【小説】証【ついなちゃん二次創作】
神奈川県・厚柿市のとある場所。
「あいててて…後鬼、傷の手当てを頼むわ」
「承知しました。先ずは戦装束を脱いで下さい」
赤と黒と橙色の戦装束を身に着けた真珠色の髪の少女…現代に生きるゴーストバスター【方相氏 】・役ついなが、背が高く豊かな髪と肢体を備えた女の鬼…ついなの式神・後鬼に傷の手当てを頼んでいる。
良く見るとその戦装束はあちこちが裂けている。特に背中側が酷い。当然その背には縦横無尽に引っ掻き傷が走り、血が滲んでいる。
「派手に装束を裂かれましたね。後で繕わないと」
「すまんね、後鬼」
ついなが戦装束を脱ぐ。胸部にきつく晒を巻いた白い素肌の上半身が露わになる。その白い肌のあちこちに滲む血の上に軟膏を細い指で塗りながら、ふと後鬼の視線はついなの華奢な腕に移った。これまでの闘いでつけられたであろう古傷が無数に残っている。
後鬼は、痛まし気についなの小さな背中に語りかけた。
「…御主人」
「何や?」
「いつも思うのですが、御主人の腕や手指は古傷だらけですね」
「これまでの邪鬼との闘いでついたものや」
「…古傷を癒やし消す為の、良く効く傷薬がありますよ?御主人も女の子なのですから、傷をそのままにしておくのは…」
「…後鬼」
ついなは振り向きもせずに答える。その声には、いつもの溌剌さは無かった。
「この傷はな、ウチなりの供養の証やねん」
「供養?」
思わぬ言葉に後鬼は怪訝な顔をする。
「ウチは今まで、数え切れん程の数の邪鬼を屠って来た。その中にはな、世の中の理不尽を飲まされて、それが原因で望まず邪鬼に変貌した人もおったんよ」
「…」
ついなの述懐は続く。
「でも、ウチには相手を、邪鬼になった人を屠るしか出来なかった。例え相手が自ら望まず邪鬼に変貌したとしても…や。知っとるか、後鬼。中国の古い伝承。人が虎になる病があって、もしその罹患者が虎の姿のまま人をあやめたら、その人は二度と人に戻れず、死ぬまで虎の姿のまま生きなあかんのや」
「知っています」
「邪鬼も同じなんや。一度邪鬼に変貌し、他人をあやめた人は、どんなカミサマの力を以てしても二度と人には戻れないんや。…そんな邪鬼を、ウチは数え切れん位斃して来た。この傷はな、その時に残されたモノや」
ついなは、そう言うと自分の両腕を見つめた。
「…邪鬼として斃され、墓標も無い、嘗てヒトだった者達。彼等につけられた傷をそのままにしておく事で、ウチは…ウチだけは彼等を忘れんようにしよう、そう思うんや」
後鬼はついなの述懐を聞くと、痛みを堪えるような表情を浮かべ、それから思い出したようにぽつりと呟いた。
「…委細承知しました。但し、肉が裂け骨が見えるような傷は流石に放置しないで下さいね、御主人」
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この一編は、X(旧Twitter)での呟きをまとめ、加筆したものになります。
設定としてはワタクシの二次創作【ついなちゃんTake Me High!】では無く原作【鬼っ子ハンターついなちゃん】に近いものとなっています。
尚、本作を記すに辺り古代モール文明/ぴきーにゃさんのテキスト作品に強いインスパイアを頂きました。この場を借り篤く御礼申し上げます。
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