駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第23話

【前回の話】
第22話 https://note.com/teepei/n/n3dc918df07d7


 巨人同士の拮抗が崩れた。

 掴み合いを弾いたBが、相手に右拳の一撃を入れたのだ。
 後ろへ吹き飛んだ屋敷の巨人が、その身を起こそうとゆっくり動き始める。倒れていた場所には山があったはずで、それはA達が越えてきたものだった。起こされた上半身へ目掛け、巨人Bが拳を振り下ろす。挙動のすべてに強大な力が作用するため、いちいち強烈に周りを巻き込んでゆく。巨人Bの拳は打ち付けられ、屋敷の巨人のダメージは勿論、大地が驚愕に震える。打ち付けた拳を胸元に引き戻し、新たに力が籠められる様子である。これは、と思う間もなく、拳はもう一度屋敷の巨人の頭を打ち付けた。地響きに、Aの下半身が脅かされる。何度か同じ脅威に晒され、もはや大地が土台を留めていてくれるかも怪しい。
「ちょっと、やりすぎじゃあ」
 Aがそこまで言った途端、再び轟音が鳴る。それは巨体のぶつかり合いではなく、元カヅマが迸らせていた何かを、屋敷の巨人が発動させたのだった。それは巨人Bを取込み、激しい光と衝撃を見舞わせる。相手に乗り上げていた巨人Bが、回避のためか立ち上がる。光と衝撃は、薄れる気配を見せない。ダメージの程を伺わせ、しかし巨人Bは腰を落として内に力を圧縮してゆく。一気に弾け、迸るものが飛び散った。
「圧倒的だな」
 誰に言うでもなく、Aから言葉が洩れる。
 さっきまでそこにいたBが、力のある巨人としてそこに立つ。本来であれば飲み込めるはずもない状況を、時には考えないことも得策であるとAは心に決める。魔王は何も言わず、行く末を見守る。
 屋敷の巨人の咆哮。
 再び襲いかかり、巨人Bはしっかりそれを見極める。
巨人Bが受け止めると、始めの膠着状態と同じ構図だった。しかし、何かが違う。この掴み合いは、既に拮抗によるものではない。巨人Bの、全てを受け止めようとする姿勢が作り上げた構図なのだ。歴然とした力の差が生じている。

 圧倒された屋敷の巨人が、結局は逃げ出そうともがく。
 巨人Bが敢えて解き放つ。
再び間合いが生じ、見えない円周をなぞるように移動しながらお互いを窺う。

 咆哮する屋敷の巨人。拳には徐々に力が高まる。
 
 それを見つめる巨人B。

「次で決まる」
 魔王が告げる。

 大地を轟かせ、屋敷の巨人が踏み込む。
 それを受け、巨人Bも踏み込む。
 互いの拳が、その中央で衝突した。

 白い世界。

 行き過ぎた力の衝突は、暫くすべてを止めた。
 光と錯覚するほどの衝撃。
 Aはその中で、自分が無事でいられる保証さえないと悟る。

 我が主。

 Aの中に、流入した何かが掠める。
 遠のく意識の中で、それが記憶の最後だった。

***

(続く)

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