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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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2022年9月の記事一覧

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星の粉を撒き、踊る
永遠の自由を喜ぶように
明日、命を取られても
喜んだまま、踊り続ける

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星降る野
拾い集める体は
またたき
やがて透明になる
星は霊の糧となり
足は浮き
空を泳ぐようになる

【spin a yarn】

【spin a yarn】

人が育てた食物を取ってしまうことはどう考えているのかを問う。
うーん、育てたのは神様でしょ? 私たちもお薬を必要な時にあげているしお互い様じゃない? ほら、雀もイナゴもついばんでいる。
生産性という言葉の視野狭窄を覚え、身辺の不思議を確かめる。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

常緑の孤島、そこだけ世界に取り残されたように芽吹きの季節を保っている。人は気づかず通り過ぎてしまう。ただ苔むしているのだと錯覚する。妖精はいつでも若く青い薬草を摘む。
できるだけ多くの種類の薬がある方がいいの。病気もまた、生まれるものだから。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

実りの季節にはしゃぐ。たわわな果実の近くで生まれた者はその実りの色を纏って生まれてくる。その色に染まってゆく果実が嬉しい。妖精は果実の長期保存にも長けていて、小瓶に詰められている。小瓶は人のものなので、その技術は案外、新しいものかもしれない。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

鏡の前に立っている、と妖精は言う。顔を覗き込んだり、腕をかざして衣装の見栄えなどを気にしたりしている。私の目には鏡は映らない。私の手鏡をかざす。妖精はたちまち消える。鏡の中からこちらを見ている。光の鏡は厄介ね、と妖精が言う。君たちのは何の鏡?

【spin a yarn】

【spin a yarn】

水底の輝くものに、降った星も含まれる。湖の妖精もそれを集める。薬にするよりも装飾品になることが多い。いくつか飲み込み、体を光らせる者もいる。星と間違えて手を伸ばし、妖精同士がぶつかることもよくある。その時は、あなたの星飾、素敵ね、とはにかむ。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

祈りを捧げるように踊っている。何をしているか尋ねれば、ハナカマキリの真似をしているのだという。楽しそうにゆらゆらと揺れて踊っている。昆虫は怖くないのか、と重ねて問えば鳥も虫も人も怖い、と答える。でも、そういうものでしょ。言葉が違うのだから。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精の棲む場所が広く感じられるのは、そのスケールのせいではあるのだけれど、それ以上に、人にとって発見が多いからだと考えられる。見知った庭に知らない植物が数多、生息している。私の見聞の狭さもあるが、ひとりではどうしてもその植物まで辿り着かない。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星の採集に出かける妖精の荷物を見せてもらう。ティーセット、これが大事。お茶の時間が必要でしょう。お弁当。もちろん、お昼を食べなくては働けないわ。それとバンズ。森の新鮮な木の実を挟むの。お菓子も! これがないとくたびれてしまうし……、

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星をつかむ話
落ちてくる光の瞬きは
小さき人の手で形を結ぶ
星粥を召し上がれ
病める時は砕き、煎じて
健やかを好む小さき人は
安らいだあなたの頬をそっと撫ぜる

【spin a yarn】

【spin a yarn】

星の野原。妖精が集める星は、植物の発光現象ではないかと疑っているが、花弁の中に確かに光る石が蓄えられている。聞けば、花が閉じる前に落ちた昼の星だと言う。ではなぜそれを人は見つけられないのか。妖精は首を傾げ、こちらをじっと見た後、くすりと笑う。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

妖精には、おっとりした性格の者もいれば、勝ち気な者もいる。好奇心もあり、新しい薬草を作ることもおろそかにはしない。星をはじめとして、特殊な鉱物もみな、薬の材料にしてしまう。霊よりも肉として安定していれば、機械を扱うことも容易いだろうと思う。

【spin a yarn】

【spin a yarn】

食事の前の祈りの時間を妖精の食卓と呼ぶことがある。神に感謝を捧げると同時に施しもしているので、恵まれた時間となる。人の子どもたちはそれを知っているので、つまみ食いをよくするが食べようとしたものが忽然と消えるので戸惑う。不思議を食す機会となる。