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凡豪の鐘 #1


小説とは、作者の構想を元に、作中の人物・事件などを通して、現代の、または理想の人間や社会の姿などを、興味ある虚構の物語として文体で表現した作品である。

そして小説家とは、その小説を書くことを職業にしている人のことである。

現代では、純文学、大衆文学、ライトノベル、様々な形態がある。

小説は書こうと思えば誰でも書けるものであるが、小説家になれる確率は


わずか0.1%以下である

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大きなスーツケースを持って、新幹線に乗る。経費を抑える為、自由席。

目的地に着いて、新幹線を降りる。


??:こっから電車か....くそ...遠い...

〜〜

電車に乗る。どんどん景色が田舎へと移り変わっていく。4年間一度も戻ることはなかった故郷へ拠点を移す。目的地へ着く頃にはもう電車内にはほぼ人はいなかった。


プシューー ガチャン 重い音を響かせ扉が開く。


??:なんっだよこれ。こんな田舎だったか?


ほぼ無人駅。午前中はいるらしいが、午後は人はいないらしい。なんだそれ、ちゃんと仕事しろ。


??:えーっと、こっから歩きで学校....めんどくせぇ..


人気のない田舎道を一人スーツケースを引きながら歩く。ちらほら婆さん爺さんが畑で作業しているのが見えるくらいだった。

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坂乃高校 

全国生徒240人。1クラス40人の2クラス編成。なかなかに田舎の高校である。

ここら一帯の中学生がほぼ全員進学する学校だ。よって、何の楽しみもない。なぜなら全員知っているから。

〜〜

??:2年1組の担任は私です!

男1:やったぁー!! 白石先生だ!

女1:可愛いぃ...なんでこんな田舎に美人先生が...

男2:先生ー! 今日はこれで終わりですか?

麻衣:始業式も終わったし、今日はこれで終わり...と言いたいところだけど!

男1:え?

麻衣:今日は....転校生が来ています!

一同:うぉぉぉおおお!!!


入学当時から知っている人ばかりだった生徒にとって、転校生とは一番盛り上がるものだった。


男1:女子!? 女子ですか先生!!

麻衣:ざんねーん。男子です。

女1:よっしゃあ!! きたぁ!!

麻衣:それも....東京から来てくれました!

女2:シティボーイ!シティボーイじゃないですか!

男2:また美月さんを狙うライバルが増える...

麻衣:じゃあ、入って良いよー!


ガラガラガラッ


??:失礼しまーす。


教室に入ってきたのは、身長もそこそこ。髪型も何の変哲もない。顔はそれなりに整っている。だがこの時間までよくその寝癖を保てたもんだというほどピンと寝癖が立っている。

その青年は黒板に名前を書き始めた。

        「天鐘 〇〇」

〇〇:えー...天鐘〇〇です。天の鐘って書いて「あまね」って読みます。まぁ...よろしくお願いします。

男1:ん?.....あまね...〇〇....あれ?

男2:....あれ...天鐘って....まさか...

〇〇:もうやめろ!そのノリ!わかってるから!

男1:やっぱりお前かい!!

女1:何だ笑 〇〇君か笑

女2:あー、期待して損したーー笑

〇〇:おい!そこ!聞こえてんの!

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数ヶ月前 東京

友達1:〇〇ー、今日飯食っていかね?

〇〇:あー....いや..今日はちょっと用事あるわ、すまん。

友達1:そか。じゃまた今度な。じゃあなー。

〇〇:うん。じゃあな。


友達と別れて、帰路に着く。その前に文房具屋と本屋へ向かった。

〜〜

〇〇:(原稿用紙切らしてたな...確か..)

〇〇:....ってもう小説書く事もないのか笑


買おうとしていた原稿用紙を買うのをやめ、文房具屋を出る。

次に本屋へ向かった。


〇〇:(新作...新作...って...またかよ...)


本屋のポップにデカデカと「天才作家、鐘音 天の新作がついに発売!」

その横には「奇才、天音 空子の待望の新作!」とデカデカと宣伝してあった。


その宣伝を無視して本屋の奥の方へ行く。段々と有名ではない作家の本が増えていく。

本屋の最奥も最奥。そこで足を止めた。

作 文豪 「消える君へ」 と書かれた小説があった。


手に取って中をパラパラと確認する。そして元あった棚に戻す。


〇〇:すみません。店員さん。

店員:はい!どうなさいましたか?

〇〇:あの....文豪さんの「消える君へ」って本、どんくらい売れてます?

店員:えっと....文豪...先生ですか?......すみません、ちょっと聞いた事が....

