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凡豪の鐘 #10


〇〇:あ、アイドル?

茉央:...........あかん?

〇〇:....ぷっ....あはははははははは!

茉央:な、なんで笑うん!?


〇〇は職員室の前で大声を出しながら笑っていた。


先生1:おい!うるさいぞ!静かにしろ!

〇〇:あっはは笑 あぁ、すんません。


先生は扉を開け、注意を促した。


茉央:......笑わんといてって言ったやん...

〇〇:ごめんごめん笑 4人もいるなんて思わなかったんだ笑

茉央:4人?

〇〇:この学校にはな、無謀な夢を追ってる人間が4人もいるぞ笑

茉央:へ?

〇〇:俺と、蓮加と、茉央。あと1人は.....今から行くか!

茉央:わ、訳わからん!

〇〇:ちょっと待ってろ。今入部届貰ってくるから。


〇〇は職員室に入って行った。

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演劇部 部室


美月:んー.....なんか上手くいかないなぁ...


自分の演技に辟易しながら、美月は部室で項垂れていた。


ガラガラガラッ


〇〇:たのもー。

美月:あ、〇〇君.....と茉央ちゃん?


扉の向こうにいた〇〇は、茉央と手を繋いでいた。


茉央:ちょ、ちょっと〇〇....手が...//

〇〇:ん、あぁ、ごめん。引っ張って来たから。


茉央の顔が真っ赤になっていることにも気づかず、〇〇は話し始めた。


〇〇:んで、山下って将来何になりたいんだっけ?

美月:えっ!? な、なんで!?

〇〇:あっれー? 恥ずかしいの?

美月:.......別に恥ずかしくない...

茉央:??

〇〇:ほらほらー、言っちゃえよー。

美月:むぅぅ.....女優よ!女優!私は女優さんになりたいの!

茉央:へっ!?

〇〇:おーー、んで、次茉央。茉央は何になりたいんだっけ。

茉央:あ、いや.....それは.....

〇〇:口に出せない夢なら諦めた方がいいぞー。

茉央:んんぅ......あ、アイドルボソッ

美月:ん?

茉央:私、アイドルになりたいんですっ!

美月:そ、そうなの!?

〇〇:らしいよ。凄くね?この学校に小説家になりたいやつ2人と女優とアイドルになりたい奴もいんだぜ?笑

〇〇:さぁ! ここで茉央さん!

茉央:ま、茉央さん?

〇〇:ここで君に一つ提案があります!


〇〇は教卓に登り、下にいる茉央を指さした。


〇〇:お前は本気でアイドルになる気はあるか!

茉央:え?

〇〇:あるのか!ないのか!どっちだ!

茉央:あ、あります!

〇〇:じゃあなんで言うのを恥ずかしがっていた!

茉央:そ、それは.....

〇〇:本気でなりたいなら堂々と宣言しろ!わかったか!

茉央:は、はい!

〇〇:よぉし! では、アイドルに必要なものは何だ!

茉央:え、えっと....か、顔が可愛くて、肌がキレイで、ダンスが上手くて、歌も上手くて...皆んなから好かれるような表現をする事が必要だと思います!

〇〇:よろしい! ではその表現をする為に必要な事はなんだ!

茉央:それは....えーと....うーん...

〇〇:それは、演技力だ!

茉央:え、演技力!

〇〇:辛くても、きつくても、いつも笑顔で皆んなを不安にさせず、最大限の"楽しい"を提供する!そうだろ!

茉央:はい!

〇〇:ここは演劇部だ!演技力を鍛える事ができる!どうだ!入らないか!

茉央:えーと...うーんと...は、入ります!

美月:えっ!?  

〇〇:じゃあこの入部届に名前をかけ!


〇〇は入部届を一枚茉央に渡した。


茉央:か、書けました!

〇〇:よーし! ふぅ...


〇〇は教卓から降りた。


〇〇:ん、山下、部員1人増えたぞ。これで俺来なくてもいいよな。

美月:えぇ!? そ、その為に茉央ちゃんを入れたの?

