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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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2023年1月の記事一覧

【spin a yarn】

【spin a yarn】

朝、氷を奏でる妖精を見る。
子どもの頃、吹雪の中で聴いた歌に似ている。
手袋越しの父の手のひらを思い出す。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

冬の太陽をその翅に受けて、妖精は踊る。その光景は、春のように見える。冬の妖精というのはいるの、と尋ねると、妖精は首を傾げて、仲間だけど仲間じゃない霊かなあ、と答える。触れると凍えて死んじゃうから、近づかないよ。季節に属していて姿がいろいろなの。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

凍った湖の中で、妖精は魚と戯れる。ほとんど霊の妖精を魚が食べることはあまりない。それよりも星のかけらを使って遊んでいる方が楽しい。妖精が星のかけらを魚の口に運ぶと弾けるように泡になる。そのぶくぶくが楽しくて繰り返す。鳥の姿もなく、しんとしている。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

雪の中を駆け回ってきた妖精が、星の貯蔵庫にやって来る。雪と星が合わさっているの見つけた、と言う。年嵩の妖精が、それはあなたの体を通った星と雪だ、と答える。珍しいけれど、薬にならないから、あなたにあげる。妖精はその結晶を大事に胸に抱く。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星の貯蔵庫を走り回り、飛び回る幼い妖精達。星を削り出している妖精は、止めることもなく作業を続ける。幼い妖精が星に触れると、それは震える。次々と星を鳴らす妖精。そこに鐘の音のようなものが響く。見上げれば、槌を持つ妖精が星をかき鳴らし歌わせている。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

それは粉雪か
星のかけらか
妖精に触れると
どちらもまたたく

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精の姿を見失うことはしばしばある。それは妖精が霊であるからなのか、私の心の働きのせいなのかは分からない。どちらも、だろう。心の清さとは関係がない。私が視える時点で、はっきりとしている。探せば見つかる、というのは霊においてより真実なのだろう。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精を見れば、凍える寒さの中にも、どうしても春を見出してしまう。それは喜びのような、しばらく続く苦痛のような。
春も妖精も、ただあるだけなのに、やはり嬉しく。
心に芽吹く春、そっと胸に手を当てる。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

雪に紛れて星の降る
窓から差し出す手に触れて溶けたのは
或いは星のかけらだったかもしれないと

【spin a yarn】

【spin a yarn】

寒いね!と笑顔で駆けてゆく妖精。凍った湖の上で滑って遊んでいる。はしゃぎ回って、転んだりもする。転びそうになった時、飛び上がってそれをかわす妖精は、ずるいよ!と非難される。氷の上では転ぶルールらしい。こちらの心配をよそに元気にくるくる回っている。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精は、洋服に触れるとすでにそれを着ていて、いつも不思議な気分にさせられる。とても便利ね、と言うと、人も洋服に霊を分けてあげればいいじゃない、と答える。なるほど、洋服もその妖精の一部であるのか、と納得する。納得してもそれはできない。羨望である。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

素敵な予感の形
砂糖菓子でほころぶ瞳
私の妖精は、そういう姿をしている

【spin a yarn】

【spin a yarn】

地上に降った星は月のように振る舞う。妖精はその特性を生かして、各々の星に合わせてカットする。研磨された中で質のよいものは女王に献じられる。装飾にするとも薬にするとも言われる。研磨された星から出た星屑は人の薬となる。瞳の曇りが少し晴れるという。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

腕の先ではばたく者は、その翅で舞を踊る。その舞について聞いてみても、意味はない、と答えるだろう。それにしては情熱的で、とても感情的に見える。美しいなあ、と口にすると、こちらに飛んできて、鼻先を翅で包む。柔らかく熱が伝わる。指先で拍手を送る。