見出し画像

【蝦夷幽世問わず語り】兎

兎をアイヌ語では【イソポ】と呼ぶ。但し、海での狩猟・採取を行う人々の間ではこの語句は所謂【忌み言葉】とされ(荒れた海の白波が冬毛の兎を連想させる為だとか)そうした地域では【カイクマ】と言う呼び名を用いる。カイクマには【柴を折る】位の意味が含まれるそうだ。

〈容姿〉
ありふれた兎そのもの。

〈性質〉
地域により差がある。沙流川流域では人々の危機を救う善なるカムイとして登場する一方、釧路では(島根県の【因幡の白兎】のように)トド(別伝ではシャチ)の牙から逃れる為に言葉巧みにトドを騙し、その群れの背中を飛び跳ねて逃れると言う狡猾なカムイとする伝承がある。また兎は大昔は一体の巨大な巫力を持つ幻獣【イソポトノ】だったとする伝承や、元々は鹿の蹄のある足を兎が、兎の雪の上を素早く走る事が可能な足を鹿が持っていたが、兎が言葉巧みに騙して足を交換して現在の姿になった…など、様々なトリックスター的伝承が残されている。

〈備考〉
以下はイソポトノについて解説する。
イソポトノは自らの巫力が絶大な事から、ヒトを侮り傲慢な態度をとっていた。それを怒った英雄ポノオタスツウンクルはヨモギの茎で仕掛け弓を作り、イソポトノの通り道に仕掛けた。イソポトノが侮ってその仕掛け弓を鼻先で突つくと忽ち矢がイソポトノに刺さり、イソポトノはポノオタスツウンクルに捕らえられた上で細切れに刻まれて台地にばら撒かれた。この肉片のひとつひとつが皆小さな兎になってモシリに広がり、今の兎の一族になったと言う。

参考資料
アイヌの民話(更科源蔵著、株式会社風光社)
日本の民話 第1巻・北海道(研秀出版株式会社)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?