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秘密罪 #42


また新幹線に揺られている。1週間前に東京に行った事がひどく昔のように思える。それは昔の〇〇の記憶である日記帳に入り込んでいたからなのか。それとも〇〇の事を拒絶していたからなのか。それはわからない。


遥香:..........。

天知:なぁ!お前ら腹減ってないか?弁当くらい奢ってやるぞ。食うか。

禅:......食べません。そんな気分じゃありませんし。

天知:つまんねぇ奴らだな。せっかくの旅行なのに。


場違いに元気な人が一人いるだけ。後はお通夜のような空気だった。

また元気な男が口を開く。


天知:今から〇〇のとこに行くわけだけどさ、どうなの。お前ら〇〇の事許せんの?

遥香:........わかんないです。だけど......会いたい。

禅:.......俺は許しません。でもそれは〇〇の親父さんだけ。〇〇の事は会ってから考えます。

和:....私も...。

天知:...ふーん。話せれば良いけどなボソッ

禅:天知さんこそ.....記事書いたのによく〇〇と会えますね。

天知:だって仕事だから。俺社長の息子だし断れない。それに正雄からは許可貰ってたし。

遥香:.....でも〇〇の記事は許可してない...。

天知:それは申し訳ないと思ってんのよ。俺の部下が調子乗って書いちゃったみたいで。だからお詫びとして今新しい記事書いてんのよ。

遥香:.....新しい記事?

天知:内容は秘密ね。社外秘。さぁ、そろそろ着くぞ。準備しておけ。


天知はどこか子供のように嬉しさを滲ませていた。なぜそのような感情を抱いているかはまったくわからなかったが、嫌な予感だけはずっと漂っていた。

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また駅に着いた。こんなに早いスパンで来るとは思わなかった。駅からは天知が用意した車で病院へ向かう。大きな車で7人乗るには丁度良かった。

〜〜

天知:よーし。もうすぐ着くぞ。


心臓が跳ねる。近づくにつれて段々と激しく、緊張にも似たような冷や汗が出る。必死に平常心を保とうと考えていると、もうそこは病院の前だった。

入り口には一人の女性が立っている。


バタンッ


天知:よし。全員降りろ。......ん?あそこにいるの...。


車から降りて病院へ向かう。遠くからはわからなかった女性の輪郭が段々とはっきりしてくる。遥香と和と美空には見覚えがある女性だった。

その女性はこちらに気づくと深く頭を下げている。


和:.....お義母さん...。


頭を下げていたのは〇〇の母だった。


母:.....〇〇の母です。.....まずは本当にすみませんでした。こんな事になるなら、早く言っておくべきだった。

遥香:.......なんで.....あの時言ってくれなかったんですか...。

さくら:ちょっと!かっきー!


遥香は我慢が出来なかったという様子で〇〇の母に詰め寄った。動かないでいるが禅も同じ様子だった。


母:....〇〇...〇〇がやっと自分の力で作った友達を....私達夫婦の都合で引き裂くなんて....出来ませんでした....。

遥香:っ.......。


〇〇の日記を見ていたからか、強く出る事は出来なかった。むしろ気持ちがわかってしまった。数秒の沈黙が走った後、またあの男が話し始める。


天知:....あー、はい。もうこの話終わりね。よし、皆んな行こうか。

母:ちょ、ちょっと!今〇〇は・・

天知:いいからいいから、じゃまた後で。


天知は強引に遥香達の背中を押しながら病院の中に入っていった。

病院のエントランスでは医者の風貌をした男と、一人の男性が話をしていた。


天知:よぉ、卓人来たぞ。

義父:あぁ...来たか....って。和?

和:.....久しぶり。


義父は立ち上がって、真っ直ぐに遥香達を見た。


義父:和といるって事は...〇〇君の友達だね。初めまして、〇〇と和の父と井上卓人と言います。


また日記帳に出てきた人物。遥香達は本当に〇〇を引き取ったんだと感じていた。


義父:......今回は....本当にすまなかっ・・

天知:あー、あー、そういうのいい。こいつらに〇〇の日記と正雄の日記読ませたから全部知ってる。早く〇〇のとこに案内してくれ。

義父:ちょ、ちょっと待て!勝手な事をするな!今の〇〇君に刺激を与えるのは....。

医者:そうですよ!今の〇〇君には刺激を与えられません!


