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秘密罪 #4


あの日以降、遥香と禅は〇〇に話しかける事は無くなった。〇〇も同様に禅と遥香と話す時は必要最低限クラスメイトに不審がられない程度の会話をするだけだった。


男2:なぁ〇〇。お前球技大会、ソフトボールとバスケ出るんだろ?

〇〇:うん、そうだよ。

男2:俺も一緒。放課後練習しようぜ。

〇〇:おっけー。


ごく普通の高校生を演じた。秘密がバレても相手がすぐ離れられるような関係性。それが〇〇の望んでいたことだった。

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放課後 グラウンド

捕手:なぁ禅。前に禅と勝負した奴いるじゃんか。あいつ結局野球部入んないの?

禅:......うん。入らないって。

捕手:まじかー。あいつ入ってくれたら優勝見えてくんのにな。

禅:..............

捕手:練習始めるぞ。ないものねだりしてても仕方ない。

禅:おう。

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放課後 教室

女1:賀喜さん、勉強教えて〜

女2:私も!

遥香:うん!いいよ!

女1:賀喜さんって頭も良いし、可愛いし、絶対モテるよね〜

遥香:全然全然!

女2:嘘だー。賀喜さんは好きな人いないの?もしかして禅君とか?

遥香:いないよ。禅は仲良いけど友達って感じだし。

女1:じゃあ〇〇君?

遥香:えっ!?なんで!?

女1:なんでって....。いつも〇〇君の事目で追ってるじゃん。

遥香:す、好きな訳ないじゃん!

女2:えー、趣味悪ーい。私はいつかのイケメン君がいいなー。あの日以来見てないなー。

遥香:(あーーーーもう!あの日から〇〇君のことばっか考えてる。モヤモヤする)

女1:でもさー〇〇君って優しいよね。

遥香:え?

女1:前に勉強も教えてくれたし、街で見かけた時も、お婆ちゃん助けてんの見た。

女2:なにそれ聖人じゃん。でも〇〇君ちょっと怖いんだよねー。なんか素が見えないっていうか。

遥香:..............

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〇〇:ただいまー。

和:おかえりー。〇〇兄今日の夕ご飯なに?

〇〇:ハンバーグ。

和:やったぁ!〇〇兄のハンバーグ美味しいんだよね。


和がエビフライとおはぎしか作れないとわかり、料理当番は〇〇の役割になった。


〇〇和:いただきまーす。

和:美味しい!最高!

〇〇:良かった笑。作り甲斐があるよ。

和:あ、そうだ!今度彩が家に遊びに行きたいって言ってるんだけど、いいかな。日曜なんだけど。

〇〇:いいよ。僕はショッピングモール行ってくるから、楽しんで。

和:ありがと!

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日曜日


遥香:行ってきまーす!

遥香母:あんまり遅くならないようにねー。

遥香:うん!


遥香は服を買いにショッピングモールへ出かけた。


遥香:この服もいいなー。あ、これも良い!迷うなーって....あれ〇〇君?...


遥香の視線の先には〇〇がいた。小さな男の子と手を繋いでいるのが見えた。


〇〇:お母さんと来たの?

子供:うん。グスッだけどどっか行っちゃった。

〇〇:大丈夫、必ず見つけてやるから。泣くな少年。
どこではぐれたかわかる?

子供:僕がおもちゃコーナーに走って行ったの。それでおもちゃ見てて、気づいたらいなかった。

〇〇:じゃまだお母さんはおもちゃコーナーにいるかも知れないね。行こっか。


〇〇は迷子を連れて母親を探していた。


子供母:あぁ!見つけた!

子供:お母さん!

子供母:もう!どこ行ってたのよ!

子供:ごめんなさいグスッ でもお兄ちゃんが助け......
あれ、お兄ちゃんがいない。

子供母:もう行くわよ。


遥香はその一部始終を見ていた。


遥香:優しい...っていうか完璧じゃん。


遥香は〇〇のことが気になり、後をつけていくことにした。


〇〇:えーっと、飲み物はこんくらいでいいか。あとは、なんかいるかな。

遥香:(あんなに飲み物買って、何に使うんだろ)


その後、〇〇は本屋に向かった。


〇〇:おっ!この人の新作出てんじゃん!買おうっと

遥香(あんな嬉しそうな顔するんだ)

婆:あのーすいません。

〇〇:どうしました?お婆さん。

婆:ちょっと目が悪くてねぇ。眼鏡も忘れちゃって。探して欲しい本があるんだけど。

〇〇:お安い御用ですよ。どれですか?