〇〇:いや?アイドルに演技力いるだろ。俺も得するし一石二鳥。じゃ、俺は帰りまーす。


ガラガラガラッ


〇〇は部室を出て行った。


茉央:これからよろしくお願いします!美月さん! 

美月:よ、よろしくね? でも....ほんとに大丈夫?

茉央:はい!アイドルにも演技力必要ですし!美月さんと一緒やったら楽しいです!

美月:...え、ええ子や...

茉央:えへへ笑 ちなみに部員は何人なんですか?

美月:茉央ちゃん入れて3人。

茉央:3人.....3人!?

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ガラガラガラッ


〇〇:ケンじぃー!いるー!?

賢治:店で騒ぐな!馬鹿野郎!

〇〇:ごめんて....

賢治:で、何しに来た。書くの辞めたんじゃなかったのか?

〇〇:あんな会見見せられて、辞めれる訳ねぇだろ。

賢治:そう言ってまたすぐ辞めるんじゃないか?

〇〇:あのクソ親父を超えるまで辞めない。人生を賭けて証明してやる。

賢治:ふっ笑 そうか。


賢治の顔は心なしか嬉しそうだった。


賢治:んで、何しに来たんだ。

〇〇:.......新作書いて来たから、評価してくんね?

賢治:.....まぁいいだろう。寄越せ。


〇〇は賢治に原稿用紙を手渡した。これは蓮加との勝負で書いた作品ではない。時間をかけ、構想を練りに練って書いた作品だった。

〜〜

賢治:んんー........


賢治は眼鏡を置いて唸っていた。


〇〇:どうだった?

賢治:うーーん.....なんだかなぁ.....

〇〇:.....面白くなかったか?

賢治:.....お前これ書く時、小説の中に入ったか?

〇〇:え?......あぁ、そう言えば入ってないな....

賢治:....だとしたら.....はっきり言うけどな。

賢治:中に入ってた方が面白かったな。

〇〇:なっ!? でもそれじゃケンじぃがダメって・・

賢治:あぁ、ダメだ。お前の小説じゃなくなるからな。

〇〇:じゃあ.....そもそも俺自身が小説書くの下手ってことか?

賢治:うーーん....高校生レベルだったら面白いと思うぞ。

賢治:だが...小説甲子園やコンクールで優秀賞を取れるかと言われると.....うーーん...

〇〇:まじか......結構自信無くす....

賢治:......あの小説の中に入るやつあるだろ?

〇〇:うん。

賢治:あれをさ、自意識と小説の中の中間まで持ってこれないのか?

〇〇:中間?

賢治:つまり浅くするってことだ。お前と共存されることはできないのか。

〇〇:いや.....考えた事もなかったけど...多分無理。

賢治:なぜ。

〇〇:あれ、無意識だから。

賢治:.......そうか....。


プルルルルル プルルルルル


店内の固定電話が鳴った。


ガチャ


賢治:はい、岩本書店です。........あぁ、お前か。

賢治:.......ほんとか?......そうか。わかった。...........あんま目立つなよ。


賢治は一旦電話から耳を離し、〇〇に問うた。


賢治:おい、〇〇。お前今どこに住んでる。

〇〇:え?普通に前住んでた家。

賢治:そうか。


再び賢治は受話器に話し始めた。

〜〜


ガチャ


〇〇:なんかあった?

賢治:いや..........言っておいた方がいいかもしれんな。

〇〇:??

〇〇:今の電話だが、実はな・・

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5月。新しい環境の変化についていけず無気力になったり、眠れなくなったりする「五月病」 一年の間でも大きな存在感を放つ"黄金週間"いわゆるGW。様々な行事がある。

だが、五月病とは真反対な男がここにいた。


〇〇:おらぁ! どうだ!

美月:またぁ!?

茉央:もう読むの疲れたー。

〇〇:じゃあ蓮加!

蓮加:私も今書いてんのー。

〇〇:あぁ!? じゃあ誰が評価してくれんだ!

美月:一旦休憩すればー?

