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【蝦夷幽世問わず語り】コシュンプ

憑物の一種。同じくヒトに憑依し害を為すパウチ(女淫魔)は位の高いカムイが零落した存在だが、コシュンプは動物のカムイとの関わりが深い。ルルコシュンプ(波のコシュンプ)とイワコシュンプ(山のコシュンプ)に大別される。

〈容姿〉
ヒト(特に若い男性)に憑依する際は美しい女性の姿を取る。然し、イワコシュンプの正体は狐、ルルコシュンプの正体はアザラシ等の海獣であるとされる。

〈性質〉
精神は良くはない。その上惚れっぽく、ヒトの男性に憑依してその精神に異常をもたらす。ルルコシュンプに憑依された者は海水に昆布やトドマツの葉を投じて何杯もガブ飲みする等の奇行に走る事がある。一方で気に入った男性のトゥレンカムイ(憑神)になり、とことんまで良い運命に導く事もあると言われる。

〈備考〉
北見の斜里のルルコシュンプの伝承は有名である。昔、イペランケと言う女性が居り、その夫は狩人だった。その夫がある時、斑模様が美しいアザラシを生け捕って帰って来たが、実はそれはルルコシュンプの化身であり、魅入られた夫はイペランケに暴力を振るうようになった。訝ったイペランケはある夜、鉞を持ち出して家の戸口で待ち構え、夜中に侵入してきた怪しい者目掛けて鉞で斬りつけ、その片腕を落とした。すると翌晩、イペランケの夢枕に片腕の美女が立ち、自分は夫に捕らえられたルルコシュンプだが、今後夫がイペランケに乱暴しないようにするし、イペランケの暮らしに何の不自由も無い位富貴にさせるので、代わりにあなたの夫を私にください…と涙ながらに訴えた。イペランケが目覚めると斬り落とした片腕は失せており、夫も元の精神状態に戻っていた。然し、ルルコシュンプに魅入られたイペランケの夫はその後間もなく謎の死を遂げ、代わりにイペランケは暮らし向きが良くなり豊かに暮らすようになったのだった。

参考資料
全国妖怪事典(千葉幹夫著、小学館)
憑物百怪(水木しげる著、学研)

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