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【蝦夷幽世問わず語り】パウチ

女淫魔。元々は工芸を司る位の高いカムイであり、ヒトに機織りや匠の技を伝授した存在だが、ふとした切っ掛けで着衣より裸体の方が美しいと考えるようになり、以来、自らの裸体でヒトを誑かしたり狂わせたりする魔物となってしまった。

〈容姿〉
豊かな肢体を持つ絶世の美女とされる事が多い。

〈性質〉
憑物としての性質が強く、しかも憑依したヒトを必ず破滅に導く。
通常は天上にあるシュシュランペッと言う川の畔で踊り暮らしているが、時折ヒトの世界に降りてきてはヒトに取り憑いて狂乱足らしめる。これに憑依されたヒトはそれまで慎ましやかに暮らして居た者が急に人が変わったかのように騒々しくなり、服を脱ぎ捨て裸になって走り回る等の奇行に走るようになる。また、狂わせたヒトを大勢引き連れて各地を練り歩く事があり、そうした行列に引き込まれたヒトの群れは飲食を忘れ淫欲に耽り、終いには死んでしまうと言う。
アイヌ伝承では、浮気はパウチが憑いた事で起きると言われる。

〈備考〉
層雲峡は嘗てこのパウチの砦だったと伝えられている。ある時十勝から来た夜盗の群れが、筏を組んで石狩のコタンに攻め込む途中で、赤いマタンプシ(鉢巻)を巻いた全裸の美女が層雲峡の崖の上で舞い踊る姿を見た。思いがけぬ光景に夜盗の群れは見とれて櫂を漕ぐのを忘れ、そのまま滝壺に落ちてひとり残らず溺れ死んでしまったので石狩のコタンは助かった。この美女の正体はパウチだったと言われる。
また、一部のアイヌの人々は、妖艶で徒っぽい美女を【パウチコロベ】(パウチを持つ者)と呼んで敬遠していたと言う。

参考資料
全国妖怪事典(千葉幹夫著、小学館)
憑物百怪(水木しげる著、学研)

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