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凡豪の鐘 #2



〇〇:...いくら春になったからって4月の夜はまだ寒ぃぞ...

〇〇:なんで...なんでこんな田舎で野宿しなきゃいけないんだぁぁぁぁぁ!!


街頭もない田舎の神社。星が煩く輝き散らす空の下で一人、〇〇は野宿をしていた。

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数時間前


〇〇:俺、帰る家ねぇわ。

律:は?

〇〇:いや、これ見て。


〇〇はポケットからスマホを取り出し、律に見せた。


律:なになに.....「実家は売りに出したから、故郷の家はもう天鐘家じゃないからね」....って、これお母さんから?

〇〇:うん。忘れてた。

律:忘れてたって..どうすんの?

〇〇:まぁこんなド田舎の家なんて買う人いねぇだろ。売れたかどうかわかんないって言ってたし一回行ってみる。

〇〇:誰もいなかったら俺の家とする。元々実家だし。

律:まじかよ笑 じゃ、ちゃんと家になったら遊びに行くわ。

〇〇:ん、じゃ帰る。

律:おう、じゃあな。


親友を後にして、生まれた家へと向かった。

〜〜

午前で終わった学校から探り探りで帰路に着く。


〇〇:こっちだったっけ。


草木が生い茂る道を歩きながら記憶を辿る。


〇〇:えーっと...あ!あった!


田舎の一軒家というものは大体大きい。間隔を少し空けた住宅街の一角に和風建築の家が見えた。


〇〇:なっつかしいなぁ笑


試しにインターホンを鳴らす。


ピンポーン 返事はない。


ガラガラガラッ


〇〇:あれ、靴もないじゃん。普通に鍵開いてるし。やっぱ誰も住んでないんだな。 ただいまー。


誰もいない事を確認し、鍵を閉め家に入る。


〇〇:....ん?家の中こんな感じだっけ...。 ま、久しぶりだからか。


両親が捨てなかったであろう家具を横目に見て、家の中の家具の配置などに違和感を感じながら自分の部屋へ向かう。


ガチャ 


〇〇:うおっ! 久しぶりだなぁ笑


〇〇の部屋には大量の小説と原稿用紙が積まれていた。


〇〇:こんなん書いたなぁ笑 


数枚ペラペラと見ながらベッドに座る。〇〇の家には他にも父の部屋、母の部屋があり、そこにも大量の小説がある。そして別に書斎もある為、まさに本に囲まれた家だった。

自分で書いた小説を読んでいると、長旅の疲れからか、睡魔が襲ってきた。


〇〇:昼飯食ってねぇけど....まぁいいや、寝よ。


そのままベッドにダイブし眠りについた。

〜〜

〜〜

〇〇:....ぐがーっ.....すーっ...ふがっ! ん、ふぁぁ、今何時だ。


スマホを取り時間を見ると、もう午後3時だった。


〇〇:3時間くらい寝てたのか。さすがに腹減ったな...なんか買いに行くか。


腹の虫を抑える為にコンビニに向かおうと立ち上がり、部屋の扉を開ける。


ガチャ


〇〇:....なに食おっかなー....んぇ?

美月:え?


部屋を出た瞬間に見たものは信じ難いものだった。今にも崩れそうで目を離せないくらいに美しい女性が猫を抱きながら、そこに立っていた。

美月:キャァーーー!!!!

〇〇:うぉぁ!!


美月の悲鳴でやっと現実に引き戻され目線を外し後ろを向く。


〇〇:なんでこの家にいるんだよ!

美月:こ、こっちのセリフよ! なんで私の家に君がいるの!?

〇〇:あぁ!? なんでって、ここ俺ん家だから!

〇〇:.........あっ!


忘れていた事を脳内が駆け巡る。


〇〇:もしかして....この家買った?

美月:なんでその事も知ってるのよ! あんた....ストーカー?

〇〇:ストーカーじゃねぇ!てか...服なんで着てねぇんだよ!

美月:シャワー浴びてたからよ! 私の家なんだから勝手でしょ!

〇〇:元々ここ俺ん家なんだよ! どうやって入った!

美月:やっぱり!鍵閉めてないのに、なんで閉まってるんだろって思ったのよ!裏口から入ったけど!

美月:まぁいいわ、そんなこと! 早く出て行って!

〇〇:いや..ここに住めなかったら俺の住む場所が・・

美月:早く出てって!警察呼ぶよ!!

〇〇:もぉおぉおー!!!!


