駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第12話

【前回の話】
第11話 https://note.com/teepei/n/n42889248e999

聞き間違いではないことが分かり、引き続き蛙男の様子を窺うべく目を凝らした。粉塵はすっかり落ち着き、壁の崩壊具合にも驚いたが、蛙男の仕草には先ほどまでの人離れした気配が薄れていた。鳴き声の間で、トキオ、を繰り返す。頭を手で押さえ、痛みや眩みが生じているように見える。
「思い出したか」
 亀男が声を上げる。そして近付いてゆく。断続的に、トキオ、を繰り返し、蛙男には混乱の片鱗も窺えた。
「そうだ、お前の名前はトキオだ」
 そう言うと、背中と甲羅の隙間に手を入れる。抜き出すと、紙切れのようなものが握られていた。
「これが、お前のお爺さんだ」
 このくだりで大体の察しがついた。手に入れるべきものは見つかり、あとは現状をどうやって打開するか、だが、あれほどの怪人が二人だ。蛙男が本調子でなくとも、さほど難しいことではない。しかしいくら設定や展開に安易な傾向があるとはいえ、ケアレスミスの可能性も否めない。答え合わせが肝心で、わざわざ二人に近づいて亀男の持つ写真を覗き込む。間違いなくあの爺さんである。事態は収拾を見せ、あとはここから抜け出すだけ、と仕切り向うのちょび髭を見ると何やら揉めている。社員を怒鳴り付けているようで、腕を振りかざしていた。何かしらの指示を出しているようにも見え、怒鳴られている社員はそれでも躊躇しているようにも見える。周囲に気まずさが満ち、怒鳴られた社員も渋々何かを了承したようだった。機嫌を取り戻したちょび髭は、先ほどまで振りかざしていた手で髭を撫でながら満足そうにこちらを見遣る。高みの見物の続き、というわけだろう。様子の詳細が一切分からないまま展開を待つしかないはずだが、ご丁寧にスピーカーからちょび髭の声が聞こえた。
「このまま無事に帰れると思ったかね」
 この手の人間は自己顕示欲の強さから、言わなくてもいいことまで喋りたがる。その特性に乗じて、物語の向こうから状況説明させている魂胆が見え見えで、白ける気持ちを否定できない。
「文句ばかり言いおって。文句だけなら猿でも言えるのだ。解決策の提案まで用意してから文句を言え」
 さりげなく物語向こうの奴が差し挟む。濫用も甚だしい。文句を言う気も失せたので、とにかく先へ進めて欲しい。
「ふん。とにかく、怪人がまだいる。三号だ」
 投げやりな進行に大人げのなさを思い、怪人に頼りすぎる展開にも釘を刺す必要がある。轟音が響く。どうやら開きっぱなしの壁とは違う壁が開くらしい。今までなかった直線が現れ、同じように観音開きで割れ、とここまでは一緒だった。今度は人影だけでなく、まずは檻のように見える影が目に付いた。それは振動と共にこちらへせり出す。間違いなく檻で、その中にいるものは規格外の存在だ。
「鰐男だ」
(続く)
【次の話】
第13話 https://note.com/teepei/n/ndbb3c4e68e05

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