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ネギに聞け

何の本で読んだのか未だに思い出せないのだが、長ネギには精神安定の作用があるのだそうだ。

味噌汁の彩り、魚料理の臭み消し、焼き鳥のアクセント、果てはラーメンスープの薬味…と厨房で八面六臂の活躍を為す長ネギだが、流石にこの事を知った時はかなり驚いた。

だが確かに言われてみれば、例えば仕事帰りで諸々あって頭に血が昇っているような時に、刻み長ネギをどっさり乗せた牛丼をかっこむと(満腹になったと言うのもあろうが)不思議と気持ちが鎮まるし、風邪をひいた時に刻みネギと卵黄を落とした粥を啜ると、何だかほのぼのと体が暖まり回復が早くなるような気になるものだ。

ワタクシは特に喜怒哀楽の起伏が激しく、些細な事で頭に血が昇ってしまうので、長ネギの精神安定効果にはしばしばお世話になる。
以前奉職していた職場に、矢鱈匂いに敏感な(度が過ぎるレベルの)神経症の男が居て、この男がネギを良く食べるワタクシを捕まえて執拗に「ネギ臭い。お前はもうネギを喰うな。これ以上ネギ喰ったら●してやる」と罵倒・脅迫してきていたものだった。流石にこれは向こうが幻臭でも感じていたのだろうと、今になって思う。

ところで、世間には【葷酒山門に入るを許さず】と言う俚諺がある。
仏教の世界での言い回しで、【酒】は言わずもがな、【葷(くん)】とは強い匂いがある香辛野菜…ニンニクやネギ、ノビルの類を指す。特に中国の仏教では【五葷(ごくん)】と言って、僧侶が口にしてはならない5種類の香辛野菜が定められており、長ネギはその中に含まれている。
要するに仏教の戒律では、これらを寺の中に持ち込んではならない…と言う事だが、酒はともかくネギの精神安定の効用を踏まえると随分厳しい戒律だなと素人のワタクシは思うのである(最も一部宗派では酒を【般若湯】と呼び、知恵を得られる尊い飲み物としているが…)。

そう言えば、宗教と香辛野菜で思い出した事がある。
ギョウジャニンニクと言う山菜がある。アイヌネギとかキトピロとか様々な別名を持つ北日本の人気な山菜だ。
ギョウジャニンニクはその名が示すように、葉に強いニンニク様の香気を持つ事で知られている。これを醤油漬けにしたものは漬けられたギョウジャニンニクを賞味出来るのみならず、ギョウジャニンニクの香気が残った漬け汁も調味料(焼肉やチャーハンなどにほんの少量垂らすだけで良い)として活用出来る優れものだ。
この山菜、そもそもは【山籠りの行者が滋養をつける為に用いた】から【行者大蒜】の名がついたと巷説には言われている(諸説あり)。
先に述べた【五葷】にギョウジャニンニクは含まれていない。行者が食べる位だからギョウジャニンニクは山門を潜っても無問題なのか。素朴に疑問に思う。

話をネギに戻す。

少し話は変わるが、ネギには意外な側面がある。
俗に【コンパニオンプランツ】と呼ばれる用いられ方で、畑に特定の作物を植える際、一緒にネギを植えると害虫がつかず、疫病にもなりにくいのだ言う。
近所の菜園で畑の隅にネギが植わっているのを良く見かけたが、よもやこんな理由があったとは。
ネギは食用であるのみならず、こうしたカタチでも農家の人々を支えているのだ。

そんな事を考えながら、YouTubeで初音ミクさんがネギを振り回す動画を見ると、何だかいつもと違った感慨が湧く(そう言えば初音ミクさんとネギの関係性もなかなか面白いものだが、本記事では割愛させて頂く)。

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