遥香:.............


遥香は段々〇〇がどんな人間か理解していた。それと同時に、自分が〇〇に対して、どんな感情を持っているかわからなくなっていた。

△△:なぁなぁ、そこのお姉ちゃん。1人?

□□:可愛いね。俺らと遊ばない?

遥香:ちょっと、、やめてください。

△△:いいじゃーん。遊ぼうよー。ほら!

遥香:ちょっと離してください!


こんな時周りは薄情だった。助けないととわかっていても、助けられない。見て見ぬふりをする。そんな人が周りに大勢いた。


〇〇:いやー確かに可愛いっすよねー。

△△:あ?お前誰だよ。

〇〇:んーーと、何て言えば良いのかな。

遥香:.......グスッ

〇〇:あー、彼氏彼氏。人の女に手出してんじゃねぇよ。

□□:ちっ。男いんのかよ。つまんねぇ。行くぞ。


男達はが去っていった。


〇〇:ふーっ。今時いるんだな。

遥香:あの......ありがとう。

〇〇:気にすんな。じゃあな。

遥香:待って!

〇〇:なに。

遥香:い、い、一緒に帰ろ?お、お願い!

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ショッピングモールからの帰り。外は暗くなり、雨が降っていた。


〇〇:傘、持って来てなかっただけだから。

遥香:わかったってば。予報見てなかったんだね。


遥香からの誘いを断っていたが、外に出ると雨が降っていた。遥香は傘を持って来ていた為、渋々借りる事にした。


遥香:傘持ってくれてありがとう。

〇〇:あぁ、まぁこんくらいは。


しばらく沈黙が続いた。雨の音だけが響いていた。沈黙を破ったのは、遥香だった。


遥香:あの、さ...なんで助けてくれたの?

〇〇:なんでって.....困ってたから?

遥香:......迷子の子も助けてたよね。

〇〇:見てたの? いやまぁ、それも困ってたから?

遥香:お婆さん助けたのも、困ってたから?

〇〇:まぁそれ以外ないし。てかどこまで見てたんだよ。

遥香:...私ね、ずっと〇〇君のこと考えてたの。あの日から。

〇〇:.........

遥香:殺人犯の息子って聞かされて、正直怖いと思った。自分の身近に犯罪を感じて、今でも怖いと思ってる。

〇〇:まぁそうだろうね。

遥香:でもね、今日〇〇君を見て思ったの。〇〇君は悪い人じゃない。むしろとても良い人。そんな人が幸せになれないなんて、私おかしいと思う。

〇〇......そんなの関係ないんだよ。僕がいくら良い人でも、皆んなは出来るだけ犯罪というものから遠く生きたいんだ。僕の人間性なんて関係ないんだよ。

遥香:....じゃあほんとに...ほんとに友達なんていらないと思ってるの!?

〇〇:....僕は...僕の周りが幸せならそれでいいんだよ。

遥香:.....君は不幸でいいの?

〇〇:それが償いなんだ。

〇〇:家着いた。傘ありがとう。じゃあな。

遥香:...............

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〇〇:ただいまー。

和:おかえり!あれ、濡れてない。

〇〇:あぁクラスメイトが貸してくれた。

和:友達できたんだ!良かった!

〇〇:友達じゃないよ。

和:友達じゃない人に傘借りないでしょ。それにいつもと顔違うし、良いことあった?

〇〇:.........うるさいぞ。ご飯食べよ?

和:(もしかして......女か..)

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キンコンカンコーン

昼休み、〇〇は弁当を持って屋上へ向かった。


〇〇:お、さくら。隣いいか?

遠藤:ん。いいよ。


〇〇はさくらと2人で食事をとった。その後は本を読んだり、他愛もない話をしていた。


遠藤:ねぇ、〇〇君ってさ。

〇〇:うん。

遠藤:殺人犯の弟かなんかなの?

〇〇:は?なにいってんの。

遠藤:だっていつも読んでるそのボロボロの小説、殺人犯の弟が主人公じゃん。

〇〇:......さくら凄いな。でもちょっと違う。僕は殺人犯の息子だよ。

遠藤:ふーん。惜しかったな。

〇〇:怖くないの?僕のこと。

遠藤:なんで?〇〇君は良い人じゃん。〇〇君の事は、〇〇君として見てるから。

〇〇:.....そっか。

遠藤:というより私に話して良かったの?

