秘密罪 #43
美空は4人をホテルの自室に呼び出していた。
和:......どう...だった?
美空:....やっぱり記憶は中学の頃のままで止まってたよ。
さくら:......そっか。
沈黙が流れる。皆んなは何を言い出せばいいかわからない様子だった。だが、美空だけが明らかに顔付きが違かった。
美空:.....私、〇〇の記憶を戻したいです。
遥香:えっ!?
美空:私は戻したいと思っています。今日話してみて思ったんです。やっぱり私は〇〇との思い出を無下にしたくない。今までの〇〇の思い出を失くすなんて嫌です。
遥香:....で、でも...自殺とか...
美空:私が止めます。だって〇〇も私の自殺を止めてくれたから。
さくら:.....わ、私も止める。私も〇〇の記憶を戻したい....。
美空:....でもこれは私とさくらさんの一存では決められません。3人はどうなんですか。
和:...........。
遥香:...わ、私は.....
禅:....俺は記憶を戻す事に賛成だ。
和:えっ!
禅:俺は記憶を戻した〇〇としっかりと話がしたい。じゃないと何も始まらない気がする。
一番反対するだろうと思っていた禅が記憶を戻す事に賛成した。
遥香:.....そうだよね...。今のままだったら、何も始まらないないよね...。
和:......私も...また〇〇と話したい...。
美空:....良かった..。
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翌日から〇〇の記憶を戻す為の対話が始まった。条件は部屋に入るのは一人だけ。そして、あまり刺激を与えるような直接的なことは言わない事、時間の制限を設ける事だった。
記憶を戻すにあたり、まずは〇〇に、自身が記憶喪失である事が告げられた。
〜〜
コンコンコンッ
〇〇:はい。
和:失礼します...。
今日対話するのは和だった。
〇〇:えっと....初めまして?ではないのか...。
和:.....隣良い?
〇〇:あ、うん。どうぞ。
和は〇〇のベッドの横に椅子を持ってきて座った。
和:体調は?...どう?
〇〇:おかげさまで元気です。
和:.....そう..。
会話が続かない。記憶がない人間と何を話したら良いのかわからなかった。気を遣って話し始めたのは〇〇だった。
〇〇:えーっと.....名前はなんて言うんですか?
和:あ、そっか....。井上和って言います。〇〇の一個下。
〇〇:へぇ....和ちゃんって言うのか。綺麗な名前だね。
和:っ.....。
綺麗な名前。和と〇〇が初めて会った時も、〇〇が言ってくれた言葉だった。
〇〇:あのさ....僕と和ちゃんはどういう関係なの?
和:私と〇〇は.....えーっと....家族...だよ。
〇〇:家族!? 僕って和ちゃんと結婚するの!?
和:ち、違うよ!// 私は〇〇の妹!
〇〇:妹!? .....ってことは..父さんと母さんは離婚したってことか...。
和:いや....まぁ...うん。そうだよ。
直接的な説明はできない。一気にショックを与えてしまい何が起きるかがわからないからだ。
〇〇:そっかぁ....。ははっ笑...でも良かった。あの父さんから離れられて、こんな可愛い妹ができたのかぁ。
和:えっ!? か、可愛い?//
〇〇:え、うん。可愛いよ。......僕はちゃんとお兄ちゃん出来てたのかな。
和:もちろん!〇〇はね、料理も作ってくれるしね、ドライヤーで髪乾かしてくれるしね、嫌って言いながらも一緒に寝てくれるんだよ!
〇〇:へぇー! 僕は和ちゃんを溺愛してるんだね僕笑 料理なんてした事ないんだけどなぁ。
和:えぇ!そうなの!本当に美味しいんだよ〇〇の料理!
〇〇:練習したのかな笑
慣れてきたら話が止まらなかった。
〜〜
和:あはは笑 やっぱり〇〇と話すの楽しいな。
〇〇:僕も笑 .......でもさ、僕はなんで記憶喪失になったの?
和:....えーっと...車に轢かれちゃって...。
〇〇:うわー...全然覚えてないなぁ笑 あ、そうだほんとは僕何歳なの?
和:17歳かな。高校2年生。
〇〇:えぇ!? 3年も時間経ってるのか....。なんか変わった事とかある?
和:......変わった事......まぁ...あるけど...うーん。
刺激を与えない為に言葉を選ばなければならなかった。
和:あ!〇〇は野球を続けてて甲子園に出たよ!
〇〇:ほんと!? ほんとに!?
和:うん。
〇〇:やっったぁぁぁ! プロへの第一歩だ!
和:ふふっ笑 すごい活躍してたんだよー。
看護師:すみません。そろそろお時間です。
和:あ、はい。わかりました。
〇〇:あの...また来てくれるかな。
和:うん!また来る!....〇〇!大好きだよ!
