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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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#twnovel

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精は、洋服に触れるとすでにそれを着ていて、いつも不思議な気分にさせられる。とても便利ね、と言うと、人も洋服に霊を分けてあげればいいじゃない、と答える。なるほど、洋服もその妖精の一部であるのか、と納得する。納得してもそれはできない。羨望である。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

素敵な予感の形
砂糖菓子でほころぶ瞳
私の妖精は、そういう姿をしている

【spin a yarn】

【spin a yarn】

地上に降った星は月のように振る舞う。妖精はその特性を生かして、各々の星に合わせてカットする。研磨された中で質のよいものは女王に献じられる。装飾にするとも薬にするとも言われる。研磨された星から出た星屑は人の薬となる。瞳の曇りが少し晴れるという。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

腕の先ではばたく者は、その翅で舞を踊る。その舞について聞いてみても、意味はない、と答えるだろう。それにしては情熱的で、とても感情的に見える。美しいなあ、と口にすると、こちらに飛んできて、鼻先を翅で包む。柔らかく熱が伝わる。指先で拍手を送る。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

湖の底に沈む星を集める妖精。星は溜まる一方なので、湖の底はさぞかし明るいのだろうと思う。人に降る星が集められたらどんな細工をするだろう。どんなものを作るだろう。妖精よりも躊躇いなく、どんなことでもするだろう。人は確かに特殊な生物だと感じる。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精が人の洋服を仕立てるようになったら、忽ちハイブランドに名を連ねるのではないかと思う。戯れに、半ば本気で、私の洋服を作ってくれないか頼んでみる。布を着丈分用意してくれたら作るよ、と請け合ってくれる。それから半年経っても布のまま。気長に待つ。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

「かなへび座」「おばけ座」「ドーナツ座」妖精達は拾った星で、地上に好き勝手な星座を描く。「マフィン座」「クッキー座」それは次第に食べたいおやつ座になっていて、叫び声のような歓声をあげて、お菓子の名前を言い合っている。「プリン座」「マカロン座!」

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精は霊として淡々とあり、奇跡も魔法も行わず、ただ不思議を行う。主をあがめ、御言葉に従い働いている。雪の中の羽ばたきが、何かをもたらすことはないと思うけれど、妖精の存在は、確かに人の生活に作用する。眺めていると、それがあるということだけ分かる。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精の羽ばたきが少し変わったような気がする。相変わらず雪を透過させて体を光らせているけれど、その光り方が変わったような気がする。尋ねれば、えー、全然違うよ、という答え。雪の中の水分の量が違うから、光り方も雨に似たところが出てきているんだよ。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星の滴り、春の間近いことを覚えて妖精は踊る
そこから、一段寒さが増すことを覚悟して
しかし、もう心に宿った春はとめどないと
星の滴り、たちまち凍ってしまうけれど
撫ぜれば丸く、わんわんと音が鳴る

【spin a yarn】

【spin a yarn】

踊って世を明かすようなことが
少し酩酊するようなことが
妖精にもある
特別な日ではないと
ただ踊りたくて踊ったと
人の知らない酒が振る舞われ
それは星の匂いのするという

【spin a yarn】

【spin a yarn】

触れた春は、触れた分だけ遠のく
それでも、また近づいてくると
永遠に閉ざされるようでも
妖精は慌てず、時を待つ
それがいつでも、確かに美しいものと
皆、知っているので

【spin a yarn】

【spin a yarn】

枯れ草にも枯れ木にも春を見出し
妖精は、手を繋ぎ踊る
春を呼び覚ますように見え
野うさぎも立ち止まって顔をあげる
聴こえない歌が雪原を渡っている

【spin a yarn】

【spin a yarn】

毎日、冬空の下で遊んでいて寒くないの、と聞くと、寒いね〜、と笑顔でいる。寒い季節は今だけだから、と言う。それに、と続ける。もう春が滲み出してきているから、時々、ぬるい空気にもぶつかるんだよね。もちろんまだまだ子どもだけれど。さっき手を繋いだの。