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【蝦夷幽世問わず語り】チチケウニツネヒ

吉田巌さんの【人類学研究】に記載がある、残虐なアイヌ伝承の魔物。単にチチケウとも言う。

〈容姿〉
人間に似て体に毛が殆ど無く、僅かに耳と尻尾に毛が生えているとも、ツノのような毛の塊を頭に生やした熊に似た獣ともされる。

〈性質〉
残忍で強欲な性格。平取で萱野茂さんが採話した伝承ではとあるコタンを攻め落とし我が物にせんと兄妹のチチケウが飛来するが、英雄神ポイヤウンペにより斃された。吉田巌さんの【人類学研究】では沙流川流域の伝承として、このチチケウがとある狩りの名人の夢に現れ「出会ったらこうしてやる」と呪詛しながらイタドリを切り刻んでみせた。狩りの名人が構わず山に入ると夢と同じ姿の女が山刀を手に襲いかかって来たので逃れた。何とか振り切ってから改めて見ると、耳と尻尾に毛が生えている他は毛の無い化け物であったと言う。

〈備考〉
野田サトルさんの冒険活劇漫画【ゴールデンカムイ】では、チチケウは【禿げ熊】と訳され、全身の毛が抜け落ち、ヒトを襲う凶暴な熊の個体を示す語として用いられている。栄養不足や疥癬等の寄生虫により痩せて毛も抜け落ちた気性の荒い熊に伝承にある凶暴な魔物の名を与えたのか、それとも前述のような熊が度々ヒトを悩ます事から妖怪視されたのか、筆者には判断がつきかねる(どなたか御存知でしたらご教示いただけますでしょうか)。

参考資料
全国妖怪事典(千葉幹夫著、小学館)
アイヌと神々の物語(萱野茂著、ヤマケイ文庫)

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