医者はそう言いながら、チラッと奥の部屋を見た。


天知:....ほう。〇〇はあそこの部屋にいるんだな。よし!ほら行けお前ら、走れ!


その言葉を聞いて義父と医者が止めに入ろうとしていたのがわかった。止められる前に遥香達の足はすでに動いていた。天知は足止めをしてくれている。


義父:ちょ、ほんとにお前...なにしてんだよ!

天知:俺に〇〇の意識が戻った事を教えたのが間違いだったな。

義父:くそっ...あぁ、もう手遅れだ。


遥香達は井上〇〇と書かれたネームプレートがある部屋を見つけた。一瞬躊躇したが、もう後には引けない。意を決して、その部屋の扉を開けた。


ガラガラガラッ


大きなベッドが一つ。そこにいるのは頭に包帯を巻き、片腕と片足をガチガチに固定されている男性が一人。その男性は静かに窓の外を眺めていた。


さくら:ま、〇〇君.....。

美空:〇〇!


美空がすぐにベッドの横へ走り出す。


美空:〇〇、あぁ〇〇グスッ....無事で....良かった。


〇〇はゆっくりと美空の方を向いた。言葉は何も発しない。


遥香とさくらと和も、〇〇を見た瞬間涙が溢れていた。一方で〇〇は表情一つ変わらない。ただ、ゆっくりと一人一人を眺めている。様子はおかしかった。


禅:.......〇〇?


禅が〇〇へ言葉をかけると、〇〇は虚な目をして、ゆっくりと口を開いて、はっきりと言った。


〇〇:.......美空...なんでこんな所にいるの?あと.....この人達...誰?

美空:えっ?

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義父:どうすんだよ....これで〇〇君の容態が悪化したら...。

天知:強い刺激与えれば思い出すかも知れないじゃないか。さぁ、俺たちも行こう。

医者:勝手な事しないでくださいよ!

天知:すんません。ほら行きましょ。

〜〜

ガラガラガラッ


扉を開けると、〇〇の周りで固まっている5人がいた。


天知:おー、〇〇元気かー。

禅:......天知さん.....どういう事ですか。

天知:それは卓人とお医者さんからどうぞ。

義父:.........〇〇君は......いわゆる...記憶喪失という状態なんだボソッ

美空:.....は?.....意味がわかりません。

医者:見せた方が早いかも知れませんね。卓人さん、いいですか?

義父:....はい。

医者:では、〇〇君自己紹介してくれるかな。

〇〇:....自己紹介?....まぁいいですけど....えっと..中学2年生の秋月〇〇です。よろしく?お願いします。


遥香達は言葉が出てこなかった。


医者:まぁ....こんな感じで、今〇〇君は中学2年生の時の記憶で止まっている状態ですボソッ


和:...............そんな.........なん...で...。

医者:事故の衝撃だとは思いますが、ここまではっきりとした日付で記憶が止まっているとなると....

遥香:......はっきりとした日付?

医者:......〇〇君。今日は何月何日かわかる?

〇〇:....12月25日ですけど....。というか父はどこですか。伝えないといけない事があるんですが...。


〇〇の記憶はクリスマスで止まっていた。伝えないといけない事とは、プロ野球選手になりたいという意志だろう。


医者:...つまり...〇〇君の記憶はクリスマスで止まっています。中学2年生の時のクリスマスに何があったかは卓人さんから聞きましたボソッ

医者:その日の出来事をなんらかの要因で思い出し、そのショックで記憶を封じたか...事故のせいかはわかりませんがボソッ


遥香:(.....それって....私達のせい...)

医者:とにかく今は大きなショックを与えてはいけないんです。一旦外に出ましょう。


遥香達は全員、〇〇のいる部屋から出された。

〜〜

美空:.....〇〇と...話しちゃダメなんですか...。

医者:....話すなら一人ですね。一度に大人数で話すと、大きなショックを与えかねません。

美空:......どうしたら...〇〇の記憶は戻るんですか...。

医者:ゆっくりと時間をかけて対話し戻していくしかないでしょうね...。ですが....卓人さん...。

義父:....俺が話します。....実は...俺は〇〇の記憶は戻さなくて良いと思っている。

和:えっ!? 何言ってるの?