持っていたスーツケースごと外に出され、半ば強引に家から追い出された。

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そして、今に至る。


〇〇:あー...さみぃ。コンビニでなんかあったかい物でも買うか。


財布を取り出し、残金を確認する。


〇〇:ご、500円....新幹線代で飛んだ..。これいつまで家ないんだ俺。近くにマンションとかアパートねぇし、そもそも金ねぇし...。

〇〇:...ま!考えても仕方ねぇし、今日は寝よーっと。


ドサッ


〇〇は神社の屋根の下に寝転がり、目を閉じた。

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翌日 坂乃高校


教師:・・であるからして....じゃ〜、ここを山下!

美月:は、はい! えーっと...んーと..

男1:(可愛い...)

男2:(なんという可愛さだ..)

教師:わかんなかったら隣に教えて貰えよー。

美月:嫌です。

一同:えっ!?


容姿端麗、頭は良いという訳ではないが愛嬌がある。皆んなから好かれ誰かを嫌ってるという話は聞いたことがない。そんなマドンナ的な存在である美月の口から今、ハッキリと「嫌です」という拒否の言葉が発せられた。


〇〇:はっ笑 わかんねぇくせに笑


この男もそうだ。マドンナである美月に堂々と悪態をついている。今までこんな奴はいなかった。対面して話しただけで好きになってしまうから。


美月:ぐぬぬぬ...

〇〇:先生ー。係数は216です。

教師:せ、正解。と、とりあえず先進むぞ。

美月:....ストーカーのくせにボソッ

〇〇:ストーカーじゃねぇ!

教師:おい!うるさいぞ!

〇〇:あ、....すんません。

〜〜

〜〜

昼休み

〇〇は昨日の放課後と同様、屋上の梯子を登り、昼飯を食べる想像をしていた。


ぐぎゅるるるる


〇〇:うぇー...腹減った...


不意におでこに冷たい物があたった。


律:うーす。お疲れ。

〇〇:んぁ...律か。

律:これ、ジュースとパン。どうせ昼飯持ってきてないだろ。

〇〇:これからお前の事、神と呼ばせてもらう。

律:はは笑 んで?家どうなった?

〇〇:あー...うん。ちゃんと親が手配してくれてた。


面倒事になるのを避ける為、昨日の事は言わなかった。


律:ふーん。良かったじゃん。今度遊び行くわ。

〇〇:それは無理です。

律:えーー。


そんな話をしていると、下の方で屋上の扉が開く音が聞こえた。


「み、美月さん!一緒にご飯食べない?」
「僕もいいかな?」
「いや、今日は俺が食べるんだよ!」


5、6人の男子に囲まれ、美月が出てきた。


美月:んー...ごめんね?今日は美波と二人で食べたいな?

美月:また今度、一緒に食べよ?


側から見たらまるでアイドルの握手会だった。


「か、可愛い...じゃまた今度一緒に食べよ?」


美月:うん!またね!


男達は去って行った。その様子を〇〇と律は身を屈めながら見ていた。


〇〇:なぁ...あの人っていつもあんな感じなの?ボソッ

律:あんな感じって?ボソッ

〇〇:.....まぁ、いいや、なんでもねぇ。ボソッ

律:なんだよ、言えよボソッ

〇〇:まだ良くわかってないから言わない。ただ..好かんボソッ

律:お前ぐらいだよ美月さんの事を好いてないの笑ボソッ

美月:.....はぁ...

美波:どうしたの?今日ため息多いよ?

美月:んー....ストーカーに付き纏われてる。

美波:えぇ!? こんな田舎で!?

美波:まぁ...美月可愛いからねぇ。

律:おいおい、美月さんストーカーされてるってよボソッ

〇〇:はぁ....腹立ってきたぞボソッ

律:ストーカーに?ボソッ

〇〇:自分に腹立てる訳ねぇだろボソッ

律:ん?どゆこと?ボソッ

〇〇:こっちの話ボソッ


それからしばらくして


キーンコーンカーンコーン 予鈴がなった。


美波:ほら、美月行くよー。

美月:5時限目なんだっけ。

美波:国語だよ。

美月:えー...眠くなりそう...


二人は屋上を後にした。


律:俺らもそろそろ行くか。

〇〇:....んー、眠いからサボる。

律:まじ?やめといた方がいいぞー。

〇〇:なんで?

