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#5 文章の流れをよくする強調の原則:強調したいことは文末に書く

前回までのまとめ

前回まで、文章の流れをよくするKnown-to-Newの原則を紹介してきました。英文テクニカルライティングでは既知(Known)の情報を未知(New)の情報よりも先に書こうという原則です。この順序が逆になると文章は読みにくくなります(参照記事)。また、既知と未知の情報を並び替える具体的なテクニックも紹介しました(参考記事)。

強調の原則

今回から、同じく文章の流れをよくする強調の原則を紹介していきます。強調といっても、英文法で勉強したIt is ~ thatやdo+動詞といった強調構文のことではありません。強調したいことは文末に書くという原則です。

書き上げた英文の原稿がどうも締まらない、竜頭蛇尾に感じる、いきいき(ダイナミック)とならない、といった問題は強調したい部分が文末にない可能性があります。

なぜ文末に強調したいことを書く?

文末と文頭はそもそも目立つ場所です。しかし、スポットライトがよりあたり文章を盛り上げるのに効果的な場所は文末です。この理由はエンターテイメントの世界をみると明らかだと思います。例えば、アカデミー賞授与式では最も注目される主演男優賞、主演女優賞もしくは作品賞は最後に発表されます。もしこれらが最初に発表されたら授賞式はしりすぼみになるでしょう。宝くじの発表も1等賞は最後だと思います。同様に英文テクニカルライティングでも強調したいことは文末までとっておくのです。

強調の原則を逆用すると?

この強調の原則とは反対に強調したいことを文の真ん中に書くと文章が伝わりにくくなります。1文を長くすると特に有効です。この考えは法律関係の文章(特許)や行政文書等によく使われています。

強調の原則とKnown-to-Newの原則はどちらを優先する?

次に、強調の原則とKnown-to-Newの原則の優先度について考えます。基本的には、強調の原則はKnown-to-Newの原則と補完関係になることが多いでしょう。既知と未知の情報の境界があいまいな場合は、強調したい方を文末にもってくればよいのです。例えば、先ほどのアカデミー主演男優賞と助演男優賞の受賞者はKnown-to-Newの原則では両者とも未知の情報ですが、強調の原則に従えば主演男優賞の受賞者を後に書くのが正解です。この補完関係については例文を使って説明します。

難しいのは一つの文で既知の情報を強調したい場合です。これは既知と未知の情報の程度の差、段落の流れや論文全体のテーマ等を考えて総合的に判断する必要があります。状況次第ということです(It depends on the context.)

例文

では例文を見ながら強調の原則の使い方を考えていきます。引用はネーチャーマテリアルズからです(17, pages 618–624 (2018))。

バージョンAとBは3文目だけ異なります。1と2文目はすでに既知と未知の情報部分に分けています。強調の原則に従って3文目と4文目の強調部文は太字にしました。なお、4文目は本論文の目的文でタイトルに次いで最も大切です。どちらのバージョンが著者の意図が伝わりやすいと思いますか?

バージョンA

1) [Large-area stretchable electronics](既知) are [critical for progress in wearable computing, soft robotics and inflatable structures](未知)
2) [Recent efforts](既知)have focused on engineering electronics from soft materials—[elastomers, polyelectrolyte gels and liquid metal](未知).
3) While these materials enable elastic compliance and deformability, they are vulnerable to tearing, puncture and other mechanical damage modes that cause electrical failure (強調).
4) Here, we introduce a material architecture for soft and highly deformable circuit interconnects that are electromechanically stable under typical loading conditions, while exhibiting uncompromising resilience to mechanical damage(強調)

訳)1) 大面積ストレッチャブルエレクトロニクスはウェアラブル端末、ソフトロボティクスや膨張式構造物の技術発展に極めて重要である。
2) 最近の研究はエラストマー、高分子電解質ゲルや液体金属といった柔軟性材料を使ったエレクトロニクスの開発に焦点があてられている。
3) これらの材料は柔軟性や伸縮性をデバイスに付与する一方、引き裂きや穴あきといったデバイスの故障につながる機械的な損傷を受けやすい。
4) 本論文では、柔軟で変形可能な電気回路を可能にする材料構造を提案する。この構造は通常の荷重環境下において電気・機械的に安定しているにもかかわらず機械的な損傷に対してかつてない復元力を有している。

バージョンB

1) [Large-area stretchable electronics](既知) are [critical for progress in wearable computing, soft robotics and inflatable structures](未知)
2) [Recent efforts](既知)have focused on engineering electronics from soft materials—[elastomers, polyelectrolyte gels and liquid metal](未知).
3) While these materials are vulnerable to tearing, puncture and other mechanical damage modes that cause electrical failure, they enable elastic compliance and deformability強調
4) Here, we introduce a material architecture for soft and highly deformable circuit interconnects that are electromechanically stable under typical loading conditions, while exhibiting uncompromising resilience to mechanical damage(強調)

例文の解説

1文目)主語のLarge-area stretchable electronicsは本論文の研究分野なので既知の情報となります。

2文目)Recent effortsは過去の研究を指すので既知の情報です。特定の材料の方が未知の情報となります。この未知の情報部分は本論文のテーマと関連するので強調部分とも考えられます。

3文目)バージョンAではエラストマーといった材料は機械的な損傷を受けやすいのでデバイスの故障につながる点を強調しています。一方バージョンBでは、エラストマーといった材料の柔軟性を強調しています。Known-to-Newの原則だと、どちらの順番でもOKになります。

4文目)Here, we ...構文は論文の目的を述べるときの定番型です。このフレーズを使うことで、「ここからが論文の目的ですよ」と読者にシグナルを送ることができます。これは、とても、とても、とても重要です(あとでじっくり記事で書きます)Here, we introduceの次にくるのは a material architectureですから、これが論文のキーワードとなります。この後の論文はこのキーワードを中心とした展開になるはずです(なるべき)。文末にあるのはuncompromising resilience to mechanical damageですから、ここが著者の強調したい点となります。論文で紹介するa material architectureは機械的損傷からの回復が特にすごいんだぜ、どーだ!と著者は強調したいはずです。

ここまでくると、3文目の順番はバージョンAに軍配が上がるとわかりますね。機械的損傷について強調しているからです。「既存のデバイスだと機械的損傷部分がいまいちなんだよ」と研究をした理由にもなりますから目的文にすっきりつながります。

まとめ

文章の流れをよくする強調の原則を紹介しました。英文テクニカルライティングをいきいきとするのに有効です。また、Known-to-Newの原則と組み合わせるとさらに強力になります。ぜひ参考にしてください。

次回も引き続き強調の原則についてです。強調の原則を適用する具体的なテクニックも紹介していきます。

例外(追記)

強調の原則(+Known-to-Newの原則)には例外があります。英文テクニカルライティングでは段落の最初は要約文から書き始めるの基本です。この要約文では強調したい点や未知情報を文頭から書いてもOKです。この理由と利点は別の記事でじっくりと書く予定です。

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