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孤独は本当に大切なものを浮かび上がらせる 『ひと』

すごい。とても良かった。「一人の」秋・冬・春と来て、「一人ではない」夏の4章で終わりを迎える。

一番伝えたいこと

実直でありたい。誠実で正直なこと。「実直」の「実」は「誠実」「真実」などに使われるように、「まこと」の意味を持つ漢字です。一方「直」は、「直立」「直進」など「まっすぐで素直」。

テーマ「孤独」

店主、従業員との信頼関係。田野倉に来る客。青葉、剣との変わらぬ付き合い、父の同僚、父の性格。自分は一人ではないことを気づいてゆく。

彼の目が離せないのは、彼が実直であるから。すれ違う人に道を譲る。順番を譲る。我先にならない。自分も実直でありたいと思わせてくれる。

気づいていないだけで、身近にきっかけ、チャンス、縁があることを頭の片隅に置いて生活しよう。そして、自分もどこかで頼られる人になりたい。

頼っていい。

「一人で頑張ることも大事。でも頼っていいと言ってる人に頼るのも大事。」

悲しさ以外の涙もあることを知る。

勝ち組負け組?

はっきり目安があるわけでない。高瀬は勝ち組。聖輔は負け組かもしれない。しかし、本当に人生に勝ち負けはあるのだろうか?

幸せそうに見える人が幸せと限らないし、持たざる者が不幸というわけではない。聖輔の選択肢は少ない。聖輔は選択肢が少ないことを嘆かない。その中から将来を決めている。与えられた環境で生きている。生かされている。そう考えると、勝ち負けもないだろう。生に対して謙虚でいられる。

青葉「頭が良くて悪い人でもない。」
聖輔「高位にいる善人ゆえの鈍感さ」

希望の光は「ひと」だ。

タイトルに通ずるまさに肝だ。

順番も道も譲る聖輔が唯一譲れない人を見つける。その決意は、聖輔の日常を夜の月明かりのように、人生を照らしてくれた。

持っているだけが幸せでないと分かっていても、欲しいものは手に入れたくなるし、その瞬間の満足感は最高だ。いずれ飽きると分かっていても。

「孤独」の教え

孤独は人生において本当に大切なものを浮かび上がらせる。孤独は自分との対話を促し、さらに孤独な時間を研ぎ澄ましていく。孤独だから、そばに人がいるありがたさを知る。

この小説は、孤独を具現化した小説だ。

身が震える。

督次さんに店の引き継ぎを頼まれた時。青葉の優しさに触れる時。つい感動してしまった。

「会ってどうするの?なんか話があるの?」と聞かない。会うのをただ許してくれた。再会した時に道を譲ったのを見て柏木くんだと確信してくれたと言った。クリスマスにベースを。「何もかもあきらめなくても、いいんじゃない?」ベースを譲った時も人にものをあげられるってすごいねと言った。言っちゃえば、店も譲った。

選択肢がないと思い込んでいただけだったのかもしれない。不遇な自分には、働かせてもらっているだけで生きているだけで、十分なんだって。贅沢できる人間じゃないんだって。

大切なのはものじゃない。ひとだ。道もベースも店も譲っても青葉は譲りたくない。とはいえ、青葉の気持ちは尊重したい。他の何より優先したい。だから、選択をしいたりしない。選ばれたら全力で受け止める。それでいい。ただ一つだけ、僕自身の気持ちを伝えるのは許して欲しい。前置きはなし。

「おれは青葉が好き。」


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