「悩みは“すき”の種」2023年2月号
これは、「手紙社の部員」のみなさんから寄せていただいた“お悩み”に、文筆家の甲斐みのりさんが一緒になって考えながらポジティブな種を蒔きつつ、ひとつの入り口(出口ではなく!)を作ってみるという連載です。お悩みの角度は実にさまざま。今日はどんな悩みごとが待っているのでしょうか?
第20回「年齢とともに変化する友達との環境ギャップにどう向き合う?」
月刊手紙舎読者のみなさん、こんにちは。
春から秋にかけての平日夜は小一時間ほど、散歩とウォーキングの中間くらいの運動を週2~3日おこなっているのですが、先月とうとう、24時間使用できる近所の格安ジムに入会しました。韓国ドラマを観ながらウォーキングマシンを使用していると、1時間はあっという間。家で寝そべってドラマを観るだらだら時間も愛しいですが、少しでも体を動かした日はいつもよりぐっすり眠ることができます。もう少し暖かくなったら、まちを歩くウォーキングを再開しようと思っています。
マールさん、「悩みは“すき”の種」を読み、お便りを寄せていただきありがとうございます。
連載の担当者である手紙社のKさんともお話したのですが、マールさんがおっしゃるように、社会人になったり、これまでとは異なる生活環境が築かれることで、人との付き合い方に変化を感じて、もやもやっとしたり悩ましく思う方は、きっと多いと思います。生活の拠点(地元かどうか)、職種(忙しさや休日など)、収入、家族(婚姻だけでなく実家の状況)、出産、体調と、人の数だけ違っていますものね。
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まず最初に、「甲斐さんも、以前は同じ感覚・環境だった友達と、30代・40代になって、ずれを感じたという経験などありましたか?」という質問に正直にお答えします。はい、“環境において”は、昔と違うことをズレと表すとしたら、ズレだらけです!
年に1度会えるかどうかの学生時代からの親友とも、ご近所同士で毎週のように会う友人とも、5年前、10年前と比べると、年々少しずつ付き合い方は変わっています。つい先日も、会えばファッションの話をしたり、お互いの誕生日月にちょっと贅沢な食事会を開いていた友人が、これから子どものお稽古ごとにお金がかかるので、しばらく節約に励むと宣言。別の友人からも、この春から子どもの進学に合わせて暮らしの環境を変えるため、しばらくは一緒にでかけるのが難しくなると打ち明けられました。私自身も、よくともに旅をしている友人に、この数年で旅疲れがひどくなったため、今までのように身軽に何泊もできなくなったと伝えたところです。
今後もまだまだ、自分自身やそれぞれの家族に変化が訪れたり、仕事や住む場所が変わったり、“環境”の違いという波がしずまることはないように思います。けれども、“感覚”という意味では、どうでしょう。人は滅多なことでもない限り、今までの感覚がそこまで大きく変わることはないように思うのです。
どちらか一方が、多忙を極めたり、収入の増減があったとしても、それはあくまで環境の変化。私自身、ボーナス的な収入があったときには普段より贅沢をすることもありますし、それとは反対に厳しい時期は節約します。同じように友人も、生活環境に合わせた時間やお金の使い方をしているはず。もしも私が、ここにこれだけお金や時間をかけられないと思っていることや現状を知ったら、きっと友人は快くそのときの私の環境に合わせてくれたり、別の予定を組んでくれると思います。
「感覚や環境にズレを感じるようになった友人との付き合いを断ちたい」という相談ならばまた別の答えがあるのですが、マールさんの文章からは、長い付き合いの友人を大切に思っていること、いい関係を続けていきたいと願っていることが伝わってきます。
“ぶっちゃける”という言葉がありますが、これからもいい関係を続けていきたい友人に、一度思いきって、ぶっちゃけてみてはいかがでしょうか。マールさん自身の性格もあるので、どんなふうに打ち明けたらいいか、適切な助言ができているかどうか心配ですが……。明るく大胆に「実は最近、こんなことでこんなふうにズレているかなって気になってしまって、もやもやしていたの! でも、このままもやもやしたままだと気持ちがしんどいから、こうして話してみた」でもいいと思います。
かくいう私自身の性格は、神経質で繊細。今後も末長く仲良くしたい友人に、ズレや違和感を感じたとき、気持ちを押し殺さずに必ずぶっちゃけてきました。ここに書くには恥ずかしいほど、今では反省しているのですが、過去には、じめっとした雰囲気で気持ちを打ち明けたこともあります。ちょっとぴりっとした雰囲気の中で、「お互いの関係性の中で、こんなところにもやもやっとしているので、できれば改善したいです」などというふうに。そんな私の性格を知る友人たちは、笑ったり、真剣な表情だったり、そのつど柔軟に向き合ってくれました。
もやもやを伝えた上で、今度は私がしっかり友人の話を聞いてみると、もちろんそこに悪意などなく、私がもやもやしているとは思ってもみなかったというのがほとんど。「そうだったんだ」「これからはこうしていこうね」「聞いてくれてありがとう」「話してくれてありがとう」「私もこうして伝えたからあなたも伝えてね」ともやもやは晴れ、いい関係が続いています。
思いきりぶっちゃけた上で、これまで通り関係性を続けていけたら、いっきにその後が楽になります。以来、私は友人に対して変に深刻にならずに、もやもやっとすることやズレを感じることがあったときは、軽やかに伝えて解決できるようになりました。
親しい間柄でも、本心を伝えるのは簡単ではありませんが、伝えなければ自分を知ってもらえない。察してはもらえない。大切に思う人にほど、じょうずにぶっちゃけられるように、勇気を出してマールさん自身を変えてみてほしいです。
甲斐みのり(かい・みのり)
文筆家。静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。地方自治体の観光案内パンフレットの制作や、講演活動もおこなう。『アイスの旅』(グラフィック社)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)、『地元パン手帖』(グラフィック社)など、著書多数。2022年4月には『たべるたのしみ』『くらすたのしみ』に続くエッセイ集『田辺のたのしみ』(ミルブックス)、11月に『乙女の東京案内』(左右社)が刊行。
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