律:委員長厳しいから、怒られるよ。

〇〇:委員長って...梅澤だっけか。別にいいよ。

律:ん、おけ。じゃまた放課後くるよ。

〇〇:うぃー。


律は屋上を去って行った。


〇〇:まだ腹減ってるし...気力も出ないから寝よ。


日光に照らされながら春の陽気に包まれ、〇〇は目を閉じた。

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「期待の新星だね!」
「あの天才小説家の息子だからねぇ」
「書けて当たり前でしょ」

??:僕は....天才なんかじゃ....

〜〜

そんな夢を見た。遠い誰かの記憶。誰の記憶かはわからない。毎回そこで目が覚める。

下校中の生徒の声が響き、目を開ける。黄昏時だった。


〇〇:まだもうちょっと寝よ....んぁ...ん?


寝返りを打とうとするも、右腕に違和感を感じる。動かない。動かないというより重い。違和感を確認するべく自分の右側を見る。


??:...すーっ....すーっ....

〇〇:あ?はぁ?


一人の女性が自分の右腕にしがみつきながら寝ている。


〇〇:ちょ...ちょ! 誰!?

??:んぅ...うるさいなぁ...ん? あ!起きた!

〇〇:起きた!じゃなくて、誰?なにしてんの。

??:もう...忘れてもうたん?ずっと待っとったんやで?


その女性はゆっくりと体を起こし、〇〇の顔に近づいてくる。圧倒的に可愛い。東京にいた時もこんなに可愛い子はいなかった。そんな女性が自分を待ってたと言って近づいてくる。


〇〇:.....いや...ごめん、わかんない。

??:もう!ひどいよ、〇〇! ほんまに忘れてもうたん?

茉央:茉央やで!茉央! 五百城 茉央!

〇〇:茉央...茉央? あ!茉央!?


この子の名前は五百城 茉央。五百城 律の一個下の妹であり、小さい頃から律、茉央、〇〇の3人で遊ぶ事も多かった。五百城兄妹は関西から引っ越してきている為、関西弁だが、律は恥ずかしいから関西弁である事を隠している。


茉央:やっと思い出したん? 

〇〇:思い出した! それにしても....綺麗になったな。

茉央:へ?// ほんま?嬉しいなぁ//

〇〇:...で? なんでここにいんの?

茉央:なんでって...〇〇が転校してきたっておにぃから聞いたんや。

茉央:ほんで、いてもたってもいられんくなって、探してたらここで寝てたから...私も隣で寝てたの//

〇〇:...はは笑 そっか。

茉央:また〇〇と会えて嬉しいなぁ。なぁ、一緒に帰らへん?

〇〇:ん...いいよ。帰ろっか。


家がない事がバレないように家の前まで送って、そこで別れようと考えた。


茉央:やった!

〜〜

〜〜

茉央:ここの道〇〇と歩くの懐かしいなぁ。

〇〇:そうだなぁ。よく追いかけっこした。茉央が転んで良く泣いてたなぁ笑

茉央:恥ずかしいから言わんとって!//

〇〇:あはは笑

茉央:.....〇〇はさ...東京に彼女とかいるん?

〇〇:え?いないけど。

茉央:ふーん...いないんだ...へへ//

〇〇:どしたの?

茉央:ううん。なんでもない。 それよりさ!本屋さん寄ってっていい?

〇〇:本屋? そんなんこの町にあったっけ。

茉央:ほんまに何も覚えてへんなぁ。ま、行ってみればわかるわ。行こー!

〇〇:まぁ...やる事ないし。いいよ。

茉央:やった! 懐かしい人もおるよ。

〇〇:懐かしい人?

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数分歩いて着いた場所は、いかにも見覚えがある古本屋だった。


ガラガラガラッ


茉央:こんにちは〜、あ、美月さんも来てたんですね。


店に入る足が止まる。

美月:あ!茉央ちゃーん! 今日も可愛いねぇ、一人?

茉央:えへへ// 一人じゃないですよ。あれ?なんで〇〇入らへんの?

美月:え、〇〇?

〇〇:こんちはー...

美月:な、なんで〇〇君がこの本屋さんにいるのよ!

〇〇:別にいいだろ! 茉央に連れてこられたんだよ!

茉央:二人は知り合いなん?

〇〇:ただ一緒のクラスだってだけだよ。

美月:〇〇君は私のストー・・

〇〇:うるせぇ!余計なこと言うな!


騒いでいると奥にある階段から人が降りてくる音が聞こえる。


??:もー...騒がしいなぁ.....って....

〇〇:ん?....あ!!お前!!

??:あんた...〇〇?

〇〇:そうだよ!こんなとこで何してんだよ!蓮加!

蓮加:こっちのセリフよ!

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               To be continued






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