見出し画像

小説 上京物語 第1章 新卒半年で退職

これは東京に住んだらキラキラした未来が待っている!と夢見た女の子のお話。

みかこは自由になりたかった。

親の期待、つまらない価値観を押し付けてくる大人たち。

同郷の男の子たちは話も生き方も本当につまらなかった。

唯一刺激的だったのは大学時代にアルバイトとして働いたキャバクラでの接客。

ずっと優等生で生きてきたみかこにとって、初めての別世界。

今までいい子扱いされてきたみかこが金髪にしたら「バカっぽい」と言われるようになった。なんだか自由になった気がして嬉しかった。

自由になりたい。もっと魅力的な人と会ってみたい、もっと素敵な自分になりたい。そう思って、とにかく東京で就職できるならどこでもよかった。

運良く就職できた(上場企業)就職先は塾業界だった。

親は心配していたけど、上場企業ということで安心しているようだった。

研修を受けて、一生懸命勉強したけど、周りの子たちのレベルに圧倒された。なんだか素ですごいなぁ…って、気負いする日々。

配属先が東京に決まり、一安心したものの、仕事に忙殺される日々だった。

その頃みかこには結婚を前提に付き合っている遠距離の彼氏がいた。遊(ゆう)は翌年、東京にきて一緒に住むことが決まっていた。遊と一緒にいれば、私はずっと安心して幸せでいられる。大好きな彼氏…だったはずなのに…新卒激務のみかこと、就職試験中の遊は、最近あまり噛み合っていない。

遠距離恋愛だから、会える時は楽しく過ごしたい。変な空気になりたくない、という気持ちから言いたいことを飲み込むようになったせいかもしれない。遊は人生最後の夏休みという感じで、試験勉強しつつも盛大に遊んでいた。

そんな中、みかこは職場のアルバイトの子たちとうまくいっていなかった。年は1つしか変わらないのに、自分が社員として引っ張らなくちゃいけない、話をちゃんと聞いて飲みにってコミュニケーションとって…と、頑張りすぎていた。それが裏目にでたとき、みかこは4月からずっと気を張って仕事に取り組んできた分、限界も早かった。東京という慣れ無い土地にも、頼れる友人もいない環境にも。職場にいても涙が止まらないようになってしまい、限界だった。

このままじゃ鬱になる…その前に環境を変えないと…。

そう思った時にはもう退職を決めていた。そしたら気持ちが楽になった。

職場の先輩たちがみんなで説得してくれた。親身になって相談にも乗ってくれた。ありがたい環境だったのに、素敵な人がたくさんいる会社に入れたのに、頑張りたかったのに…。

同期の中で一番早く退職したみかこは挫折組になった。

まず、3年はつとめないとな、と言われている言葉にひどく違和感を覚えた。

就職なんて恋愛と同じようなものだ。相手がいて、相性が合わないのに付き合い続ける必要はどこにある?そう自分に言い聞かせて、とにかく休むことに専念した。何も無い日々は恐怖だった。みかこと同い年の子は今日も働いている。なのに私は家で一人。

遊もたくさん励まして支えてくれた。

このまま遊と結婚して、パートでもしながらのんびり暮らしていけたらいいな…。そう思っていた矢先に遊から土下座された。

「みかこ!会社をやめても、今、俺のところで一緒に住むのはやめてほしい!」

「え!?」

「今やっと就職試験も終わってのびのび遊んでいるのに、みかこが一緒にいたら気を使うから…」

そんなこと頼んでも無いし、そんなつもりもなかったのに…悲しくてショックで…遊への不信感がつのった。

私が人生で一番の挫折を味わってしんどい時に、こんなこと言われるんだ…。この人は頼らない。ちゃんと就職しよう、第二新卒で頑張ろう、と心に決めたみかこだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?