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2023年3月の記事一覧
【spin a yarn】
昔、大きな雲の足に踏まれた。体に異常はなかったが、その後、毎日が不安に覆われるようになった。いつの間にか、それは去っていたのだけれど、今も春先になると調子を崩す。妖精が匙にスープをくれる。飲むと雲の切れ端がまだ髪の毛に絡まっていることに気づく。
【spin a yarn】
綿菓子のような花と戯れている。妖精は春の日のベッドにするという。「香りがいいの」両手いっぱいに綿を持ち、そばに広げ横たわる。鳥に注意してと警告すると、うん、と言って姿を消す。寝ている間にうっかり体を現さないか、はらはらする。冷たい風が吹き抜ける。
【spin a yarn】
花のふりをしている。
擬態とも呼ばれるけれど、何かのためというよりも楽しみのためにしているように思う。私が見つけると、妖精ははにかむ。どんな気持ちか尋ねると、嬉しい、と返ってくる。花は喜んで咲いているから。照れたようにして飛び去る。私は花を仰ぐ。
【spin a yarn】
時々、妖精が耳元で囁く。
いつも私の知らない言葉を。
そして笑っている。
からかわれているのか、と思うけれど、そうでもなさそうだ。耳たぶに口づけをして飛んでゆく。
規則性を見出そうとして記録している。嘆きの日記の隣に、それはよく書き留められている。
【spin a yarn】
咲く花を惜しげもなく摘んでゆく妖精たち。
春の花々は繊細で私は摘むことを躊躇するのに。
それでも、と思う。妖精の庭は人の世界と違って、星も花もふんだんにあり、果てがないように見える。
「摘めば摘むほど増えるから」
人の理の外にこの庭は広がっている。
【spin a yarn】
降る星の幾つかは花を咲かす。
花畑の雲を通ったのよ、と妖精が言う。
種星からはよい薬が採れるの。眠りの間に抜け出す霊の衣よ。着せてあげれば棲家に帰れる。
私の中にもいる?
妖精はじっと睨んで、悪い霊には着せてあげない、と言う。私は礼拝堂に足を伸ばす。