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凡豪の鐘 #8


〇〇:今....5時半か。もう居たりすんのかな。

蓮加:まだじゃない?最近行ってないからわかんないけど。


2人で夕暮れに染まる道を歩いていく。


蓮加:....な、何気に2人で帰るの初めてだね。

〇〇:ん?そうだったか? 

蓮加:う、うん//

〇〇:.....なんかお前おかしいぞ? 変なもんでも食ったか?

蓮加:うっさい💢 ......あんたさぁ、東京で何してたの?

〇〇:東京では....普通に小説書いてたよ。まぁちゃんと書いてたのは中学までだけどな。

蓮加:高校は?

〇〇:.....書いてねぇ。

蓮加:なんで?

〇〇:うっせぇなぁ。色々あんだよ。

蓮加:......ふーん。

〇〇:お、着いたぞ。


2人が歩みを止めた場所は、看板に"割烹まなつ"と書いてある割烹料理屋だった。すでに店内からは賑やかな声が聞こえている。


ガラガラガラッ


〇〇:たのもーー。

蓮加:お邪魔しまーす....

??:いらっしゃいませ.....蓮加ちゃんじゃない!久しぶり!最近来てくれないから寂しかったんだよぉ!

蓮加:久しぶりです。真夏さん。


この女性は秋元真夏。この割烹まなつの跡取り娘である。曾祖母の代からこの店は続いており、曾祖母の名前が真夏だった為そう名付けられた。秋元真夏は曾祖母と同じ名前という事になる。


秋元:あれ、蓮加ちゃん彼氏できたの?

蓮加:か、彼氏じゃないです!!

〇〇:俺だよ、アキ姉。

秋元:アキ姉....も、もしかして〇〇君!?

〇〇:せーかい。久しぶりだね。

秋元:キャーー!!おっきくなったねぇ!ちょっとカッコよくなっちゃって!ささ、早く座って?


この割烹まなつには、蓮加と〇〇は良く遊びに来ていた。小学生の頃はまだ、真夏は店のお手伝いのような感じで働いていた為、〇〇は真夏のことを姉の様に接していた。

それと、この割烹まなつに遊びにきていた理由はもう一つ。


〇〇:おいおい、爺ィ共、もう出来上がってんじゃねぇか!

爺1:あぁ? なんだ若造、その口の聞き方は。

〇〇:俺だよ俺! 天鐘〇〇だよ! 覚えてっか?

爺2:あまねぇ? .....んぁ!? お前、天坊か!?

〇〇:やめろ!その呼び方!"てんぼう"ってダサすぎんだろ!


この地域に酒が飲める店はこの割烹まなつのみ。差し当たってこの割烹には、地域から多くの年配者が酒と料理を飲みにくる。


〇〇:まだ小説読んでるか? もうそろそろ見えなくなって来てんじゃねぇの?

爺1:舐めた口を....一日一冊は読んでるわい! 

爺2:小説はワシらの命だからのぉ。


そう。この割烹には多くの小説好きが集まる。理由は岩本賢治が良く飲みに来るから。賢治がこの地域に住んでいる事は、この地域の人以外は知らない。その為、この地域の年配者達は賢治と気兼ねなく、割烹まなつで飲み明かす。

小学生の時、〇〇達は自作の小説を書いて、客に見てもらう。そんな事を繰り返していた。


爺1:それはそうと....天坊、お前東京に行ったんじゃなかったか?

〇〇:帰って来たんだよ。

爺2:よう帰って来たなぁ。天坊がいなくなった日以来、蓮加ちゃんは凄く寂し・・

蓮加:わーー!! やめて!!

〇〇:あ? ....んなことより爺ィ共。新作の小説持って来たぞ。

爺1:お! ほんとか! 成長したか見せてもらうぞ。

〇〇:蓮加と俺、どっちが面白かったか評価してくれ。

爺2:い、いいのか?確か蓮加ちゃんは天坊に一回も勝った事なかった筈....

蓮加:いいんです。情けかけるとかやめてくださいね。

爺1:良い覚悟だ!よっしゃ!他の席の奴にも読ませよう!

〜〜

〜〜

爺達が読んでいる間、2人はカウンターに座り待っていた。


秋元:まだ〇〇君も小説書いてるなんてねぇ...。

〇〇:もう辞めようと思ってたんですけどね。父親にあんな事言われちゃ辞めらんないです。

秋元:私も見てたよ! あれ、凄かったねぇ。

〇〇:頭おかしいんすよ。あの人。......まぁこれも線引きかもしれないっすけど..

秋元:蓮加ちゃんは、ずーーっと言ってたもんねぇ。〇〇君が帰ってくるまでずっと書く!って。

蓮加:なっ!?

〇〇:お?そんなこと言ってたんか。

蓮加:そ、そんなんじゃ//

秋元:ふふ笑 時に〇〇君。彼女はいるの?

