見出し画像

【小説】ドキュメンタル

当番組は、番組の性質上
ご覧になられる方によっては一部不適切と
感じられる場合がございます。
予めご了承の上、お楽しみ下さい。

過ぎ去りし昭和否平成ノブシコブシ、吉村崇。

踊れ——囃し立てられたお祭り男、宮川大輔。

三人目の大島、児嶋一哉。

袖の下の家畜屠殺器と消音器付き散弾銃、日村勇紀。

二人目の大島、大島美幸。

ガヤ、藤本敏史。

東京では負けない、斉藤慎二。

一体何がゴイゴイスー、津田篤宏。

2012キングオブコント優勝、小峠英二。

風俗に行き過ぎた元画家、ジミー大西。

ご存知、松本仁志プレゼンツ。
参加費用は100万円、“殺しの”バトルロワイヤルである。


一回座ろ。
誰もが口々にそう言う。
死を恐れているのか。
この遊戯は、果敢であるよりも臆病である方が強いのだ。
だからこそ、この場を一度仕切り直したい。
誰もがそう思っている。
果敢さは命取り、その事を思い知ったから。

しかし、その提案こそが仕掛け。
看破した者から動き出す。
めいめいが口々に騒ぎ立てる。

「いや一回座ろうよ」
そう言う藤本のペースに誰も乗せられまいとしている。
それが正解かもしれない。
ジミー大西が仕掛けたクラッカー爆弾の処理を急ぐ吉村。

「迷える…子羊たちよ」
ジミー大西が神父の装いで仕掛ける。
「祈りたまえ、アーメン」
この男は、ステゴロで乗り込んできてはいないらしい。
天然をかます気は一切ないと言う宣戦布告。
この勝負一番の知能犯がジミー大西である。

神父からクリスマスに祝福を。
クラッカーを鳴らせという指示だが。
配布されているのは小麦粉で出来た方のクラッカーだ。
「仕掛けがちっさすぎません?」
藤本が吐き捨てる。

この屈辱に『ジミーは側頭部を掻き毟って』いる。
無事全員が着席し、そんな大西の隣の吉村は
「今回がジミーさん初めてです」と言った。
すかさず藤本
「じゃジミーさん見て」
睨み合う二人の時間を吉村は永遠に感じもしただろう。
唆した藤本はもう見ていられないといった体だ。

暗黒街の顔役を気取った斎藤慎二が葉巻に火を着けようとしている。
しかし、どちらが吸口なのかも知っていない。
さらに、吸い口を切り取ると言うことすら知らない。
藤本と津田の両名からそのことを指摘され
「何やソレェ…」と斎藤は怒りを露わにする。

ヒリヒリとした殺気漂う一座に向かい
「これ…飲みますぅ?」
大島美幸が透明なプラスチック製のタンブラーを見せる。
中には乳白色の液体が入っていた。
一同、その中身を問う。
狙い通りの流れに勝利を確信したか、ほくそ笑む大島。

「母乳です」
中身は紛れもない母乳だった。
生まれた子は1歳8ヶ月、しかし今だに母乳が出ると言う。
その一番搾りが100mLはあろうか。

「母乳飲ませろや、コラ!」
飛び交う怒号、発したのはヤクザななりの小峠。
ある意味で老けた新生児のようでもあるが。
その母乳をハイエナの目で狙う男。
「めっちゃ飲みたそうにしてますやん」
藤本がジミーの心情を看破した。
全員の目が険しく、ギロリと向けられる。

この展開に追い討ちをかけるかのように大島
「こんな近くに居られるのはじめてなんで、これもらって下さい」
自らの下着を大西の手に握らせる色仕掛けに打って出る。
ジミーからすれば、ピンを抜いた手榴弾を握らされたようなものだ。
全員からそれは何かと聞かれても、容易に手の中を確認できない。

さっきから一言も発していない吉村はここぞとばかりに母乳を飲んでいる。
自分も参加者であるという既成事実を作っているだけなのだが。

ここで今回最大の策士、ジミー大西が打った布石が活きる。
数分前に掻き毟った側頭部、ここからの出血を大島の下着で拭ったのだ。
精神不安定な大島は、この行為により泣き出してしまう。
これには残り7人の男たちは為す術もなかった。
混戦の様相を呈する一同。

これから銀行強盗へ繰り出すかのような装いのジミーが現れ、吉村は流し場で酸を撒き散らす、土下座でも繰り出しかねない勢いで謝罪の言葉を吐き出す藤本。
「もう終わりだ」
泣きじゃくる大島美幸は一際大きな声を上げる。

「もう牧師やめる」
ジミーが言って、衣装を脱ぎ出す。
しかしその服の下にはアーマーベストが『しっかりと』装備されていた。
その威容に全員が戦慄する。
今日の舞台を支配しているのはジミー大西、その人だった。

ここで、斎藤慎二と大島否児嶋一哉とが小競り合いを起こした。
「ちょっとまだ児嶋さん殺ってないですよ」
「児嶋さん仕掛けないとこういう時に」
「普段仕掛けてないんだから」
斎藤の児嶋潰し、執拗な挑発で自滅を誘っているのか。
荷物を持って隣室へと離れ、一度仕切り直しを図りたい児嶋。
それを遮る男が一人。

「俺と一対一で殺りあおうぜ」
児嶋なら俺が潰すと言わんばかりに藤本が打って出たのだ。
「俺にちょうだい」
斎藤に次いで藤本からも執拗な挑発。
渋る児嶋、だがもうこれ以上後には引けない。
「ねえ、ちょうだい、今日来てないから一度も」

「児嶋だよ!!」
言うや否やコルトガバメントを抜き、藤本に突きつける児嶋。
速い、流石の御家芸…だが。

「俺もだよ!!」
藤本の早抜き、全く引けを取る事がなかった。
ベレッタM 92を向け両者膠着状態となるか。

「違うだろ!!」
児嶋、二挺目のコルトガバメントをコンマ3秒で構える。
藤本程度の腕前では、この展開を読み切れなかった。
これで児嶋は一度死ぬ間に“藤本を二度殺せる”。

The good, the bad and the ugly.
児嶋と藤本二人きりの勝負と思うなかれ、卑劣漢を忘れてはならない。
「なんて日だ!」
目を見開いてデトニクス スコアマスターを構えたのは、斉藤慎二だ。
児嶋一哉に向けている。

これにより、三者イーブン。
児嶋の二挺拳銃は両者へと向けられた。
この状況で全員が発砲すれば、一発ずつの被弾は確実だった。
だが…。

音もなく抜かれたコルトパイソン、起こされた撃鉄がその存在を知らせた。
「五月蝿ぇよ」
卑劣漢斉藤のこめかみに硬く冷たい銃口が押し当てられる。
小峠英二、この男は今、圧倒的優位に立った。

——激しい攻防戦。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?