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読んだ本の感想;山怪

オルタナ系ロックバンドTechnoBreakのボーカルJunの光です!
さて、今週も記事の更新だ、と下書きを開きますと
「読んだ本の感想をnoteに書いてみませんか?」
と表示されていました。
という事で本日の記事も、少し以前話題になった書籍ですが、前向きに書いていきたいと思います!!

併せて、Junの闇が同時執筆中の公式サイトもどうぞよろしく↓

筆者の田中康弘さんは山・狩猟の現場を歩いて取材を25年以上続けているのですが、『山にまつわる小さな逸話集』を保存する必要性を強く感じたというのです。このことを説明した「はじめに」が、やはり田中さんの作家性というか、人間性が感じられる名文だなと感じ入りました。それ以降は、むしろ土地の住人さんの語りになりますから、感じ方や解釈の仕方は彼らに委ねられることになります。田中さんは「はじめに」で動機を述べます。

「話というものは、本来語られることで生き長らえる。それが現在は語る人も聞く人も少なくなりつつあるのだ。」

「薄暗い家の中で唯一の暖房である囲炉裏の周りでは、飽きることなく同じような話が繰り返されたのだろう。テレビも無い時代だから、それが唯一の楽しみでもあった。」

「取材して回った地域のお年寄りたちは異口同音のことを言う。自分たちがさんざん聞かされてきたような山の話、地域の話を、今は誰にもしていないのである。」

「(教育関係者がまとめた冊子や、映像記録された語り部の姿は)しかし、それはいわば完成形であり、私が探し求めているような民話の原石とでも言える小さなエピソードは意識すらされていないのが現状だろう。」

もうこの書き出しの説得力から引き込まれてしまいます。
全然関係ないですけど、私自身麻婆豆腐の食べ歩きを経て『本当に美味しい麻婆豆腐店のリスト』を作る必要があると使命感を得たのと重ねてしまいました。
便乗して同列で語ってはいけないんでしょうけれどもね、スミマセン(笑)

途中ですが、ここから先は一曲聴きながらお読みください。
我々の妄想山生活です。

TechnoBreakで“Utop-Ia”

さて、本編になりますが、山にまつわる小さな逸話の多くに「狐」が登場します。
狐に化かされるというものですね。
読んでいると、この書籍に登場する地域に住まう狐たちの性格が
賢くいたずら好きで、火を操り、美味しいものを狙い、執念深い
などの輪郭を与えられているように感じられます。
言い過ぎを承知で書きますが、八割がた狐の話が続きます。
それを読ませてしまうのは、各エピソードが小説より奇なる多様性を持っているからでしょう。
オチが無いことが、かえってリアリティを与える効果を生んでいます。

そんな狐の相棒のポジションを務める狸の方はというと…
非常に地味な印象です(笑)
しかしながら、意外さや驚きでは狐に引けをとりません。
強い印象を持つエピソードですし、狸のすることに悪意のようなものも感じない可笑しなものなので、ぜひ本文でご覧いただきたいと思います。

もちろん、人の魂、幽霊のようなエピソードも多く収録されています。
これは普通に怖い話として通用するものですし、私自身も体験したく無いものですね。
そんななかで、理詰めで山を覚えていったという比立内の佐藤さんや、お化けとかを一切信じないという鷹匠の松原の話などが丁々発止の様相を呈しており、本書にさらなる深みを与えてくれるのが非常に良いと思いました。

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脱線を承知で、私からも“怪”な話を一つ。

一昨年はプロジェクトの総仕上げの期間で、週の半分は職場で寝泊りしていました。
ソファで寝るのは胸や首が痛くなることを学習したので、後半は医務室のベッドを拝借しておりました。
好意的なお声をかけてくださった先生は「もし泊まるようなことがあったら使って良いですよ」と、その頃は一日置きにベッドを使っていた私に対して、知ってか知らずか言ってくれたのは今となっては良い思い出。
真っ暗な職場の医務室にたった一人というのは、やはり怖いはずなのですが、いかんせん当時の私は『泊まりでやらないと生きていかれない』という強迫観念(笑)がありましたので、恐怖心を全く感じていませんでした。
それに、私自身、見える体質では無いようなので。

しかし、その日だけは違いました。
外がほんの少し白み始めてきた朝4時頃でしょうか。
向こうにある医務室の扉の所で

ぴた…ぴたっ…

という音が聞こえたのです!
すぐに分かりました!
裸足の足音です!
私が夜毎同じ音を立てて医務室を利用しているのと同じでした…。
職場が開くのは7時頃、こんな時間に他の人間は絶ッッ対にあり得ません!
しかも、私がそのことを察するや否や、その足音の主は。

べたべたべたべたっ!!

と激しい足音を立ててこちらへ向かってくるでは無いですか!
今、記事を書いていて少し寒くなってきましたが、その音はどう考えても両手両足で四つん這いになって動いている音なんです!
本当に申し訳ありませんが、無論!目を開いて確認は出来ませんでしたよ!
「見たら死ぬ!」と分かっていましたから…。
“それ”はもう私が寝ているベッドの真下まで来てしまっています。
体が動かないのではなく、身じろぎしたら死ぬという危機感による、逆金縛り状態に私はなっています。

みしっ…みしっ…

ついに“それ”はベッドを上り、私の左右に足を置いて跨ぎながら、下にいる私のことをじっと見つめています。
“それ”の長い髪が、私の頬に触れるか触れないかの位置まで垂れてきています。

『あぁ、女だ…。』

その頃には息もろくに出来ません。
動いている、生きているということを悟られないようにするための、これっぱかりの努力です。
しかし、そんな努力を嘲笑うかのように、私の全身はあまりの恐怖にぶるぶると小刻みに震え出していました。

『許してください!あっちいってください!』

心の中では繰り返し繰り返し念じていました。
しばらくすると女の気配が消えました。
が、周囲がはっきりと明るくなるまでは絶対に目を開けないようにして、アラームが鳴る時間までなんとか微睡の中に落ちていくことが出来ました。
これは私が“本当に”体験した出来事です。

お読みいただきありがとうございました。
終わりに一曲、TechnoBreakで“東京二十三重苦”


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