秘密罪 #3
AM4:30
外はまだ暗かった。自然と目が覚めた。最悪の目覚めだった。
何かに悩んだ時、〇〇はいつもする事があった。
〇〇:バット....振るか。
ブンッ ブンッ
これ以上ないほど綺麗なフォームで素振りをする。コースごとに打ち分けた。もう野球なんてする事はないのに。
〇〇:それにしても、昨日の.....やっちまったな。
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遥香:人を殺した事ってある?
〇〇:は?
遥香:たっ、例えばの話ね? 〇〇君は、人を殺した人の事をどう思うのかなーって.....
質問の意味が入ってこなかった。遥香さんは僕の過去を知っている筈がない。だとしたらこの質問は...
〇〇:遥香さんは人を殺した事があるんだね?
遥香:えっっ!?あ、あ、ある訳ないじゃん!何言ってんの!?
〇〇:...............嘘だね。過去から...逃げるなよ。
〇〇から発せられた言葉は、普段よりワントーン低く、怒りの感情が伝わってきた。遥香は萎縮し動けなくなっていた。
〇〇:..今日は帰る。種目決めは僕が家でやっておく。じゃまた明日。
遥香:...............
なんで僕が遥香さんの事が苦手かわかった気がした。妙な既視感も全て合点がいった。
〇〇:(遥香さんは、過去の僕と一緒なんだ。昔の僕みたいに過去から逃げ続けているんだ。だから、自分を見ているようで腹が立つんだ)
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〇〇:はぁはぁ、朝から振りすぎたな。
外はすっかり明るくなっていた。〇〇は家に戻り、朝食を作っていた。
和:〇〇兄、おはよ。
〇〇:おはよう。和。今朝ご飯できるから待ってて。
朝食がテーブルに並べられ2人で食事をとった。
和:〇〇兄....大丈夫?
〇〇:え?なにが。どっか変?
和:うん。昨日からずっと変。学校で何かあった?
〇〇:...別になんもないよ。気にしないで?
和:ならいいけど..。相談してね。家族なんだから。
〇〇:まぁ強いて言うなら、禅って奴が僕の邪魔をしてくるくらいかな笑。
重苦しい雰囲気を変えようと、〇〇は話題を変えた。
和:禅って...禅先輩のこと!?〇〇兄って禅先輩と友達なの?
〇〇:いや友達ではないけど。知ってるの?
和:中学の頃から皆んなの憧れなんだよ、禅先輩は。
〇〇:(そういや甲子園行ったって言ってたな)
和:あとね、禅先輩の親は再婚したんだけど、禅先輩の義妹ちゃんと私一緒のクラスなの!
〇〇:へぇー、仲良いの?
和:うん!いつも一緒。彩ちゃんって言うんだけどね。可愛くて仕方ないの。
〇〇:楽しそうでなにより。ほら早く食べないと遅れるぞ。
和:わ!ほんとだ!急がないと。
急いでいる和を尻目に、先に準備を終えた〇〇は、家を出た。
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〇〇:だんだん暖かくなってきたな。眠い。あぁー遥香さんと隣の席気まづいな。学校行きたくねぇー。
禅:お前って朝ずっとブツブツ言ってんのな笑。
後方から声が聞こえると、禅が走って追いついてきた。なんか毎朝一緒に登校している気がする。
禅:そんなことより!お前今日朝に素振りしてたろ。
〇〇:あ?なんで知ってんだよ。
禅:俺んちとお前んち、近いの知ってた?俺の部屋からお前んち見えんの。
〇〇:最悪じゃねぇか。
禅:なんでだよ笑。んでお前野球入る気・・
〇〇:断る。もう野球はやめたんだ。
禅:そんなこと言うなって。朝素振りしてたじゃんか。割と強いんだぜ?俺たちのチーム。
〇〇:自分のチームを強いと豪語するやつとは、やりたくないな。あと何回か部活やっての見てたけどな...
禅:なんだよ。
〇〇:ぬるい。
禅:あ?そんなことねぇだろ。
禅と〇〇は学校に着くまで言い合いをしていた。
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飛鳥:じゃ今日の連絡終わり。この後委員長来てー。
〇〇:はい。なんですか。
飛鳥:昨日言ってたやつ進んだ?
〇〇:もう終わりました。
遥香:............