〇〇:彼女なんていないっすよ。

蓮加:.....あはは笑 こんな奴モテるわけないじゃないですか!

〇〇:んだとこの野郎!

秋元:まぁまぁ笑 (彼女いないってわかった瞬間、蓮加ちゃん嬉しそうだったなぁ笑)


そんな話をしていると、後ろから声が聞こえた。


爺1:おい、天坊。読み終わったぞ。

〇〇:お!読んだか!何人に読ませたの?

爺2:ワシら入れて5人だ。

〇〇:わかった。じゃあどっちの作品が面白かったか言ってくれ。

〇〇:これで決着着くなぁ、蓮加。

蓮加:望むところよ。

爺1:じゃあ言ってくぞ?

〇〇:頼む。


小説大好きお爺ちゃん達は一旦目を見合わせてから言った。


爺1:ワシ、天坊。

爺2:ワシは蓮加ちゃん。

爺3:ワシも蓮加ちゃん。

爺4:ワシは.....天坊かのぅ。


2票ずつで割れた。小学生の頃は〇〇がずっと満票で勝っていたのに。


〇〇:あ、後1人!

爺5:ワシは...蓮加ちゃんの方が良かったなぁ。

蓮加:やったぁ!!!

〇〇:う、嘘だろ....


3対2で蓮加の勝ち。蓮加が可愛いから票を入れた訳じゃないというのは、この場にいる全員がわかっていた。


〇〇:なんで....なんでだ!?

爺1:ワシは天坊に入れたんだが、蓮加ちゃんに入れる気持ちもわかるぞ。

爺2:ワシも。悩んだなぁ。

爺3:天坊。ワシらが今思っている事を言ってやろうか。

〇〇:....聞かせろ。

爺3:小学生の頃から天坊は大人にも引けを取らない作品を仕上げてた。まさに天才って感じだった。

〇〇:な、なら今回のも!

爺3:だがな。あの時からなんも変わっとらん。面白いは面白い。だがなんも変わっとらん。

爺1:そうだな。対して、蓮加ちゃんは凄く上手くなったな。見間違えたよ。ずっと試行錯誤して書いていたのが目に見える。

賢治:わかったか?〇〇。

〇〇:あ?


扉を開けて、腕を組みながら立っていたのは賢治だった。


賢治:蓮加はようやく小6の頃の〇〇に追いつき勝てるようにもなった。〇〇は小6のまま止まってるってわけだ。

賢治:......お前...停滞してるな?

〇〇:..............。


才能の停滞。父親が言っていた。歳をとって才能に縋っている奴は誰もいないと。ここからは努力。それをまざまざと見せつけられた。


賢治:蓮加もだ。ようやく小6の〇〇に追いついたってだけ。追い越したければもっと書け。

蓮加:....わかってる。

爺1:褒めないなぁ、賢治さんは。

賢治:うるせぇ。 ほらさっさとガキ共は帰れ。真夏ちゃんビール一つ。

秋元:あっ、は、はい!


2人は複雑な感情を持ちながら、店を後にした。

〜〜

〜〜

〇〇:..............

蓮加:.............


2人が歩く足音だけが闇夜に響いている。時刻はもう19時をまわっていた。

刹那、その暗闇を裂く爆音が響いた。


〇〇:ちくしょう!!!!

蓮加:うわっ!?

〇〇:ちくしょう.....くそっ! 負けた負けた負けた!

蓮加:ちょ、ちょっと〇〇!声大きいって!

〇〇: うっせぇ!大体お前もなんで....もっと嬉しそうにしねぇんだ!

蓮加:そ、それはお爺ちゃんから褒められなかったし...

〇〇:ケンじぃが褒めるわけねぇだろ!褒められる為に書いてんのか!?

蓮加:違う! ずっとあんたに勝つ為に....

〇〇:じゃあもっと喜べ!俺に気遣ってんじゃねぇ!

蓮加:っ!


正直、〇〇にどう声を掛けていいかわからないから黙っていた。それもどうやらバレていたらしい。

小さい頃から、〇〇は人の小さな変化や機微に良く気付く人間だった。恋愛以外は。


蓮加:........負け犬。

〇〇:あ?

蓮加:私に負けた負け犬ぅ! 中学時代何してたのかなぁ?

〇〇:ぐぬぬぬぬ...

蓮加:あーあー、追い越すのも時間の問題かなぁ。ゲームよりも簡単に攻略できそう。

〇〇:言い過ぎだバカ!

蓮加:あはは笑 あんたが喜べって言ったんじゃん!笑

〇〇:くそっ! 次は絶対勝ってやるからな!見とけよ! くそぉぉぉおお!!!


彼は走り去って行った。その姿を見て、何も変わってないんだなと思った。どこまでも真っ直ぐで、飾らない。小説を書くのをやめると言った時は失望したが、やっぱり戻って来た。彼はやっぱりそういう人だった。


蓮加:はぁ笑....笑った笑 .....ん?


