秘密罪 卒業編
校長:えー、校庭の木々の蕾もほころび始め・・
校長先生が壇上へ登り、式辞を述べている。
禅:これも....長そうだなぁボソッ
〇〇:いいから真面目に聞けよ笑ボソッ
禅:はは笑 悪りぃ.....でも、これで卒業かぁ...ボソッ
〇〇:そうだなぁボソッ
禅:結局最後まで引き伸ばしやがって笑ボソッ
〇〇:....仕方ないだろボソッ
4人から告白を受けてから一年程だっただろうか。天知に言われて書き始めた「秘密罪」という作品も今朝ちょうど書き終わった。
禅:今日....ちゃんと答え出すんだろ?ボソッ
〇〇:うん...まぁ...ボソッ
今朝、家で和に、屋上に来て欲しいという旨を伝えた。登校中に美空に、学校についてからは、さくらと遥香に。選ぶのは絶対に一人なのに、4人全員がとても嬉しそうな顔をしていた。
それはきっと自分が選ばれるという自信の現れではなく、僕が自身で決断してくれたということが、嬉しかったんだろう。
〇〇:......決断するって辛いなぁ..ボソッ
禅:そりゃあ...人生だもんボソゥ
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長い長い式を終え、教室へ戻る。行われるのは最後のHRだ。
飛鳥:よし。じゃあ最後のHR始めるよー。
男1:ははっ笑 先生通常運行じゃん笑
飛鳥:そこうるさいぞー。......まぁ....うるさいのも今日で最後か。
女1:グスッ....
どこか悲しくて、どこか晴れやかで、そんな憂いを帯びた特異な空気が教室を包む。
飛鳥:.....皆んな....学校は....楽しかった?
女1:うぅ...グスッ...
女2:うぇぇ....さびじい...
飛鳥が言葉を発した瞬間、生徒達の涙が止まらなかった。
遥香:......楽しかったです。とっても...。
遥香は徐に立ち上がり、話し始めた。それはどこか衝動的なものに見えた。
遥香:皆んなで文化祭とか、体育祭とか全部が楽しくて。私はこの学校の事絶対忘れません。
さくら:かっきー......わ、私も! 辛い事とか....色々あったけど...結局、全部今の為にあるんだと思う。、だから....へへっ笑 楽しかったな...。
女2:さぐぅ......
〇〇:.................ガタンッ
遥香とさくらの言葉を聞いて、〇〇は立ち上がった。
男1:ま、〇〇?
〇〇:..........僕...この学校に受け入れて貰えなかったら、どうなっていたかわかりません。
〇〇:球技大会とか、体育祭とか....文化祭とか....修学旅行とか!....全部全部....僕にとっては目新しくて、クラスの一員になれた事が本当に嬉しかった。
〇〇:......だから...グスッ....卒業したく...ないです....
男1:....お前....
男2:はぁ......泣かせんじゃねぇよ....グスッ
卒業式では泣かないと決めていた。人生単位で見ればなんて事のない一つの区切り。そう思っていた。でも、気づいた。この学校で過ごした2年間は人生で最も濃い時間だったと。そう断言できる。
少し間が空いて、再び飛鳥が話し始めた。
飛鳥:.....明日から皆んなは.....たくさんの選択肢を歩いていくんだと思う。
飛鳥:それは途中で切れていたり、何かが立ち塞がっていたり、ほんとに偶然、すんなり通れるかもしれない。
〇〇:.............
飛鳥:でもね?全部が正解の道なんだよ。君達の人生なんだ。君達が選択したことが不正解な訳がない。
飛鳥:........でも....でも、もし迷ったら、少し立ち止まって欲しい。そして心の中にある想い出に会いに行って欲しい。
飛鳥:想い出は時間が経つ程に美化され、君達を待っている。その想い出に少し浸かったらきっと、また歩き出せると思うから。
様々な事を経験した大人から発せられる言葉というのは、重く、自分の道標となるような、そんな言葉だった。
飛鳥:これで最後のHRは終わり。皆んな.....幸せになってね?
一同:はい!
〜〜
恩師の言葉に耳を傾けて、HRは終わった。僕はHRが終わり真っ先に教室を出て、ある人達の所へ向かった。
〇〇:......卒業したよ。
母:ふふっ笑 卒業おめでとう。目腫れてるわよ?笑
〇〇:うるさいなぁ笑
義父:............。
〇〇:どうしたの?義父さん。
義父は自分が持っている卒業証書をじっと見つめていた。
義父:俺は......俺はちゃんと....君の父でいられただろうか。
母:あなた......
恐らくずっと悩んでいたのだろう。突然、殺人犯の息子の義父になるなど、並大抵の覚悟ではない。だからこそ内情は揺れ動き、でもそれを表に出さないように心がけていたのだろう。
〇〇:......何言ってんだよ。義父さん。
義父:えっ?
