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奇跡の復活

2010年の事だから今から13年前の事になる。

国際保護鳥のひとつでもあり、日本では【野生絶滅】にカテゴライズされていたトキ(朱鷺)の飼育個体が佐渡ヶ島に放鳥され、野外で営巣。生まれた雛が無事に成長し、独り立ちしたとの報が巷を騒がせた。

前年に東京都の多摩動物公園にトキが搬入され、非公開エリアで人工飼育により数が増えたのにも驚いたが、このニュースにはもっと驚いた。

中国の山奥に最後の野生トキが残存していると報道された時は、それこそ世界中がざわついたのを覚えている。しかも中国は野生トキの情報が開示された際、極秘裏に飼育技術を確立させ、飼育下で生まれた個体も相当な数を確保していたと言うから二重の驚きである(この辺は繁殖技術が確立されないまま徒に生き残っていたトキを捕獲し、結果的に飼い殺しにしてしまった日本とは対象的である)。
この飼育下生まれのトキが、日本や韓国に預けられ、個体数増加を期待されて飼育されるのはごく自然な成り行きと言える(飼育エリアを拡大するのは、鳥インフルエンザ等の疫病により何処かの国のトキの群れが全滅した時への備えでもある)。
だが、そのトキが斯様にも早く日本の山野に定着するなんて、恐らく誰も想像してはいなかっただろう。斯く言うワタクシは、それこそトキの日本再定着には何百年もかかるだろうと思っていた。

実は、トキの仲間にはこう言う「奇跡の復活劇」とでも言える事例が多い。
知られている事例ではモロッコのホホアカトキ(ウォルドラップ)、北アフリカのハゲトキが良いケースだろう。近年はマダガスカル産のマダガスカルトキの飼育下繁殖に期待が寄せられている。

限られた餌(主に水辺の小動物)を狩る為に特殊化が著しい外見と生態から一部の識者からは「遺伝子的弱者」と謗られ、絶滅は種として弱いが為の宿命みたいに言われる事の多いトキ類だが、彼等は人間が考えているよりもずっと強い生き物なのかも知れない(そもそも日本のトキは、維新後に猟銃の所持が緩和化され、トリガーハッピーと化したハンターに標的にされ数を減らすまでは、害鳥のひとつに数えられる位に個体数が多かったと言われる)。

因みに、大昔は中国や韓国から野生のトキが日本に飛来していた可能性もあると言う(良く嫌中派や嫌韓派が大陸のトキの日本導入を【外来生物の放流】【鳥類版ブラックバス】と謗るのを見かけるが、日本のトキも中国のトキも全く同じ属の同じ種なので、この誹りは全くの誤りである)。
決して友好的な関係とは言えない日本と中国&韓国であるが、トキはそんな事お構いなしなのだろう。
何と言っても野生動物に、人間が定めた「国境」など無意味なものなのである。

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