〇〇:.......お前、演技はどうした。

山下:ちょっと、きゅーけー。


ここ最近ずっと、美月、茉央、蓮加、〇〇は演劇部の部室に入り浸っている。


〇〇:......てか蓮加は何で演劇部いんの。

蓮加:........別に良いでしょ。

〇〇:....お前文芸部に馴染めてないな?

蓮加:ち、違うし!

美月:そういえば蓮加が文芸部いるの見た事ないなぁ。

蓮加:は、始めと終わりには顔出してるし!

〇〇:お前、コミュ力ないもんなー。

蓮加:あんたも同じようなもんでしょ!

〇〇:はぁ........よし、休憩終わり。書きまくるから読め。

美月:いーやー。.....ていうか!〇〇君最近小説の中に入らなくなってない?

〇〇:あー.....そうだな。

美月:だからなんか面白くなかったのか。

〇〇:なっ!? ......まぁでも....そうだよなぁ...

茉央:〇〇が反論してこないなんて珍しいなぁ。

〇〇:ケンじぃにも言われたし.....

〇〇:でも書かないと、小説甲子園は夏!審査員は誰が知ってるか?

蓮加:天音 空子先生。

茉央:えっ!? 空子さんって〇〇のおかあ・・ムグッ

〇〇:言うなって!


〇〇は茉央の口を咄嗟に抑えた。


美月:天音先生が審査員するの!? いいなぁー....会ってみたいなぁ....

〇〇:.....時々テレビで見るだろ。


そう。天音空子、つまり〇〇の実母である鐘音空子は父とは違い、多くのメディアに露出している。


美月:でも実物に会ってみたいじゃん?!

〇〇:......そんないいもんでもないぞ。

美月:会ったことあるの?

〇〇:.....ない。

茉央、蓮加:ぷっ笑

〇〇:とにかく!俺は絶対優秀賞獲るの。

美月:ふーん....なんか羨ましい。

〇〇:なにが?

美月:だってそういう大会みたいなの出れないし、部員3人しかいなくて、1人は小説ばっか書いてるから。

〇〇:もっと部員増やすしかねぇだろ。頑張れよ。

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天鐘宅


コンコンコンッ


〇〇:ういー。

美月:ご飯。部屋から出て良いよ。

〇〇:あいよー。


律儀にルールを守って、出て良いと言われた時だけ部屋を出る。出ないと追い出されてしまうから。

〜〜

〇〇:パクッ....ん!うま。

美月:どーも。


家の中ではあまり会話はない。だが、今回は〇〇から話しかけてみた。


〇〇:.....なんで最近演技教えてって言ってこないの。

美月:えっ。

〇〇:最近言ってこないじゃん。諦めた?

美月:い、いや....諦めてないけど...

〇〇:まぁ、俺としては楽なんだけど。

美月:..........〇〇君はさ、絶対に叶わない夢を追える?

〇〇:....絶対?

美月:うん。

〇〇:うーん.......あ....


脳で何かがフラッシュバックした。

??:〇〇はさぁ、夢を追えるだけで幸せだと思いなよ。私みたいに追えない人もいるんだし。

〜〜

美月:.........ん.....〇....くん.....〇〇君!

〇〇:うぁ!..なに!

美月:なにボーッとしてるの。

〇〇:あ、すまん。.....で、何の話してたっけ。

美月:......なんでもない。

〇〇:そか。


先刻のフラッシュバックも、もう記憶にはなかった。


再びの沈黙。その沈黙を切り裂くように、音が響いた。


ピンポーン


インターホンが鳴る。


〇〇:こんな時間に誰だ.....


〇〇は少し疑問に思いながらも玄関まで歩く。


ガチャ


〇〇:はーい.....って...え!?


気がついたら抱きしめられていた。


美月:そんな大きな声出してどうし....たの...

??:なんや!〇〇!彼女つくっとったんか!

〇〇:彼女じゃねぇよ!てかなんでこんなとこにいる!

??:ええやん。〇〇の彼女なんやし。

美月:か、彼女!?

〇〇:嘘言うな! てかそろそろ離せ!なな姉!

七瀬:冷たいなぁ。

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             To be continued


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