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偶然の旅人

この短編集、初めて読んだのは7年ほど前だった。新刊が出ればすぐ買って読む程でもなく、全作品読破しているわけでもないが、村上春樹の書くものは長編、短編、エッセイと今まで読んだことのあるものはいずれも好きだ。なので、まだ読んだことなかったこの作品の単行本を古本屋でたまたま見つけた時には迷わず購入した。

「偶然の旅人」はこの本に収録された1つ目の短編。のっけから引き込まれた。この物語に出て来る偶然はいずれも不思議ではあるが誰しも一度は経験したことあるかもしれないと思えるもの。「あ、そういえば私にもこんな事があった…」と話を繋いでいけそうな程度に。

読んだ本の内容やあらすじは片っ端からどんどん忘れてしまう私でも、この短編の内容はいつまでも記憶の片隅に残った。

時は流れ、アメリカ、メキシコ、そして日本に帰国と住居を転々としている間に古本屋で購入した1冊目の「東京奇譚集」はどこかに行ってしまった。

先日ふと、あのマサチューセッツ州のジャズ・クラブや東京郊外のショッピングモールにあるカフェやらで起きる偶然の出来事が散りばめられた村上春樹の短編がまた読みたいと思った。早速近所の古本屋に行ってこの文庫をゲット。

「偶然の旅人」には初めて読んだ時と同じくらいに引き込まれた。読んだ先にどんな偶然が用意されているのかわかっていても。

以前読んだ時にはそこまで印象に残らなかった他の収録作品も再読して改めて面白さを発見。

特にこの短編集を締めくくる「品川猿」は逸品。人の名前と共にその名前に付帯するネガティブな面を盗む猿は物語の最後に品川から高尾に車で連れて来られて放される。
高尾の近くに住む我々は名前を盗まれないように気をつけねば!

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