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【蝦夷幽世問わず語り】ケソラプ

沙流川流域の伝承に登場する、眼状紋のある尾羽根を生やした幻の鳥。名前は【羽に斑点がある】(ケソ→斑点、ラプ→翼、または羽毛)の意。しばしばクジャクと同一視される(但しクジャクは眼状紋がある飾り羽を持つのは雄だけだが、ケソラプは雌雄共に眼状紋がある尾羽根を生やしているらしい)。

〈容姿〉
概ね、古代中国の鳳凰に似たイメージのようである。人間の子供位ならその腹の下で隠し庇える位には大きい。

〈性質〉
少なくとも邪悪な存在では無い。天界や遠い土地(例えば樺太など)から【まれびと】として姿を見せるカムイであるとされる。一方でヒトの美男子に惚れて、巫術を駆使して何とか配偶者にしようと目論むも、露見して談判の末に降参する等、些か人間臭く俗っぽい逸話もある。

〈備考〉
ケソラプや、パセカムイ(重いカムイ)のひとりであるカンナカムイ(字義は【上天のカムイ】の意で、龍神の事。雷を司る荒神であり、アオダイショウはこのカムイの眷属とされる。姿形は普遍的な東洋の龍と同じように語られる)と言った、大陸特に古代中国の影響が見受けられるカムイについて、アイヌ文化継承に多大な功績を残した故・萱野茂さんの著書に(カンナカムイに絞った記述ではありますが)興味深い記述があるので引用させていただきます。

カンナカムイ(竜の神)はアイヌ民族が生みだしたものか、外来のものを取り入れたのか、よくわかりませんが、外来説は次の二つのコースをたどってアイヌ社会に入ってきたものと思われます。一つは日本本土から渡ってきた漆塗りの器に描かれた絵から想像したのでしょう。もう一つは、日本本土との交易以前にカラフトを経て中国との往来があったらしいので、中国製の竜の絵を見たと思います。しかし、一方でアイヌ民族の想像性の豊かなことは日本語に訳していて、驚くようなことがありますので、アイヌ民族が創作したものとも考えられ、断定はできません。

萱野茂【アイヌと神々の物語】内【七人目の婿】より

参考資料
アイヌの物語世界(中川裕著、平凡社)
アイヌと神々の物語(萱野茂著、ヤマケイ文庫)

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