見出し画像

豊田道倫レコ発ライブ~生と死と~ 2023.9.7 @WWW


 そのレコードはvinylのベスト盤でしかも2タイトル同時発売。今日の会場物販で先行販売され初めて世に出る。そういうタイミングで渋谷WWWで行われた「まわる人生のステージを、レコードの針から眺めて、綺麗ね」と題した豊田道倫/パラダイス・ガラージのレコ発ライブは、オープニング・アクトの柴田聡子の弾き語りで始まった。続く対バンの山本精一& THE PLAYGROUND EASTが上質な「さすが」と唸らせるアンサンブルを聴かせてくれた。

一般発売は2023年9月13日

 もうこの時点で21時近くになっていた。ベスト盤2タイトルのレコ発だからキャリアを包括するようなセットリスト?を期待しつつ、持ち時間が短すぎるだろうなというのは始めからわかっていた。そうとはいえ果たしてどんなオープニングで来るのか?パラガのライブにおける曲順は大いに意味があり重要であることは昔聞いた覚えがある。1曲目は何か?DJのボリュームが絞られ照明が落とされ鳴り響いたのは硬質なドラムマシンのビートだった。「Letter From Gotham City」だ。ただインストに近いこの曲はオープニングSE的な使い方であって、実質的な1曲目をフロア最前列で暫く待った。ステージにメンバーが現れる。今日のMTはエレキ。長年使い込んだいつものFenderテレキャスターが奏でるコードで幕を開けた。
「もっと生きたかった」
で始まる「ブルーチェア」だ。2013年リリース「mtv」に収録されている。後から気付いたのだが、この曲はいずれのベスト盤にも収録されていない。過去パラガのレコ発ライブで当該Newアルバムから1曲も演奏しなかったことを経験しているので驚きはしない。ただ何か意味あっての選曲には違いない。今目の前で繰り広げられている「ブルーチェア」は、ギターの冷牟田敬が身体をくねらせながらマーシャルにつないだFenderジャガーでブルー・チアーかと思うくらいの爆音を発するというHis Band!のスリリングなアレンジだ。冷牟田の自由奔放な奏法を見るにつけ、かつて何度かパラガとの共演もあり、ピュアで自由で束縛されないままあちらの世界に逝ってしまったミュージシャンBunさんに想いを馳せた。「ブルーチェア」の歌詞は母親より先に生涯を終えてしまった志半ばのミュージシャンのことを歌っている。これは10年前に亡くなったBunさんことBUN666(西堀文啓)のことだ。なぜこの曲が、収録されていない新譜のレコ発ライブのオープニングナンバーに選ばれたのか?ライブの4日前にMTがツイートした一部を抜粋する;

音楽の神様の使者のつもりが、いつの間にか死者になってしまった人たちも見てきた。ピュア過ぎるのは危険。
作ることの快楽に浸るのは完パケして1秒だけにしとく。

https://twitter.com/mtrock_/status/1698104545946259835

 「死」と音楽に触れている。そして今日のライブMCで告白していたが、今週MTは喘息が悪化して救急車で病院に運び込まれている。幸い大事には至らなかったが当面絶対安静で東京へ移動してライブなんてとんでもない、と診断され入院したようで、その時か病院を出る時の看護師との会話を録音していて、この日アンコール演奏を始める前に音声を披露するという余裕も見せてはいた。パラガらしい。上述のツイートが入院沙汰を受けて書かれたのかは不明だが、そうやって考えていたらつい先ほど素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれた山本精一は演奏中即興気味に「死にたくない!」と絶叫したし、またMTも5日前にサブスクで配信リリースしたNewシングル「kiss & hit」で「死 ぬ な」と今日のステージでも歌っていた。話の飛躍を恐れずに書き進めるなら、我々は直近数年間、未知の感染症や終りの見えない戦争を目の当たりにして「生と死」を意識することが増えたのではないか。多くの人は自分は死にたくないし、愛する人には死んで欲しくないだろう。妄想を膨らませるなら、今日のライブには「生と死」という壮大過ぎるテーマも横たわっていたのではないか。偶然が重なっただけかもしれないが、オープニング曲「ブルーチェア」の意義を考えていくうちに、在りし日のBunさんを思い出し、またそういう選曲をしたMTに対して胸がいっぱいになった。
 
 これらはライブ後に自分の頭の中で勝手に膨らんでいったもので、ライブ中はそんな状態ではない。なにせ最前列である。会場のWWWの秀逸な音響を堪能したいのであれば会場中ほどから後ろ辺りに居るのがベスト。PAスピーカーからクリアに増幅された各パートの音が聴ける。でもなぜか最前列にポジショニングした。音響云々より久々のMTを間近で見たい。増幅された音ではなくギターアンプ直の音を聴ける。初っ端の「ブルーチェア」から冷牟田がトバしまくっている。最高の予感。2曲目は2nd収録の代表曲「UFOキャッチャー」。mtvBANDとは異なるアレンジが面白い。と、順調に来たと思ったところ、全身を自由に動かしながら爆音を奏でていた冷牟田のジャガーのストラップが外れがちで、何度目かでボディが完全にステージ床に落下してしまった。年季の入ったギターだから衝撃で物理的におかしくなってしまったのだろう。冷牟田が何度も何度もチューナーとにらめっこしてチューニングするも、すぐに狂ってしまうようで延々とチューニングしているのでプレイに復帰できない。アップテンポでまさに冷牟田のギターが欲しかった「I Like You」ではついに一音も出せず(!)。最前列のデメリットは、そういったステージ上のトラブルが間近なため、気になり過ぎてしまう。正直、中盤は冷牟田のギターが心配で「早く、早く」とそっちに視線がいってしまった。ちょっと中盤のセトリを覚えていない(苦笑)。まぁしかし何とかギターが復活し終盤は本編ラストがMVが公開されたばかりの新曲「アンダーグラウンド・ビーチ」、そして声をふり絞っての「I Love You」、アンコールのラストはポップな「うなぎデート」だったかな。今書いた3曲のうちベスト盤収録は1曲だし、やはりレコ発と銘打ったライブでも、セトリは自由なのだ。客は拍手で2度目のアンコールを催促したがDJが始まり客電がついて終了した。

新作CD-R「暮らしの練習帳」もこの日発売に

 自分が過去見慣れていた東京ベースのmtvBANDと、MTが大阪に移って以降の関西ベースのHis Band!の違いも興味深かった。前者は狙撃手(スナイパー)のようなドラマー久下惠生が背後からMTの命を狙う、Bassの宇波拓も相当な曲者、音はソリッドで攻撃的。一方で後者はもっとバンド然としており、Bass中川昌利、Drums岡山健二、Guitar冷牟田敬、Synth宇波拓の互いが作り上げている感のあるグルーヴ。東京限定か、宇波拓のピアニカ、モジュールシンセは良いアクセントだった。
 最後にもう1点、今日のライブは動画/写真撮影禁止だった。最前列だと気にならないが、やはりスマホをかざす明かりが客席フロアでちらちら見えるいつもの光景は好きじゃないな。撮影禁止歓迎派です。


 (敬称略)※MT=豊田道倫さん


Bunさんが亡くなった後リリースされた唯一の公式音源CD「GIRL! The Last Demo Recordings」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?