〇〇:へっ!?
そう言い残し、和は部屋を出た。話す前は不安だったが、話してみたらどうって事はなかった。結局〇〇は〇〇でしかない。和は、〇〇の大切さを再認識していた。
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翌日
コンコンコンッ
〇〇:はい。
さくら:失礼しまーす...。
〇〇:初めまして。....じゃなくって..えっと..また間違えたな。
さくら:ふふっ笑 私、遠藤さくらって言います。
〇〇:遠藤さくらさんね。よろしくお願いします。
さくら:同い年なんだから敬語使わないでよ。
〇〇:あぁ...同い年なんだ。
さくら:....ベッド座って良いかな。
〇〇:え、あ、はい。どうぞ。
〇〇は少し端の方に体を寄せて、さくらを座らせた。
さくら:....ん?なんか緊張してる?
〇〇:え!? いや、まぁ、うん..。
さくら:なんで?
〇〇:だ、だってこんな可愛い人知らないし//
さくら:へっ!? か、可愛い//
〇〇:ご、ごめん//
〇〇にとってさくらは年上に見えている。転校してきた当時の〇〇は人と関わる事を諦めていた為、あまり異性にも興味がなかった。だが、今の〇〇は純粋な感想を述べている。
〇〇:..えっと、さくらさんと僕はどんな関係だったの?
さくら:さくらでいいよ。私と〇〇君はね...えーっと...友達かな。
〇〇:へぇー....友達かぁ...。僕話す時緊張とかしてなかった?
さくら:全然してなかったよ笑 むしろ私が緊張しちゃうくらい//
〇〇:なんでさくらが緊張するの笑
久しぶりにさくらと呼ばれ胸が跳ねる。
さくら:わ、私は....〇〇君の事が好きだから...。
〇〇:え、えぇ!? 僕の事が!?
さくら:う、うん。 今も好きだよ。だから記憶を戻してさ、また一緒に学校行きたいの。
〇〇:なんか...ありがとう// でも自分で言うのも何だけど、よく僕の事を好きになったね。
さくら:なんで?
〇〇:だって、僕の周りの女子は全員美空が寄せ付けないようにしてたから笑
さくら:あー....そっか...。
日記の内容を思い出す。そういえばそんな事が書いてあった。
さくら:えーっとね....これ言って良いのかなボソッ
〇〇:ん?どうしたの?
さくら:んーー....美空ちゃんと〇〇君はね....実はあの...お別れしちゃってて...。
〇〇:え、あ、そうなの....。あぁ....そうなのか...。
〇〇の顔がどんどん曇っていった。
さくら:ご、ごめんね。でもその....仲が悪くなってとかじゃなくてね!
さくら:色々あってね....でもね、今も美空ちゃんは〇〇君が好きなんだよ!〇〇君は色々迷ってるんだけど、答えを出すと思うし、えっと...だからね・・
〇〇:ふふっ笑 さくらは優しいんだね。
さくら:え?
〇〇:さくらにとって美空はライバルな筈なのに、僕と美空の仲を保とうとしてくれてた。
さくら:...うーん。....私は正直〇〇君に選ばらなくてもいいんだ。
〇〇:えっ?
さくら:とにかく〇〇君には幸せになって欲しいんだ。だから美空ちゃんと仲悪くなって幸せにならないなら私は仲を取り持つし、他の人と結ばれて幸せになるんだったらそれでもいいと思ってるんだ。
〇〇:......ど、どうしてそこまで僕に...
さくら:ふふっ笑 それは〇〇君が私にとっての救世主だからだよ?
〇〇:どういうこと?
さくら:〇〇君はね、私をいじめから救ってくれたんだ。....でもそのせいで〇〇君が悩んじゃった事もあったけど...とにかく〇〇君は私にとって本当に大事な人なの!
〇〇:....そっか..。....僕って結構変わったんだなぁ笑
さくら:ふふっ笑 そうだね。
看護師:すいません。そろそろお時間です。
さくら:あ、はい。わかりました。じゃあまたね!〇〇君。
〇〇:うん。またね。
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翌日
〇〇:今日は誰が来んのかな...。
ガラガラガラッ
遥香:入るよー.....。
〇〇:あ、こんにちは。
遥香:え、あ、こんにちは。隣座ってもいい?
〇〇:あ、うん。どうぞ。
遥香:よいしょ。....元気?
〇〇:うん。元気ですよ。えっと...お名前は?
遥香:私はね、賀喜遥香って言います。〇〇と同い年だよ。
〇〇:遥香ね。美人さんだね。
遥香:なっ// 中学の頃の〇〇はこんな事簡単に言うのか//
〇〇:反応が面白いね笑 僕と遥香は友達なの?
