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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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#midjourny

【spin a yarn】

【spin a yarn】

湖に潜る。湖面から離れるにつれ静かになる。自分の呼気と鼓動がやかましくなる。それらの合間を縫って空耳の歌が聞こえてくる。歌を聞こうと呼吸を止めれば、それはやみ、たまらず息をつぐとまた聞こえる。フェアリーソングと呼ばれる現象。時折、笑い声も響く。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

【spin a yarn】 に、妖精は翅で飛んでいるのではない。だから獣の形をしていても、飛ぶことに不自由はないはずである。女王はゆったりと飛ぶ。生の初めから政の能力に長けていることは、いつでも不思議なことに思う。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

産み付けられた卵が冠を戴くことがある。見つけると妖精たちは、その卵を大切に守る。自分たちを統べる女王が生まれる証であるから。複数育つこともあり、その時は争いの時代の予兆となるが、あらかじめ壊してしまうようなことはしない。畏れを粛々と受け止める。

【spin a yarn】

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水中に棲む妖精は、飛ぶことよりも泳ぐことに重きが置かれる。そのため翅を持つ者は少なくなる。元々、衣服のような表皮を持ち、体全体をしならせて泳ぐ。衣服はないものの装飾は好きで、きらきら輝くものを水底で集めている。加工して特別な時に着けるらしい。

【spin a yarn】

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妖精の仲間のうちには、翅の代わりに獣を持つ者もいる。飛ぶことができなくてつまらなくないかと問えば、いつでもついて来てくれるから可愛くて嬉しいの、と屈託ない。彼女は犬のような姿にモロモロと名前をつけている。獣がとことこ歩く姿は、なるほど愛らしい。

【spin a yarn】

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メカウスという花は「カエルの水浴び」という意味で、おちょこのような形をしている。それを摘むのは子どもたちの仕事。たくさん重ねられるので運ぶこともたやすい。稀に蜜を湛えた花弁があり、それを見つけた妖精は夢中になって飲む。回し飲みにも都合のよい形。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

人がバレエを踊るのを見て妖精たちも真似をする。翅を持って飛べる分、動きはダイナミックになる。体系づけるということをしないので、いつまでたってもお遊びのままだけれど、その無垢が連なっていると不思議に胸を打たれる。
取りこぼした過去が私を見ている。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

白詰草の野を散歩する。花が密集する場では、埋もれて昼寝をする。鳥をやり過ごす。 いくつか花弁を持ち帰る。薬にすることもあるけれど、乾燥させて、インテリアとすることも多い。星の光を滴らせれば仄かに光る。ベッドの脇に置き、常夜灯として重宝する。

【spin a yarn】

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その妖精は卵から生まれる。花の根元に産みつけられ、それはやがて花弁を残し植物を吸収する。各々、違った花弁を戴くので、生まれた時には、その花にちなんだ名前を付けられることが多い。カドリンシャ、オオバァス、ネコュ。大人たちは衣服と粥を用意する。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

地に届いた星を集める仕事。星は丸みを帯び、仄かに光っている。私たちにとって貴重な資源。夜を照らすだけでなく、薬にもなる。
毎晩、流れ星を追いかけて飛ぶ。星のかけらが、眠る兎の額にある時の喜びと緊張。
星を小瓶に詰める時、音が翅を震わすのが嬉しい。