〇〇:僕の義父さんはずっと僕の事を支えてくれた。こんな僕の事を一回も嫌がる様子なんて見せなかった。本当に.....本当にありがとう。
義父:......そうか....でも....あいつの実の父親はあいつ一人なんだ。よろしく....言っておけよ?
〇〇:はは笑.......どこまでも優しい人なんだな。"父さん"って。
義父:〇〇....
〇〇:これからも.....よろしく頼むよ。
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両親に挨拶を済ませて、教室へ戻る。すでに誰も人はいなかった。恐らく昇降口で写真でも撮っているのだろう。
僕は荷物を整理して席を立ち、教室を出る。屋上へ向かう為に。
ガラガラガラッ
教室の扉を開け、足を踏み出す。踏み出そうとした。でもその一歩が中々出なかった。
未練がましく僕は教室を再び見渡した。
いつかの、僕の告発をした黒板も、愛おしく思えた。
そして、禅、遥香、さくら、クラスの皆んな。ましてや同じ クラスでもない和や美空の声まで、聞こえてくるようだった。
いつかの、過去から逃げていた僕も、喧嘩した僕も、見捨てられた僕も、楽しかった僕も、悲しかった僕も、嬉しかった僕も、腹立たしかった僕も。
全部ここに詰まっていた。小さな想い出が詰まった大きな教室は僕を優しく愛でてくれた。
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青春とは、ありあまる力を他にどうにも使いようがないので、ただ風のまにまに吹き散らしてしまう所にあるのかもしれない。
ありあまる力というのは、喜びなのか、悲しみなのか、怒りなのか、哀しみなのか、はたまたその全てなのか。
確かに言えることはその全ての上に、「青春」が成り立って「今の僕」が出来ている。
殺人犯の息子というレッテル。もしかしたらこれより辛い思いをしている人がいるのかもしれないし、こんなことは計るものじゃないのかもしれない。
だけど僕は間違いなく断言できる。そのおかげで「今」の僕があるのなら、僕を苦しめた全ての物に感謝を伝えたい。
若い頃に戻りたいという、実現が不可能な願いは、今叶える以外ない。人生で一番若い瞬間は"今"なんだ。清い想い出を邪魔してくる「後悔」という小悪魔を討伐する為に今はある。
〇〇:ふぅー......よしっ!
ガチャ
何度開けたかわからない屋上の扉を開けた。
遥香:あ!来た!
〇〇:.....来てくれてありがとう。
遥香:もう!遅いよ!
さくら:....ふぅ....緊張してきた....
和:〇〇は誰を選ぶのかなぁ...
美空:私でしょ〜〜?
禅:.....俺か?
〇〇:なんでお前がいるんだよ...。
禅:見守りです笑
〇〇:....まぁ...いいや笑
〇〇:ゴホンッ...んん...ふぅ...答えを出すのが遅くなってごめん。
遥香:うん。
〇〇:ようやく答えがでました。
さくら:良かった。
〇〇:....誰を選んでも恨まないでね?
和:恨まないから笑 ほら!早く!
〇〇:僕が....
美空:うんうん。
〇〇:僕が....付き合いたいのは!・・・・
この続きの言葉を紡いで、僕の人生を懸けた小悪魔討伐は、一旦、幕を閉じた。
〜〜
これは一人の幸せな少年と、5人の幸せな高校生の物語。
そして、ここからは、現存する100万人余りの"これから幸せになるであろう"高校三年生の卒業後の、人生を懸けた想い出作りの物語である。
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Congratulations on your graduation.
追記
まずはご卒業おめでとうございます。そして読んでくださってありがとうございます。
今日の夜、電車に乗っていて、ふと明日高校の卒業式だということに気づきました。「秘密罪」が完結した後、「秘密罪を毎日楽しみに受験勉強頑張ってました!」という声が結構来たんです。とても嬉しくて、そんな方達に届けばいいなぁと思って書きました。
今日書いた一部分は、実際に僕が高校最後のHRで言ったことなんです。中々にダサかったです笑 友達はダセーと言いながら泣いてくれました。こんなダサくてカッコつけで、仮面浪人で、前期合格待ち手応え無し、妄ツイの書きすぎで通っている大学の単位落とし親不孝男でも生きているんです。なので、今日卒業する人も、4月から新しい事を始める人も、誇らしく、胸を張ってダサく生きていきましょう。
P.S 卒業生はこんなところまで読んでいないで早く寝なさい。明日の卒業式での涙が、眠気によるあくびの涙になるぞ。 それと、とある妄ツイ師に向けて言うけど、明日絶対告れよ?
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