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いつか観た夢

今から7〜8年程前に、非常に印象的な夢を見た事がある。アイヌ伝承を思わしむる内容だった。夢に見た当時「折角だから日記に残しておくか」と思い、どうせなら語り口調もアイヌ神話風にして書いて見よう…とmixiに記したのが以下の内容である。

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私は風に乗ってとあるコタンにやって来た。

そのコタンでは、村一番のピリカオッカョ(美男子)とピリカメノコ(美女)が、今まさに婚礼の儀式を執り行おうとしていた。

村長が私を出迎えて言うには…

「さあさあ遠くの国から来たカムイよ、あなたもこの二人の婚礼を祝福して下され」

とカムイノミ(カムイへの礼拝)をしたので、他国のカムイではあったけれど私は婚礼の式の末席に並び、居並ぶ人々と共に酒を飲み、語らいあって新郎新婦に祝いの言葉を述べて居た。

ところが、悪いカワウソのカムイが花嫁に横恋慕して、婚礼の席に術をかけて居並ぶ人々を次々と眠らせ、隙をついて花嫁を誘拐しようとしているのが神通力で判った。

カムイはカムイと、人は人と結婚して初めて幸せになるものであるのに、悪いカムイが人の花嫁を拐かして自分の嫁にするだなんて許せない…と私は思ったので、私はぱっと外に出てカワウソのカムイと六日六晩闘い、とうとうカワウソのカムイを押さえつけた。そして私はこう叫んだ。

「誰か悪い刀、粗末な刀をくれ。悪いカムイを退治するのに良い刀を用いると刀が穢れるから」

すると目を覚ました人達が刃の欠けた古い山刀を2、3丁差し出したので、私はその悪い刀でカワウソのカムイに留めを刺した。

カワウソが事切れると同時に、天の方から厳かな声がして言うには…

「他国のカムイよ、例え悪いカムイだったとしても、ただ殺すのは良くない。粗末なものでも構わないからヤナギの木を削ってイナウを作り、それと一握りの酒の搾り粕を供えて、引導の言葉を添えて欲しい」

私は「そうだ、その通りだ」と思ったから、早速天の声、パセカムイの言葉通りに粗末なイナウと酒粕を用意したら、一陣の旋風がカワウソのカムイと供物を巻き上げ、遥か西を目指して飛んで消えてしまった。

これで安心して新郎新婦を祝福出来る、と思ったから、私は新郎新婦に「幸せに暮らしなさいよ」と声をかけて、再び風に乗って自分の国へ帰り、あのコタンの様子を見たら、あの二人は子供も出来、狩りの獲物や山の幸にも恵まれ、幸せに暮らして居るのが判った。

こうした訳で、他国のカムイである私だけれども、美しい花嫁に横恋慕した悪いカワウソのカムイを退治したが、それによって何の障りが起きる事もなく、私は今でも我が国土からあの夫婦を見守って居るのですよ。

…と、アイヌモシリとは違う国のカムイが語りました。

【解説】
※アイヌ神話は、大抵話の主人公の一人称で語られる事が多い。
※「六日六晩」の表現は本当に六日間闘ったと言う意味ではなく、長時間闘った事を示す。因みにアイヌ神話では6は尊い数とされている。
※話中、カワウソの魂が供物を攫って西の方角に飛ぶ描写があるが、これはアイヌの人々は東の方角を良い方角、西の方角を不吉な方角と考えていた事による。
※【カムイ】【パセカムイ】【イナウ】等の語句については【蝦夷幽世問わず語り】の解説を参考の事。

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