義父:....またあの記憶を....思い出させたくはないんだ...。記憶が戻ったら....自殺をするかも知れない...。


実際その通りだった。あの日の〇〇の様子を見たら、自殺をしないとは言い切れなかった。


義父:今の〇〇は俺の事も覚えていない。今覚えているのは....妻と美空ちゃんの事だけだろう。

美空:.........わかりました。私が〇〇と話してみます。そこから〇〇の記憶を戻すかどうか決めるのはダメですか?

義父:........わかった。でも今日は遅いから明日にしてくれないか。

美空:わかりました。


5人は天知が用意したホテルに泊まる事になった。5人はそれぞれ部屋に戻り、考えに耽っていた。どうすればいいのか、自分は何をしたいのか。ずっと考えていた。

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翌朝 グループLINEに一件の通知が入っていた。


美空L:〇〇と話してきます。どうなったかは後でまた連絡します。


既読はすぐに着いた。

〜〜

ガラガラガラッ


美空:〇〇〜!おはよー!

〇〇:うわっ!びっくりした。美空か。

美空:〇〇の彼女の美空だよー。元気?

〇〇:うん。元気だけど....怪我しちゃってるから元気じゃないかもな笑


口調と表情の作り方がまるで中学の時の〇〇。背丈と顔つき、他の全てが今の〇〇だった。なにより、彼女が美空ということを否定しなかった。


美空:隣、座って良い?

〇〇:うん。いいよ。


美空は〇〇のベッドの横に椅子を持ってきて座った。


美空:.....腕と足...痛い?

〇〇:ううん。動かしてないから痛くないよ。......それより...美空...なんか変わった?

美空:え?

〇〇:なんか....大人っぽくなった。

美空:あぁ.....そっか...。


急激に胸が痛くなる。〇〇と過ごしてきた時間が全て失われている事に気づく。再度〇〇は記憶喪失だということを見せつけられた。


〇〇:美空?なんで泣いてるの?

美空:グスッ....ううん。....なんでもないよ...。

〇〇:..うーん....痛っ!

美空:大丈夫!?

〇〇:頭撫でようとしたら腕怪我してるの忘れてた笑

美空:.....もう...心配させないでよ...。

〇〇:あはは笑 ごめんごめん。それにしても.....なんで怪我したかなぁ...。これじゃ野球できないよ。

〇〇:美空。なんか知ってる事ない?病院の先生に聞いてもなんで怪我したか教えてくれないんだ。

美空:っ.....私も....わかんない。

〇〇:そっかぁ....。あ、そうだ、昨日来てた人達は誰?

美空:...えーっと...私の...友達?

〇〇:へぇー....なんか僕も見た事あったんだよなあの人達。

美空:...あの人達の事....どう思った?

〇〇:変な質問するね。....えー...なんか...懐かしかった?っていうか....もっかい会ってみたいと思った。

美空:.....そっか....。〇〇はさ、私がもし記憶喪失になったらどうする?

〇〇:美空が記憶喪失に?えー...考えたくもないけど...記憶が戻るように頑張るかな。美空が僕の事を知らないなんて嫌だし。

美空:えへへ//なんか嬉しい//

美空:でも....記憶を戻したら、私が自殺するって言ったらどうする?

〇〇:えぇ!? そんな事ある? ......自殺かぁ...。それでも記憶を戻すかな。

美空:...なんで?

〇〇:なんでって....その自殺も僕が止めるよ。僕は一回美空の自殺を止めたことあるしね!

美空:.....ふふっ..やっぱり〇〇は〇〇だね。

〇〇:どういうこと?

美空:ううん。なんでもない。また来るね!

〇〇:え、もう帰るの?

美空:うん!ちょっと用事思い出したから。じゃ、またね!

〇〇:え、あ、うん。またね。


美空は部屋を後にした。

〜〜

義父:美空ちゃん...どうだった?

美空:....記憶を戻すかどうかは、もう少し待ってください。今日中に私達なりの答えを出します。

義父:....わかった。君達の意見を尊重するよ。


その後、美空はホテルに戻り、グループLINEで遥香、さくら、和、禅の4人を自分の部屋に呼び出した。

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              To be continued


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