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2022年11月の記事一覧
【spin a yarn】
散らかった書斎は、妖精の格好の遊び場になる。本にぶつかって机から落としても、気にせず遊び続ける。身に覚えのある人も多いはずだ。妖精は遊んでいるだけなので特別なことは何も起きない。本当に気まぐれに、書籍の単語に星のかけらを落とすことはあるけれど。
【spin a yarn】
妖精のうちには、翅を分け合うようにして生まれる双子のような存在がある。一人で飛ぶことに支障はないはずだが、手を繋いで宙を舞うのを見かける。いつも一緒にいる。詳しく知りたいのだが、打ち解けてくれない。二人だけで世界が閉じられているように感じる。
【spin a yarn】
外を歩いている妖精に声をかける。寒いから体を壊すよ、と言うと、体は壊れない、と答える。人のように神様の声やその理りを無視している方が体に悪いのじゃない? と言う。私はそれに答えられず、黙った。しばらく妖精と一緒に散歩をする。また雪がちらつく。
【spin a yarn】
注意深くしていると、冬の方が妖精と出会える確率は高いかもしれない。人の家の中で暖を取る者が多くなるからだ。散らかったデスクの上を駆け回る妖精達。気まぐれに化粧水の蓋を開け、星のかけらを入れたりもする。肌の血色のよい時、部屋を見回してみるといい。
【spin a yarn】
私は戯れに聞く。雪を夏まで取っておく方法はないの? 妖精は微笑みながら首を傾げて、まだできない、と答える。まだ、ということは試みたことはあるのだろう。結晶が解けないように言い聞かせても、地上では難しいみたい。それは春の訪れに関わることだから。
【spin a yarn】
雪が降っても星集めに妖精達は出かける。寒くはないか尋ねると、寒いね、でもね、と笑う。私、雪が体を通り抜けるのが、なんだか好きなの。雨もいいけどね、雪は、きらきらするでしょう。体が眩くなって嬉しいの。私は手を差し出す。落ちる雪はたちまち溶ける。
【spin a yarn】
夜のうちに降った雪は積もり、妖精たちはそれを見つめる。幼子たちははしゃぎ回る。それとは別に冬眠に入る個体もいる。その取り決めがどのように行われているのか、まだよく分かっていない。眠る者たちは、起きている者に口づけをし、その後、姿を透明にする。
【spin a yarn】
この季節に妖精は不思議な踊りをする。幼い子のしている氷の上の鬼ごっこに似ている。互いに風を吹かしながら、地につかないように舞い続ける。このことを尋ねると、雪と一緒に踊っているのだと言う。お手柔らかにというあいさつよ、と笑う。私に雪は見えない。
【spin a yarn】
水たまりに氷が張る。その上を妖精たちは、滑るように飛んでいる。氷に触れたら負けという鬼ごっこをする。引っ張ったり、風で飛ばしたり。幼い子は簡単にやられて、氷の冷たさにびっくりしてべそをかいている。妖精がこの遊びをすれば雪はたちまちやって来る。
【spin a yarn】
プリンセスと声をかけられるが、女王の娘というわけではない。その翅飾りが煌びやかで美しいのでそう呼ばれる。妖精の翅は個性的で昆虫のそれに負けないほど多彩だ。美しい翅を持つ妖精はいつでもちょっと得意げ。とはいえ、星や石集めの仕事を怠ることはない。
【spin a yarn】
雪が降ると、妖精はあきらめたような表情をする。すべては去ってしまった、と言いながら普段通りの仕事をする。幼い者たちは、はしゃぎ、飛び跳ねている。何度か冬を渡った者は手のひらをかざし、透過したり溶けたりするのを新しいものを見るように眺め続ける。
【spin a yarn】
冬の足音を聞いている
止められないもののたとえとして。
妖精は身を翻す
冬が来たよ、と小さくつぶやく
その言葉は結晶し、刹那またたいて
冬の足に踏まれる。
今年は大きいねえ、と空を見やり
妖精は棲処に向かって飛ぶ
【spin a yarn】
湖に棲む妖精は、氷に閉ざされる前に、水面に浮かび星を見上げる。星空の夜に、湖面がきらきらと輝いているのは湖の妖精たちが浮かび上がっているためである。人はそれを「みなものまたたき」と呼ぶが、妖精は「星にふるえる」と呼んで、寒さを楽しんでいる。
【spin a yarn】
女王の城の近くで、ふわふわと浮かぶように飛ぶ、妖精に満たない霊を見かける。蝶のようではあるけれど、おぼろで、消えたり現れたりする。女王の城には不思議な霊がたくさん集っているらしい。私の目には見えない。それらが人の侵入を許さないのを想像できる。