遠くの方から人影が見えた。猛スピードでこっちに向かって来ている。


〇〇:ん!


戻って来たのは〇〇だった。右手には板チョコが握られていた。


蓮加:な、なに?

〇〇:約束したろ!お前が勝ったら、好きなもん買ってやるって。お前確かチョコ好きだったろ。


確かに小学生の頃約束した。あまりにも私が勝てなくて泣いてた時に〇〇が言ったのだ。もし俺に勝ったら蓮加の好きな物を買ってやると。それがあったから私は頑張れた。子供騙しだと今だったらわかるが、当時はそれだけで頑張れた。


蓮加:確かにしたけど....覚えてたの?

〇〇:うん。 ほら!3回負けたから3枚だ!次は負けねぇかんな!

蓮加:....ありがとう。

〇〇:あと、ほら。


〇〇は着ていた学生服を脱ぎ蓮加に羽織らせた。


〇〇:さみぃから着てけ。明日学校で返せよ? 

蓮加:だ、大丈夫だよ!

〇〇:風邪引かれたら困る。勝負する相手いないからな。 じゃあな!


再び〇〇は走り去ってしまった。

真っ直ぐで、飾らなくて、口が悪くて、そして優しい人。

そんな事を思い、〇〇の匂いに包まれながら、家まで帰った。

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〇〇:だー。くそ! 負けた。何が足りてねぇんだ。


ブツブツと悩みながら帰路に着く。


〇〇:...やっぱ人に見てもらわなきゃダメなんだよな。中学の頃は1人しか見てくれる人いなかったし..


ガチャ


〇〇:ただいまー。

美月:来た! ちょっと!!

〇〇:ん? あぁ、ごめんごめん、今部屋に戻るから。

美月:違くて! 今日の当番〇〇君でしょ! 夜ご飯作ってない!

〇〇:あ.....そっか。

美月:今まで何してたの!?

〇〇:小説書いてた。

美月:......はぁ...この小説バカ。小説書くことしか出来ないのね。 わかった。私が作る。


美月はエプロンをつけ、キッチンへ向かった。


〇〇:ちょっとまてい!

美月:ん?

〇〇:小説しか書けないだと? 舐めんなボケ!料理くらい出来るわ!

美月:どうせ黒焦げの食パン出すんでしょ?

〇〇:言ってろ。ちょっと待っとけ。今から超上手いの作ってやる。


そう言って〇〇は自分の部屋へ向かった。部屋に入る直前〇〇は歩みを止めた。


〇〇:ビンタする準備だけしとけ!


バタンッ

〜〜

〇〇:どうぞ。冷めないうちに。

美月:あ、ありがとう...。


テーブルに置かれたのは、スープと炒飯。そして、まるでプロが作ったような麻婆豆腐だった。


美月:いただきます....パクッ....お、美味しい...


〇〇:ありがとうございます。喜んで頂き何よりです。

美月:あ、忘れてた。

          バチンッ

〇〇:いたっ!

〇〇:よしっ!どうだ!美味いだろ!

美月:いや...美味しいけど....

〇〇:これで料理の腕もお前より上って訳だ。これでお前に負けてるものは一つもない!

美月:ずるじゃん! 何の本読んだの?

〇〇:料理人が主人公の小説。

美月:むぅ.....

〇〇:よし。じゃ俺部屋戻る。洗い物は置いといて。後で洗うから。

美月:〇〇君は食べないの?

〇〇:それより小説書きたい。

美月:.......ダメ。座って?

〇〇:は?なんで?

美月:いいから。ルール追加、私が部屋から出てって言った時は絶対に出ること。

〇〇:はぁ!?

美月:破ったら、この家から追放ね。

〇〇:....悪魔め。

〜〜

〜〜

〇〇:ふぅ.....我ながら美味かった。ごっそさん。

美月:別に君が作った訳じゃないし。

〇〇:作ったのは俺の体だ。......もう部屋戻っていいか?

美月:ちょ、ちょっと待って!

〇〇:何だよ。

美月:そ、そのさ.....今日のさ、図書室のやつどう思った?

〇〇:図書室のやつ? あぁ....律を誑かしてたやつか笑

美月:笑わないで!


美月の顔は至って真剣だった。


〇〇:.....下手な演技だなぁって思ったよ。良くあんなんで騙されるなって。

美月:.......なんで私に嫌いって言ったの?

〇〇:いや...なんか......自分隠して生きてるから。

美月:....え?

〇〇:自分を偽って生きてる奴は嫌いなの。なんでお前皆んなに好かれようとしてんの?

美月:っ!....


ここまで図星を突かれたのは初めてだった。一呼吸置いてから美月は再び話し始めた。


美月:笑わないで聞いてね?

〇〇:なんだ?

美月:あの...私...その..

〇〇:なんだ、早く言え。

美月:私....女優になりたいの!!

〇〇:はぁ?

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              To be continued


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