見出し画像

やぎのズラテーを読む

わたしの、ここのところの日常は、とても困ったことになっている。端的に言えば、体調不良で、働くことが難しい。

体を思うように動かすことができない。月曜日に病院に行って診察を受けたけれど、障害でもあるし、薬を飲んですぐに治るような病気でもない。ただ、その症状は薬によって緩和されたり、抑制されたりする。

それで、おとといは薬を多めに飲んで(これは主治医の許可をもらっている)仕事に臨んだのだけれど、思わぬクレームを受け、パニックを起こし、勤務中に動けなくなってしまった。

店長がそのやりとりを横で聞いていたのだけれど、どう聞いてもわたしに落ち度はなかった、と言ってくれたので、そこはほっとしている。そういうリクエストを受けたら、この作業になりますよね、というやりとりだったのだ。
すぐさま、代わりの人を立ててくれた。わたしはバックルームに駆け込み、長いこと動けないまま、うずくまっていた。

その日は、何度か動けなくなりながらも、時間を全うし、帰宅する。それでもダメージは大きかったみたいで、昨日は、結局、欠勤することになった。

今日は、もともとお休みなのだけれど、体調は優れず、体のこわばりも取れていない。

体調不良が甚だしいので、ここ数日、spin a yarnなど、小さな物語の投稿を控えていた。書きかけの原稿が日をまたいだ時、ちょっと気力を失った。それが理由だったかもしれない。

2、3日、何も書かないことで感じているのは、それもあまりいいことではないな、ということ。誰かに読んでもらいたい、という気持ちも強いし、やっぱり書くことは自分の喜びに他ならない、ということ。


ものを書くことで、世界の秘密に迫りたいと、本気で思っている。


アイザック・バシェヴィス・シンガーの「やぎと少年」という童話を読んでいる。その本の最後の物語に「やぎのズラテー」というお話がある。

アイザック・バシェヴィス・シンガーの物語が好きだ。読んでいると、ユダヤ教の世界に足を踏み入れることができるような気がするからだ。立ち込める濃密な空気、香の匂い、食べ物の匂い、灯火の油の匂い。勝手に入り込むな、という人もいるとは思うのだけれど、アイザック・バシェヴィス・シンガーは、いいからこっそり入って、座っていなさい、と誘う。

やぎのズラテーは「めええええ」としか言わない。

ズラテーの言葉は一つしかありません、でも、そのひとことにこめられた意味は、たくさんあります。今、ズラテーはこう言ったのです。「わたしたちは、神さまがお与えてくださるものを、なんでも受けなければならないのよーー暑さも寒さも、飢えも満足も、光も闇も

ズラテーはとても賢い。わたしは、これが本当の知恵だと思っている。もし、その場にいてズラテーの言葉が分かったら、彼女にアーメンと言っていただろう。

わたしは、作家やデザイナーである前に、クリスチャンであると自負している。まだ肩書きに作家というものを帯びることを許されてはいないけれど、仮にいつかそういう名誉が与えられたとしても、一番はクリスチャンであることが大事だ。

わたしは、神様がお与えになるものを、なんでも受けなければならない。辛く苦しいことも、身の丈に及ばない栄誉も。

毎日、死ぬことを考えている。死にたいと思っている。それが信仰者として間違っていることも、当然分かっている。

それでも、苦しい。

自殺などしないだろう、と高をくくっているけれど、ほんのちょっとしたはずみで、あ、死のう、と考えることもあるだろうと思っている。

自分はとても危うい。だから、また、毎日、新しい物語を紡ごうと思う。それくらいしか足跡を残せないのだ。別に足跡を残す必要もないと思うけれど、やっぱり、心の中に住む「わたしたち」が物語にせよ、と騒ぐし、「インクの子どもたち」がわたしたちを描いて、とせがむ。

誰に忖度することもない。自分の内側の声に、わがままに応えればいいのだ。

生きるために書く、と言うと大げさすぎる。でも、それでしか自分の輪郭を見出せない。

どうせ死のうと思っているのなら、素敵なことを書き散らしてから死んだほうがいい。わたしひとり素敵と思うのでもいいや。どっちにしろ滅びる。

たんぽぽ色のセロファンの向こうに青い星、またたく

こういうのを、思い描いて、うふふ、となっている。それでいいや。わたしは、好きよ。いとおしいガラス玉たち。

今も、苦しい。手は硬直する。
そういう、手招く不幸を裏切って、ふふん、と笑う。


冒頭の写真は、この前、ちょっと意地悪をして、Instagramにだけ載せるよ、と言っていたもの。結局、我慢できなくなって、こちらにも載せちゃうんだ。
素敵でしょ。わたしは、いい写真が撮れたなあ、と思って、見せたくなっちゃったよ。

離れてゆくわたしたちを、ひとりずつお披露目する。その結果、自分が空っぽになったなら、よかったじゃない。嬉しい滅びよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?