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思弁進化、或いはいつか起こりえるかも知れない未来の話

(画像は【アフターマン】より)

皆様は【思弁進化】と言う語を御存知だろうか。

オルタネイティヴ・ヒストリー(架空歴史伝記)と呼ばれるジャンルのひとつで、ざっくり言うと遠い未来の自然や生態系、生物を緻密なデータを元に仮想しカタチにする事を指す。
海外の生物クラスタに特に人気なジャンルである一方、日本では恐ろしい位に支持者が少ないジャンルでもある。たまに海外の思弁進化に関する映像がテレビなどで公開されようものなら、クラスタ外の人間からは奇異の眼差しと嘲笑の渦が巻き起こる。そんなジャンルだ。

御世辞にも日本ではメジャーとは言えず、寧ろマイナーの地位に甘んじていたこのジャンルに急速に注目が集まった切っ掛けが、スコットランドの地質学者・サイエンスライターであるドゥーガル・ディクソン氏の名著【アフターマン】である事は、ほぼ間違い無いだろう。
幸いな事に、この作品は他の思弁進化に関する作品よりはクラスタ外の人間の受けが良かったように感じる。朝日テレビの開局40周年を記念して特別番組が作成され、優秀なクリエイターによるストップアニメーションで再現されたドゥーガロイド(ディクソン氏が考案した仮想生命体の通称。命名者は生物学者の故デズモンド・モリス博士)がスクリーンで生き生きと動く様子がお茶の間に届いたからだ。
斯く言うワタクシも【アフターマン】を切っ掛けに思弁進化にハマったクチである。
当時はまだ手が今より動き、絵を描く事が苦痛では無かったから、ワタクシもディクソン氏を真似て随分沢山の未来生物を考案したものだ。…が、周囲の眼差しは厳しかった。スケッチを学校の教師に見つかって生徒指導室でこっぴどく絞られた事もあったし、何なら担任には「そんなものを描くのは狂人の沙汰だ」と面前と罵られた事もある。そうしてワタクシが社会人になる頃には【アフターマン】に関するフィーヴァーは下火になり、ワタクシも思弁進化の事はすっかり忘れてしまっていた。

再燃の切っ掛けはそれから十数年後に突然来た。ディクソン氏が新たなる思弁進化作品を公開したのである。
タイトルは【FUTURE is WILD】。
こちらは前作【アフターマン】よりも更に幅広い時代の未来(500万年後、1億年後、2億年後)を網羅した内容となっており、海外では子供向けにアニメ化までされ人気となった。

これと時同じくして、日本でも見逃せない動きがあった。日本のクリエイターによる未来生物構築が(メインコンテンツではないとは言え)実現したのである。
クリエイターの名前は動物画家の川崎悟司さん。プラットフォームとなるWebサイトの名は【古世界の住人】と言う。
この【古世界の住人】にて、未来生物に関するアイディアを募り、ある時は川崎さんがイラストを起こし、ある時は有志がイラストを提供すると言うカタチでコンテンツが構築されて行った。
実はこの際、ワタクシも有志としてアイディア提供とイラスト製作をお手伝いさせて頂いている。思えば随分な数のアイディアとイラストを提供させて頂いた。またこの頃、ワタクシも過去に考案した未来生物のデータを再構築し、【LEGEND OF FUTURE】と言うブログで公開していた事がある。

だが、残念な事に日本の思弁進化クラスタが集ったこの一大プロジェクトは、次第に下火になりいつか自然と霧散してしまった(【古世界の住人】サイトには未来生物のデータ自体は残されている)。
原因は様々なものが仮定されるが、ワタクシが肌で感じたのは以下の通りだ。

●川崎さんの本業が忙しくなり、未来生物コンテンツにリソースを割けなくなった事
●未来生物のアイディアを募集する過程で「俺の考えた未来生物が最強」と言わんがばかりに設定を盛ったアイディアが集中するようになり、極端な話【最強生物のインフレ】が加速した事
●一部のアイディアに他作品のパロディがあり、それに対し真摯に未来生物を好く方々が辟易して離れてしまった事(これについてはワタクシも有罪である。ワタクシも悪乗りをしてパロディネタを投下した事があるからだ)

斯くして折角芽生えかけた【純日本産思弁進化プロジェクト】は幻と化してしまった。ワタクシも片棒を担いでいただけに、色々な意味で悔やまれる。

そして時は流れ…その後、SNSを通じて世界各地に様々な思弁進化作品が存在する事実をワタクシは知る事となる(最近だと【Serina〜The World of the Birds〜】が衝撃的だった。また、個人によるプロジェクトに至ってはInstagramだけで関連アカウントを5つ程フォローしている)。
他方、日本の思弁進化クラスタは嘗て以上のマイノリティになってしまったようにワタクシは思う(個人的感想。異論は認める)。
実は思弁進化に関しては暖めていたアイディア・構想がかなりの数あったのだが、ワタクシが絵を描けなくなった為に今も具現化出来ずにいる(幾つかのアイディアはpixivで小説として公開したが、最早誰も見向きはしなかった)。
このアイディアを墓場まで持っていく事になるのか、それともアウトプットが可能になるかは、現時点では全くの白紙である。

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