【感想】いつも旅のなか

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」

川端康成著「雪国」

昭和は、まだ自身の生活圏から地方へ旅行に出かけられない人が多く、このような小説を読んで、まだ見ぬ日本の片隅にある雪景色を想像していたらしい。

今や時代は令和となり、私たちは国内旅行は勿論、その気になれば格安航空で海外に行けるようになった。例え行けなかったとしても、YouTubeで興味のある国の風景や街並みがアップされた動画を見て知れるようになった。最近の文学でバズったものといえばタワマン文学だろうか。随分と私たちの興味も世俗的になったもんだ。

この本は平成に発行されたものだ。かと言って、私が読む分にはこのエッセイの鮮度は保たれてるように感じた。例え海外旅行に行きやすくなったとしても、行ったことのない国についての肌感は全くわからない。このエッセイに記された国々は私にとっての雪国かもしれない。

以下は著者が見知らぬ土地で日本人観光客に好かれすぎた案内人から「日本人らしさ」を見つけた文章だ。第一章にこの文書があるから、その後の旅行記を読む時に「日本人」の定義を持ちつつ、他国との文化の差を認識できた。

感情の入る余地のない合理的な商売がきらいで、押しつけがましい態度にたえられず、打算のない親切が存在すると心から信じていて、向き合いたがいの目を見て話しあえば、言葉も文化も習慣も経済も乗り越えて、全世界だれとでもわかりあえるはずだ。だれもが平等にシアワセになれるよう、自分の健康を願うように願っている。

角田光代著「いつも旅のなか」

また、著者は個性について以下のように述べている。この文章を第二章に持ってくることで、その国の空気を感じながら読み進められた。

個性を創りあげる要素とは、育った環境だの経験だの遺伝だのばかりではなく、その時代、その場所での空気でもあり得るのだ。

角田光代著「いつも旅のなか」

ちょっとした旅行気分にさせてくれるのは、その国の文化は何が共通で何が違うのかコミカルに提示してくれるからだろう。この匙加減は非常に難しいがエッセイを書く時に参考にしたい。

それにしても初っ端からモロッコで知らない地名だらけで挫折しそうだった。


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