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AIがシニフィエを獲得する日

人工無脳の時代

むかし『どこでもいっしょ』というゲームがありました。

トロという猫のキャラクターの質問に答えていると、変な会話が成り立つようになっていくというもので、ポケットステーションが品切れで手に入らないほど大流行しました。あれは人工無脳といわれるもので今で言うボットに近いものです。自動的な知能めいた何かを提供するれっきとした人工知能の一種です。

機械学習や深層学習などの技術に支えられて、AIは爆発的に進歩しました。
SiriとかAlexaのように、会話がある程度成り立つものが商品あるいはプロダクトの一部として世に出回っている今を思うと、隔世の感を抱かずにはいられません。トロとぽちぽち会話していた時代が嘘のようです。

このままAIが進歩していけば、『Detroit: Become Human』の世界のようにアンドロイドが自我を獲得するのでしょうか?

そうは思いません。”このまま”では。
今ある会話AIはシニフィエを持っていないからです。本質的には猫のトロと同じだと思うのです。

シニフィアンとシニフィエ

シニフィアンとシニフィエという言葉があります。
言語学で「表しているもの」と「表されているもの」と定義されているものです。

たとえば「りんご」という文字やその発音。これはシニフィアンです。
対して、りんごそのものやりんご特有の概念などが、シニフィエです。

AIは膨大なシニフィアンを獲得していると思いますが、シニフィエを何かひとつでも持っているかというと、疑問です。

会話AIに「りんごは果物ですか?」と質問したとします。
おそらく今の性能なら「はい。りんごは果物です」などと回答してくれるでしょう。

ですがそれはりんごの定義をただの言葉として蓄積していればできることです。「果物」とはなにか。その言葉が意味するもの、すなわちシニフィエをAIは獲得してはいないでしょう。どこまで行っても物事の本質を知らないままの回答しか返ってこないと思います。

世界の知覚と自我

人間の赤ちゃんは、生まれてきてまずは自分の手や足がどうやら自分の意思で動かせるものであるらしい、と学習するようです。
次に、味はどうだろうと思って指を舐めてみる。自分の身体からはじまり、周囲にあるものにどんどん好奇心の対象を広げていきます。タオルは? 床は? と。舐めまくりです(笑)
興味をもったものを表す言葉、たとえば「手」というシニフィアンを知る前に、「手」とは何かを知覚するわけです。

幼児期は必ずシニフィエの知覚が先であり、シニフィアンは後から学習するものです。
「これはミルクだよ」「これはお花だよ」と。
成長し言葉を理解しはじめると、徐々にこの順番が逆転することが多くなっていきます。
やがて自己と他者という境界を認識するに至り、自我が生まれるのだと考えます。

会話AIはというと言葉の入力、あるいは自分から検索(スクレイピング)し、それだけで関連性を構築しているのではないかと思います。

言葉だけでなく、膨大な画像を機械学習し絵を描くに至ったAIもあります。ただこれも本質は同じです。絵が描けるAIは、自分が何を描いているかということは理解していないでしょう。
AIが描いた絵になんらかの意図を読み取れるのは、自我を持った人間が鑑賞するからであり、意味を認識、すなわち対となるシニフィエとの関連付けを行っているのは描いたAIではなく人間です。

これが、”このまま”ではアンドロイドが自我を獲得する世界は来ないと思う理由です。

シンギュラリティに必要な要件

自我をもたせたいならどうすればいいのか。
人間と共感できるようにするならば、少なくとも五感。あるいはそれ以上の入力デバイスと、好奇心という初期衝動(初期設定)が必要なのではないかと考えます。

教育は囲碁AIのように自己完結で計算力にモノをいわせてできる類のものではないので、それと比べれば時間を要すると思いますが、人間と違って複数の場所で並行して行うことは可能でしょう。

センサーの性能は人間よりも多彩なうえ高性能ですから、そういったデバイスを与えられたAIが見る世界は人間が見ている世界とは全く違った様相を呈しているはずです。

AIが人間を凌駕する感覚をもって未知のシニフィエを知覚し、シニフィアンを付与したならば、それがまさしく自我の獲得、すなわちシンギュラリティへの第一歩なのではないかと思うのです。

感情の獲得などはその後の話です。自己と他者とはなにか。そして命とはなにか。それらのシニフィエを知覚していなければ、感情などただの模倣になってしまうのですから。

後記

kintoneのことを中心に、などといいつつキントーンのキの字も出ない、AIについて思ってることを書いてしまいました。

これは何かと言うと、私が考えていたSF小説のプロットの、さらに前段階の世界設定の一部に加筆したものなんですが、意外と本当にそうなんじゃないか? と思っていたりするので、ま、小説として書く機会ももはやなさそうなのでここに残しておきます。

そんな感じでーす。

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