遥香:うん。友達だよ。
〇〇:友達か。
数秒間が空いて、〇〇が少し悩んだような表情をしてから話し始める。
〇〇:.....あのさ.....僕はさ....美空とさくらのどっちを選びそうなの?
遥香:えぇ!? どうしたの急に!
〇〇:いや...昨日さくらが来てさ...好きって言ってくれて、美空もそう言ってくれてるって...僕は今美空が好きなんだけど、実際どうなるのかなぁって...。
遥香:.......私にそんな事聞かないでよ....。
〇〇:え?....ごめん...。
遥香:あー...違くて...そう言う意味じゃなくて...んーもう//
〇〇:どうしたの?
遥香:まだ一回しか行ってないんだけどなぁボソッ.....わ、私も〇〇の事が好きなの!
〇〇:へっ!?
遥香:私も...〇〇を取り合ってるって言うことだよ// あー、もう恥ずかしい//
〇〇:....そ、そうなんだ...。その...ありがとう//
遥香:......実はね、最近ね、〇〇と私達は喧嘩?みたいなのしてたの。
〇〇:あ、そうなの。なんかごめんね。
遥香:ううん。謝るのは私達の方で.....〇〇は本当に何も悪くないのに...勝手に遠ざけてて...。
遥香:ごめんなさい。
遥香は立ち上がって〇〇に頭を下げた。
〇〇............あれ?
遥香:ん?....あ。
遥香が頭を上げると、〇〇の目からは涙が溢れていた。
〇〇:ん、ごめん...。なんか涙が勝手に...あれ、なんでだ...。
記憶の芯が〇〇に訴えかけているのだろう。やはり咲月に関わる事が、〇〇の記憶を呼び起こす鍵だろう。だが今はまだダメだというとこも遥香は知っていた。
遥香:もう...泣かないの。 悪いのは私達なんだから。
遥香は指で〇〇の涙を拭ってやった。
〇〇:うぅ...ありがとう//
遥香:へへ// あ、そうだ今日はこれ持ってきたの。
そう言って遥香は自身の鞄から、ある物を取り出した。
〇〇:これは....リストバンド?
遥香が手に持っていた物は、少しくたびれたリストバンドだった。
遥香:私ね、これ毎日持ち歩いてたんだ。ちょっとボロボロになってきちゃったな笑
〇〇:....大事な物なんだね。
遥香:うん。これは〇〇が初めてくれた物なんだよ?体育祭の時に友達皆んなでつけようって。
〇〇:へぇ....僕が...
遥香:嬉しかったんだぁ...。家に帰ってもずっと身に付けてた。
〇〇:....大切にしてくれてるんだね。
遥香:うん。一番大切なもの。....付けてみる?
〇〇:え....じゃあ....付けてみようかな。
遥香は〇〇の折れていない方の腕にリストバンドを付けた。
〇〇:....うあ?.....あぁ...ぐぁ...あ、頭がいだい...
遥香:ま、〇〇!大丈夫!?
〇〇:うぁあ...これ..外して...
遥香:わ、わかった!
遥香は急いでリストバンドを外した。
〇〇:はぁ...はぁ...何だ今の...
遥香:ど、どうしたの?
〇〇:頭に...なんか違う人の記憶が...一瞬だけど..。
遥香は察した。それはきっと〇〇の記憶だろう。このリストバンドは〇〇の記憶に刺激を与える物だったんだ。
看護師:すみません。そろそろお時間です。
遥香:あ、わかりました。〇〇、頭痛かったら先生に言ってね。
〇〇:うん。もう大丈夫。またね。
遥香:うん。またね。
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翌日
今日は禅が対話する日だった。禅は〇〇がいる部屋の前で止まっていた。
禅:ふぅ....なんか緊張するな....。
天知:ちょっと待て!まだ入るな!
禅が扉に手をかけた瞬間、天知が声をかけてきた。
天知:俺を先に入らせてくれない?ちょっと用があってね。
禅:え?....ま、まぁいいですけど....。
天知:あざーす。あ、俺が出るまで禅君は入らないでね。
そう言い残し、天知は〇〇の部屋へ入っていった。少し嫌な予感がした。天知という男は何をするかわからない。
その予感は天知が入って、数分後に明らかになった。
〇〇:うぅぁぁあああぁあ!!!
禅:な、なんだ!?
部屋の中から〇〇の叫び声が聞こえた。一度とてつもない大きさの叫び声が響いた為、病院の先生も駆けつけた。
医者:な、なにごとですか!?
禅:い、いや僕にもなにがなんだか....
数秒後、天知が部屋から出てきた。
天知:うし。お待たせ。後はごゆっくりー。
そう言って天知はどこかへ行ってしまった。メモ帳に何かを書きながら。
部屋の中を見る。そこには涙で顔がぐちゃぐちゃな〇〇がいた。そして〇〇は静かに、笑っていた。
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To be continued
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