〇〇:...あはは笑 そうですよね、すんません。


好きな作家の新作を買う気にもなれず、帰路に着いた。

〜〜

〜〜

ガチャ


〇〇:ただいまー


誰もいない家に向かって喋りかける。荷物を置き、ベッドに体を預ける。


〇〇:はぁ.....売れねぇなぁ...もう書くのやめようかな..


ブーッ ブーッ


枕元のスマホが鳴る。画面を見るとそこには、母との表示があった。


〇〇:"もしもし"

空子:"もしもしー! 〇〇ー!元気?"

〇〇:"元気?じゃねぇよ! 母さんと話すの一年振りだぞ!"

空子:"ごめんて笑 ちょっと忙しかったの"

〇〇:"ったく...で?何の用?"


〇〇の母親は天音 空子。本名 天鐘 空子

〇〇の父親は鐘音  天。本名 天鐘 天

正真正銘、天才小説家が両親だった。両親は今海外で執筆中。度々二人で旅に出ては新作を出し、また旅に出る。その繰り返し。常識が通用しない芸術気質の人間だった。そのせいもあってか、中学に入った辺りから〇〇は一人暮らしをしている。


空子:"最近小説書いてる?"

〇〇:"......書いてねぇよ"

空子:"なんでさ! あんなに良い小説書いたのに!"

〇〇:"どっかのバカ親が「文豪」なんて作者名を息子に付けたから売れねぇんだよ!"

空子:"だって小さい頃の〇〇はほんとに天才でさぁ!でもさでもさ、変えないって事は〜、プライド高いのかな?"

〇〇:"うっせぇなぁ! だから用事はなんだよ用事は!"

空子:"せっかちさんだなぁ、ま、いいや。また小説書く気はあるの?ないの?どっち"


急に声のトーンが真剣になる。


〇〇:"いや...だから書いてないって・・"

空子:"今はでしょ。今後書く気があるのかどうか聞いてるの"

〇〇:"...............。"

空子:"何も言わないって事は書くってことね。わかった。ちょっと待ってて"

〇〇:"え?ちょ、待っ・・"


プツッ


通話が切れた。まさに台風のような人間だ。数分後また通話がかかってきた。


空子:"ハロー! 〇〇!"

〇〇:"ハローじゃねぇ。....何した"

空子:"〇〇は〜、また故郷に帰って貰います!"

〇〇:"は?何言ってんの?"

空子:".だーかーらー、小学校通った街あるでしょ?生まれ故郷の。そこにまた戻ってもらうって話。今天さんが高校に電話して転校手続きして貰ってるから、高校2年生から故郷の高校に通うの。わかった?"

〇〇:"は?は?何言ってんのかわかんないんだけど"

空子:"元々、中学から東京に転校したのも出版社との契約ありきでしょ?"

〇〇:"じゃあいいじゃん!このまま東京でも..."

空子:"もう東京にいても得られるものないでしょ。だから今度は田舎に戻って自然を感じてきましょー!それにあんた、どうせあの癖まだ治ってないんでしょ?治さないと苦労するわよ〜。ま、面白い作品期待してますよ〜、先生!"

〇〇:".....なんて親だ....なんて親なんだ...もう決めた...ぜってぇ小説なんて書かね・・"

空子:"あ、出版社との契約も切っといたから!"


プツッ


その言葉を最後に通話が切れた。


〇〇:んぁぁああ!! なんだこの親は!!


部屋中に空虚な声が響いた。

そして、あれよあれよというまま転校手続きは進んでいった。

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そして今に至る。小学校での顔馴染みが何人もいた。


麻衣:あれ?皆んな〇〇君の事知ってるの?

男1:はい。小学校一緒っす。あー...なんか知ってる奴来てもなぁ...

〇〇:うっせぇ! 俺だって来たくて来たわけじゃねぇわ!

麻衣:まぁまぁ笑 じゃあ〇〇君はあそこの空いてる席ね。山下の隣。

〇〇:うっす。


空いている席に向かっている途中、複数の男子がこちらを見てニヤニヤ笑っている。不可解に思ったが特に気にする事もなく席についた。

すると、隣の席の女子がこちらを向きながら話しかけて来た。


美月:〇〇君...だよね? これからよろしくね?


ひどく整った顔立ちをしている。それに、まさに黄金比とも呼べるパーツの大きさ。誰でも落とせそうな笑顔。側から見たらそのような感想が無限に出てくるだろう。だが、この男は違かった。


〇〇:.....馴れ馴れしいな。まずは自分の名前から名乗れよ。

全男子:はぁぁぁぁあああぁぁあ!!!!???

