【エッセイ】子供の頃ラーメンばかり食べる旅に行った話
20年ほど前、僕は父と福岡へ三日間ラーメン旅行に出かけた。その三日間は最後の昼食以外ラーメンしか食べなかった。
当時、千葉では多種多様のラーメンを食べることができず、我が家では博多ラーメンという概念ですら共有出来てなかった。
父はどこかで「長浜ラーメン」を食べたことがあるらしく、僕に旅行雑誌を元に「長浜ラーメン」について熱く語った。僕は父の「この辺では決して食べることができない」という謳い文句に乗せられて興味を持ってしまった。
さらに、僕は雑誌を読んで「屋台」と呼ばれるラーメン屋があることを知った。ラーメン屋が沢山並んでいる写真を見て、「ここのラーメン屋全部食べたい」と意気込んでいた。
いざ福岡につき、僕らは雑誌に載っていた長浜ラーメンの有名なお店や屋台を巡り回った。福岡ラーメン屋ならではの熱気に興奮しつつ、僕たちはラーメンを食べ回った。
しかし、屋台を回っているときに僕たちの想像より早く、全ての屋台が後片付けを始め出した。まだ2件しか回れてない。僕たちは締めのラーメン屋を探しに繁華街をぐるぐる回った。
ふと、行列ができている店があることに気づいた。見てみると、なんとラーメン屋だった。たしか20時30分頃だったと思うが、それにしても僕は人生で初めて「行列のできるラーメン屋」を目にした。ここは絶対美味いに違いない。僕たちは列に並んだ。
30分くらい並び、やっと店内に入った。メニュー表を見て、僕は「赤丸」を注文した。するとすぐにラーメンが運ばれてきた。僕はラーメンを食べた。めちゃくちゃ美味い。この旅で食べたラーメンで一番美味しいと思った。
父も「トッピングいっぱいあるぞ!」と言って、子供のようにはしゃぎながら、もやしや胡麻を入れまくっていた。「お前も入れろ!」と父に促され、僕もトッピングで気になるのを探そうとした。
「お客さん、どちらから来たんですか?」
急に隣の人が話しかけてきた。あまりにも突然だったので父と僕は固まった。ああ、話しかけられたのかと気づいて父は答えた。
「千葉です。」
「なるほど、千葉ねえ。遠いですねえ。何しにきたんですか?」
僕たちはラーメンの旅をしていたこと、今日たまたま入ったこの店が一番美味しいと思った事などを話していた。
「だとしたら、あなたの食べ方は勿体無いと思いますよ。」
隣の人は父が様々なトッピングを入れたラーメンを見ながら言った。
「色々入れてしまうと、元のスープの味がわからなくなってしまいます。」
僕と父はポカンとしながら聞いていた。ラーメンに食べ方があることを初めて知った。
「基本的に、この店のトッピングは入れないで別に食べるのが良いです。そのままで充分美味しいんですから。」
隣の人は、まるでラーメンの食べ方のプロであるかのように僕たちにこの店のラーメンの食べ方をレクチャーしてくれた。この人のおかげで僕の注文したラーメンの味の品質は死守された。父は間に合わなかったが。僕たちは満足して翌日帰路に着いた。
現在、その店は世界的に展開する有名チェーン店となった。店が急拡大していた頃は「あのときの僕の舌は間違ってなかったんだ」と自負できた。
学生で一人暮らししてた頃、近所にたまたまあったそのチェーン店に頻繁に通った。気づいたらどんぶりと箸をゲットしていた。家でラーメンを作るときは、今もそのどんぶりで食べている。ラーメンを食べ終わると見える、どんぶりの底に書かれた「ありがとう!」が気持ち良い。
その店に行くときは、私は今でもプロのレクチャーを守ってラーメンを食している。
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