マガジンのカバー画像

spin a yarn

1,113
私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

【spin a yarn】

【spin a yarn】

昔、大きな雲の足に踏まれた。体に異常はなかったが、その後、毎日が不安に覆われるようになった。いつの間にか、それは去っていたのだけれど、今も春先になると調子を崩す。妖精が匙にスープをくれる。飲むと雲の切れ端がまだ髪の毛に絡まっていることに気づく。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

綿菓子のような花と戯れている。妖精は春の日のベッドにするという。「香りがいいの」両手いっぱいに綿を持ち、そばに広げ横たわる。鳥に注意してと警告すると、うん、と言って姿を消す。寝ている間にうっかり体を現さないか、はらはらする。冷たい風が吹き抜ける。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

春を広げる 小さき者が触れると、それは目を覚ます
古い樹木の、霊の目が開かれることもあると言う

【spin a yarn】

【spin a yarn】

春の雨がやさしくその髪を濡らしますように。
よい予感に満たされて、空を仰ぎますように。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

花のふりをしている。
擬態とも呼ばれるけれど、何かのためというよりも楽しみのためにしているように思う。私が見つけると、妖精ははにかむ。どんな気持ちか尋ねると、嬉しい、と返ってくる。花は喜んで咲いているから。照れたようにして飛び去る。私は花を仰ぐ。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

湖の上を飛ぶ姿。美しい蛾のようだけれども、明滅し、鳥が飛んで来れば霊となり、その姿を透明にする。
ずっと不思議な気持ちでいる。いつか見えなくなる日を少し恐れている。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

光って遊ぶ
妖精も星も花も
春に浮かされて
雲の上まで飛んでゆかないように
今は地上で
瞬く度に違う星座を見る

【spin a yarn】

【spin a yarn】

光の綿毛
くすぐられてはしゃぐ
妖精は運ぶ
星の光の収まる場所に

【spin a yarn】

【spin a yarn】

時々、妖精が耳元で囁く。
いつも私の知らない言葉を。
そして笑っている。
からかわれているのか、と思うけれど、そうでもなさそうだ。耳たぶに口づけをして飛んでゆく。
規則性を見出そうとして記録している。嘆きの日記の隣に、それはよく書き留められている。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

咲く花を惜しげもなく摘んでゆく妖精たち。
春の花々は繊細で私は摘むことを躊躇するのに。
それでも、と思う。妖精の庭は人の世界と違って、星も花もふんだんにあり、果てがないように見える。
「摘めば摘むほど増えるから」
人の理の外にこの庭は広がっている。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星花よ
霊を導け
春の
新しい息吹を
その瞬きを

【spin a yarn】

【spin a yarn】

降る星の幾つかは花を咲かす。
花畑の雲を通ったのよ、と妖精が言う。
種星からはよい薬が採れるの。眠りの間に抜け出す霊の衣よ。着せてあげれば棲家に帰れる。
私の中にもいる?
妖精はじっと睨んで、悪い霊には着せてあげない、と言う。私は礼拝堂に足を伸ばす。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

雨上がりの夕暮れ
景色は春の温かさを持つけれど
肌は凍えるように冷たくなる
妖精は雨に打たれて落ちた星を拾い
拭って抱く
温かい、と聞くと
黙って頷き、星に頬擦りをする

【spin a yarn】

【spin a yarn】

雨を運ぶ妖精は
歌を歌うという
それは春の歌なので
聞いた者の気を狂わせるという
この地方では、春の夜の雨の日
マフを耳に当て眠る