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【閉塞と適応】雑記.20211123

・土日は待ちに待ったサカナクションのオンラインライブ『SAKANAQUARIUM アダプト オンライン』の日だった。これは【アダプト】というプロジェクトの第一弾に位置付けられ、今後はリアルライブとコンセプトアルバムの発売が控えている。

・これがまあすごかった。先述の内容に対して「なんでオンラインライブとリアルライブが別であるの?」と思ったひともいるかもしれない。それにはちゃんと理由がある。サカナクションはオンラインライブを普通のライブとは違った新しい表現として模索しており、全く別の作品として制作しているのだ。

・どうすごかったのかを紹介するのはとても難しいし、実際に見てもらうのが一番良いのだけれど(アーカイブ配信も28日まで配信中)、できる限りやってみる。多少ネタバレもあるのでご注意ください。



・まずすごかったのは事前情報の時点で目玉だった「アダプトタワー」だ。今回のライブ(オンライン・リアル双方に使うらしい)のためだけに作られた3階建ての特設セットである。正直狂ってると思う。でも、後述の演劇だったりライゾマティクスによる映像効果だったりには非常に上手く使われているし、画的にも常にインパクトがあったのでよかった。でも、ドラムセットとか配線の都合なのかバンドが演奏できるのは1階のエリアだけだったのでそれはちょっと残念だったな。せっかくこんなにデカいの作ったのに上の階の出番ちょっと少なくない?とは思わんでもなかった。

・次に触れたいのは、ライブに演劇の側面を持たせている点だ。本ライブでは一人の役者さんがセット(大体の場合バンドと少し離れた場所)の中で演技をしており、その映像を演奏の映像と織り交ぜることで、MVとライブの中間のような独特の映像が構成されている。これがものすごく良くて、音楽を映像で表現する上での一つの正解なのではないかと思ってしまうぐらいだった。

・それに関連して言いたいのは、前半のセットリストとそれに絡めた演出の秀逸さだ。そもそも、アダプトというタイトルは「サカナクションがこの時代にどう”適応”してきたのか、そしてどう"適応"していくのかを示す」という目標が掲げられている。それを反映してか、今回のライブでは「精神的あるいは物理的な閉塞とそこからの解放」というテーマを強く感じた。「そう 生きづらい」というサビの歌詞が印象的な『multiple exposure』から始まり、サカナクションの楽曲の中でも特に叙情的な歌詞の『なんてったって春』、『「バッハの旋律を夜に聴いたせいです。」』、『スローモーション』を挟みつつ、同じく思春期の「生きづらさ」を想起される『ティーンエイジ』、『雑踏』へと向かっていき、そして最後は輪廻転生をテーマとしたという『目が明く藍色』で解放される……というような流れが僕には感じられた。しかも、最初の1曲とラストの3曲は言ってしまえばかなりのマイナー曲だ。それなのに今回それを引っ張り出してきて、ものの見事にテーマに沿って消化して見せたのが個人的には一番衝撃的だった。当たり前ながら自分自身もそんな時代に翻弄された一人だからこそ共感したし、大分心が動かされてしまった。

・新曲も良かった。一応作曲やってるのに音楽の知識が全然ないから上手い評論なんてできないんだけど、自分なりの感想を書きます。
『キャラバン』からは『マッチとピーナッツ』と同じような流れを感じた。なんとな〜く昔の洋楽っぽいな〜と感じる曲調。ゆっくり体を揺らすダンスミュージックという感じ。春夏秋冬(ひととせ)って読むの初めて知った。カッコいい。
「気になりダンス」こと『月の椀』はやっぱりとても好き。キャッチーで耳に残るサビもさることながら、曲全体から感じられる静かな夜の雰囲気と疾走感が良い。歌詞もテーマがそうさせるのかとりわけ詩的に感じる。
『プラトー』もめちゃくちゃ良い。特に2番の出だしのアレンジ!!ピアノとギターがめちゃくちゃメロディアスで最高!!!こういう複数のメロディーが絡み合う展開、良いね……。音階が和風な気がした(ヨナ抜き音階?)。そこも好き。
『ショック!』は中毒性が高くてアーカイブを特に何回も聴いている。「今の時代みんな刺激に飢えてニュースを観ている」という社会問題的なテーマがこういうめちゃくちゃキャッチーな形でまとめてあると思うと面白い。あと、『モス』の続編として完成され過ぎててすごい。観てないから分かんないけど、最初から当て書きしただけあって、より『ルパンの娘』の雰囲気に寄せてるような印象を持った。
『フレンドリー』はこう、他の曲と比べると圧倒的に「沁みる曲」って感じだ。この曲の歌詞からは「正しい正しくないと決めても良くないし、寛容な人間でありたいよね」というメッセージを僕は汲み取ったんだけど、これは何でもかんでも批判されたり、批判してしまうこの時代で強く感じることだなと思った。いわゆる「歌詞に共感した」とは無縁の人生を送ってきたけど、この曲はわりとそう感じたかもしれない。

・「左右行ったり来たりの夢を語る君」というフレーズがやけに記憶に残った。

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