答えに絶句していると、ムスリムの子がボスである娘さんに電話で知らせてくれました。

病院がない状況で、一体どうするんだろう…。

そもそも病院がないのに、病院という日本語の単語をよく知っている物だとおもいますが。

電話を切ったムスリムの子に、これからどうするのか尋ねると、もうすぐここに神父様が来てくれると言われました。

神父様が来る?

まさかこのまま死んでしまうと思ったんだろうか…?

ところが、ムスリムの娘に聴くと、神父様は治療のために来てくれると言います。

しかも、驚いた事に、来てくれる神父様は、女の子に取り憑いた悪い悪霊を祓ってくれると言っていました。

そんな非科学的な…、と思いましたが、具体的に僕が出来る事はありません。

神父様というのは、僕の眼から見て、普通のシャツを着た中年男性でした。

身体を痙攣させていた女の子は、神父様が来たこの頃には、辺りに叫び声をあげて、手足をバタつかせていました。

癲癇の発作なのでしょうか…?

神父様はその患者さんに対して、叱りつけるような口調で延々と悪霊祓いをしていました。

その内、手足のバタつきがあまりに激しいため、手足を抑えるように支持が出ました。

こんな事なら、放っておいた方がまだ良いんじゃないかと思いましたが、3人の人が手足を抑えても、凄い力で抗っていて、特に足の蹴りが激しく、仕方なく僕も足を抑えました。

とにかく、本気で抗っていて、凄い蹴りが飛んで来ました。

しばらくすると、患者の女の子から痙攣は無くなりましたが、僕には理解出来てない凄い大声で毒づいて来ました。

毒づいている女の子に、また神父様が叱りつけて、更に女の子が毒づくという状況でした。

僕は介護の仕事をしていたので、病人を見ると受容とか共感と言った対応が良いんじゃないかと思いがちです。

僕はあまり神父様の対応に好感を持ちませんでしたが、ここはフィリピン。

自分の考えなんて、通用しません。

1時間くらいずっと毒づいていた女の子も、さすがに疲れたのか、声を出すだけ出すと横になって眠ってしまいました。

フィリピンの女の子達は、本当に悪霊が取り憑いたと思っていて、自分達に取り憑かないように恐れていました。

ムスリムの娘が言うには、高校で同じように悪霊が取り憑いた女性がいたのだとか。

そして、悪霊は朝方になって再び動き出すのだそうです。

事実、次の日の早朝から患者の女の子が暴れだして、毒づいたり大笑いしたりしていました。

風土病なんだろうか…。

現場に再度、神父様が呼ばれて対応が始まりました。

結局、患者の女の子は、田舎の実家から迎えが来て、送り返されたと聞きました。

医療のない場所で、神父様が悪霊を祓って回復させると皆が信じている街。

とても驚きましたが、日本人は日本人で医療が人を回復させてくれると皆が信じているだけで、もしかしたら神父様と変わりない状況もあるような気がします。

資本主義の世の中で、薬という商品をたくさん売って儲けるため、不必要な薬が処方されていたりするのは、日本でよくある話ではないでしょうか?

ともかく、この事件を境に通訳してくれていた女の子がいなくなって、僕はこの後、難しい状況に立つ事になりました。

⚠ちなみに、後に日本人のオジさんに再会して、ミンダナオ島には病院が1つも無いのか尋ねたところ、ダバオやジェネラルサントスといった都市部にはいくつかあると言っていました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?