〇〇:さくらはそういうの気にしないと思った。なんでかは分かんないけど。こんな気持ちで秘密を言ったのは初めてだ。

遠藤:ふーん。今までいなかったの?〇〇君を〇〇君として見てくれた人。


その時〇〇は昨日遥香が話してくれた事を思い出していた。


〇〇:いた....かも。

遠藤:その人の事、大切にした方がいいと思う。

〇〇:えっ?

遠藤: 「他の人間との繋がりの糸を、一本ずつ増やしていくしかない。君を中心にした蜘蛛の巣のような繋がりが出来れば、誰も君を無視できなくなる。」

遠藤:その小説でも、そう言ってたでしょ?

〇〇:............

遠藤:昼休み終わりだ。戻らないと。


さくらの言葉は〇〇の心に深く深く刺さった。痛みにも似た感情。自分は逃げているだけだと痛感した。だが〇〇はまだ決心がついていなかった。

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放課後

飛鳥:明日は球技大会だ!皆んな勝たなきゃ飛鳥ちゃんがお仕置きするからな!

男1:俺、先生にならお仕置きされてもいい。

男2:それな。

飛鳥:この後、委員長残って。タイムスケジュール作って欲しいの。

〇〇、遥香:分かりました。

飛鳥:じゃ明日は頑張ろー。

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教室には遥香と〇〇だけ。2人は何も言わず黙々と作業していた。

〇〇:..........あのさ。

遥香:へっ!な、なに!?


〇〇から話しかけてくることなんて無かった。遥香は驚いて目を丸くしていた。


〇〇:いや..その....あと僕がやるから先帰って良いよ。

遥香:あ....え...それだけ?

〇〇:.....うん。


てっきり昨日の事でなにか話されるも思った遥香は拍子抜けだった。


遥香:わかった。じゃあね。


遥香は教室を飛び出した。なにかから逃げるように。〇〇からなのか、その空間からなのか、ましてや自分からなのか。わからなかった。

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禅:部活疲れたー。って遥香?

遥香:あぁ禅か。

禅:今帰り?一緒に帰ろうぜ。

遥香:いいよ。帰ろ。あっ!

禅:どした?

遥香:教室に忘れ物した。

禅:なんだよ笑。はよ取りに行ってこい。

遥香:.....ついて来て。

禅:え?なんで?

遥香:教室に...〇〇君がいる。

禅:...そゆことね。わかった。


禅と遥香は2人で教室へ向かった。〇〇への感情がぐちゃぐちゃなまま。足取りは重かった。どれだけ重くても、着きたくなくても、教室には辿り着いた。


禅:じゃ行ってこい。なんなら俺が行こうか?

遥香:禅、ちょっと待って。


遥香は急に小声になった。そして教室の中を見つめていた。その目線の先には〇〇がいた。〇〇は1人涙を流していた。中から〇〇の声が聞こえた。


〇〇:本当にこれで良いのかな。
  僕はもう幸せになれないのかな。
  いつまでこんな事、続ければ良いのかな。

禅、遥香:..................

〇〇:なんだかんだ、あいつらと居た時、、楽しかったな。殺人犯の息子じゃなかったら、友達に...なれたのかな。

禅、遥香:!!


あいつら、とは誰の事か。禅と遥香は自分達だとわかっていた。


遥香:忘れ物はいい。帰ろう。

禅:うん。


2人供、帰り道に会話は無かった。ただ思っている事はわかった。ようやく気持ちが固まった。

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〇〇:ただいまー。

和:おかえり。今日エビフライ作った。

〇〇:お!ありがとう。

和:目腫れてるけど、大丈夫?

〇〇:.....うん、大丈夫。ご飯食べよ?


食事中、学校の話になった。


和:〇〇兄。明日は球技大会だよ!

〇〇:そうだな。

和:〇〇兄のクラスにも負けないよ!

〇〇:やる気満々だな笑。

和:〇〇兄なに出るの?見に行く!

〇〇:バスケとソフトボール。見に来てもあんま出ないよ?補欠だから。

和:でも行く!


〇〇は間違いなく学校で1番運動ができる。だが目立たないように自分で補欠登録をしていた。


〇〇:早く寝るんだぞ。怪我しないように。

和:わかった!おやすみ!

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遥香L:禅、今いいかな。

禅L:どした?

遥香L:〇〇君の事なんだけど、、、、、、、、、



禅L:...わかった。俺もそう思ってたから。

遥香L:ありがとう。じゃ明日の放課後ね。

それぞれの思いを抱き、遂に球技大会が始まろうとしていた。

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                                         To be continued





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