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屋上 


友達同士で下校している姿が見える。こんな田舎、遊びに行くところなんてない為、必然的に人間同士の関わりが深まる。

〇〇:お、今の文言ちょっと小説っぽい....。


〇〇は下校している生徒を見ながら屋上で黄昏ていた。


ガチャ 扉が開いた音がした。


??:お、いたいた。凡豪先生お久しぶりでーす!

〇〇:あぁ!? 凡豪って呼ぶな!.....ってお前..

??:あれ、忘れた?

〇〇:忘れてねぇよ。久しぶりだな律。

律:おぉー!正解。元気だったか?


この男は五百城 律。小3からの幼馴染。〇〇の良き理解者であり親友である。

凡豪というのは、小学校の時の〇〇のあだ名である。とある一人の生徒が教室で小説を書いている〇〇に対して、文豪の名前をもじって、凡豪と名付けた。

律は〇〇の親が小説家という事を知っている数少ない一人である。


〇〇:久しぶりだな。元気もくそもあるかよ。いきなり転校しろって言われて...

律:またいきなりなのかよ笑 やっぱ天才の親を持つと大変だなぁ。

律:中学に上がる時もいきなりだったもんな!笑

〇〇:笑い事じゃねぇよ...

律:で? まだ小説書いてんの?

〇〇:.....書いてねぇよ。

律:えぇ!? やめちゃったの!?なんだよー、俺お前の作品好きだったのに....

〇〇:....俺、中学の時、一冊出版したんだけど、作者名、何か知ってる?

律:え.....

〇〇:タイトル、何かわかる?

律:いや.......すまん。知らんかった。

〇〇:だよなぁ....結局知られなかったら意味ないの。知られてなかったら小説家じゃなくて、ただの趣味で小説書いてる奴なんだよ。

律:そんなもんかなぁ..。あ、そうだ。妹に会った?

〇〇:ん、会ってない。

律:後で会ってやれよ? あいつずっっっと〇〇の事待ってたから。

〇〇:へいへい。わかったよ。


親友との会話も束の間、屋上に上がってくる階段の音が聞こえた。


〇〇:.....律。どっか隠れられる場所ない?

律:え?.....まぁ、もう一段梯子で登れるけど...なんで?

〇〇:なんか嫌な予感するから。


小さな頃から〇〇の予感は良く当たった。


律:おけ、じゃ登ろ。


二人は急ぎ目で梯子を登った。

〜〜

ガチャ


美月:はぁ〜〜、良い景色!

美波:ここ来ると毎回それ言うよね笑 

美月:だってー、空気美味しいし、緑いっぱいだし?最高だよ。

美波:そんなもんかなぁ...。私は都会行きたいけど。

〇〇:おい、あの二人誰だボソッ

律:お前の隣の席の山下美月さんだよ! それと委員長の梅澤美波さんボソッ

〇〇:あぁ...隣の...ボソッ

律:お前あれまずかったぞ?美月さんこの学校で一番のモテ女なんだから、あんなこと言ったらお前殺されるボソッ

〇〇:だって....馴れ馴れしかったし..それになんかあの人...ボソッ

律:どうかした?ボソッ

〇〇:いや、なんでもねぇボソッ

美月:ねぇ、美波はさ〇〇君の事知ってるの?

美波:ん?〇〇君? あぁ...美月は高校上がると同時にこの街来たから知らないのか。

美波:〇〇君は、小学校の時の記憶しかないけど、なんか...ずっと小説書いてるイメージ。

律:ぷっ笑 言われてんぞ笑ボソッ

〇〇:うっせ!黙ってろ!ボソッ

美月:小説書いてるの!? すごいじゃん!じゃあ天音空子先生とか、鐘音天先生とか知ってるかな?

律:ありゃ、これはめんどくさい事になりそうだぞボソッ

〇〇:もぉーーー!! 親が有名すぎる...ボソッ

美波:知ってるんじゃない?わかんないけど。なに美月、〇〇君に興味あるの?

美月:いや...興味っていうか...いきなり私にあんな事言ってくる人、初めてだったし...。

美波:キャーー!!美月がついに恋を....

美月:そんなんじゃないって!もーー!!


そのまま二人は屋上を後にして行った。


〇〇:なーんか、面倒くさそうな人達だったなぁ。

律:あの二人学校でも特にモテてる二人だぞ。

〇〇:へぇーー...ま、いいや。帰る。

律:俺も帰ろ。そうだ、〇〇の家寄ってって良い?

〇〇:いいよ........あ。

律:ん?どした?

〇〇:俺、帰る家ねぇわ。

律:は?

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              To be continued








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