飛鳥:はやっ!じゃ皆んなにこれ見せて、希望取って種目決めよう。時間あるからゆっくりでいいよ。
〇〇:わかりました。
飛鳥:.....賀喜と仲良くやってる?
〇〇:はい。
飛鳥:飛鳥ちゃんに嘘はバレるよ
遥香:大丈夫です。仲良くやってます。
飛鳥:ならいいけど。もう自分許してもいいんだぞ。
〇〇:先生、うるさいです。
遥香:.......?
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授業中のペアワークも地獄の空気だった。
先生:隣同士で丸付けしてー
〇〇:.........
遥香:.........
〇〇遥香:((どうしよ。気まづすぎる))
時間が経ち、待ちに待った放課後。〇〇は帰る気にも、教室にいる気もしなかったから、屋上へ向かった。
〇〇:今日は朝からしんどかったな。。
〇〇は屋上から野球部を見るのが日々の日課だった。その日は部活に禅の姿は見えなかった。
〇〇:あれ。今日禅の奴、部活出てないのか?
ガチャ
遥香:あーもう!結局話せなかった....。
屋上に来たのは遥香だった。だが〇〇が屋上にいるのは気づいていないようだった。
遥香:昨日の言葉の意味、結局何だったんだろう。
〇〇:全部聞こえてるよ。
遥香:えっ、あっ!〇〇君いたんだ。
〇〇:昨日はごめん。
遥香:ううん。いいの。それより昨日言ってた事、どういう意味?
〇〇:特に深い意味はないよ。
遥香:......私ね。〇〇君と私、なんか似てるなぁって思ったの。変な事言ってるかも知れないけど。
遥香:それで昨日はなんか、変な質問しちゃって、ごめん。
〇〇:僕も...似てると思ったよ。だから腹が立ったんだ。自分が嫌いだから。
遥香:私ね、もっと〇〇君の事知りたいの。
〇〇:....なんで?似てるから?自分の生きる道を教えてくれると思ったから?
〇〇は我慢していた。誰かにすがる事をやめた〇〇にとって、遥香の言葉は邪魔でしかなかった。
〇〇:だから逃げんなって言ったんだ。他人に頼るな。自分で生き方は自分で見つけろ。
遥香:だって、だって!なにが正しいかなんてわかんないんだもんグスッ
遥香は目に涙を浮かべていた。その時、屋上の扉が開いた。
禅:こんなとこに居たのか〇〇!あれ?お取り込み中だった?
〇〇:何しに来たんだよ。
禅:おい....遥香泣いてんじゃねぇか。お前何かしたのか。
〇〇:何もしてねぇよ。んで何しに来たんだ。
禅:....3打席だけでいい。勝負してくれないか。
〇〇:はぁ?
禅:俺が勝ったら野球部に入ってくれ。今日お前の素振りを見て分かった。野球部には〇〇が必要なんだ。
〇〇:なんでそこまで・・
禅:俺は甲子園優勝しないといけないんだよ。約束したんだ。
いつもの禅の顔とは違かった。その約束には何か強い意味合いが含まれていた。
〇〇:........いいよ。勝負してやる。
禅:ほんとか!?
〇〇:だが僕が勝ったら、2度と学校で僕に関わらないと誓え。遥香さんも含めてだ。
遥香:えっ?
〇〇:それが条件だ。
禅:.....わかった。遥香もそれでいい?
遥香:....いいけど..。
〇〇:先にグラウンドに行ってる。
〇〇は足早にグラウンドへ向かった。屋上には禅と遥香だけが残った。
遥香:禅、絶対勝ってね。私まだ〇〇君に用があるの。
禅:あぁ絶対勝つよ。俺もあいつが必要なんだ。
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和:彩ー!今日部活ある?
彩:ううん。今日は部活ないよ。
和:じゃ一緒に帰ろ!ギュッ
彩:ねぇー。苦しいよ和。あれ?なんで校庭にあんなに人集まってるの?
和:んー?ほんとだ。いっぱいいるね。
彩:っていうか!なにあのイケメン!遠目から見てもめっちゃカッコいい//お兄ちゃんにも負けないくらい。
和:どれどれ。えっ!?
彩:どうしたの。和。もしや惚れちゃった笑?
和:いやなんでもない。見に行こ!(あれ〇〇兄だ。校庭で何するんだろう)
さすがに野球をする上で、視界は確保した方が良いと思い〇〇は前髪を上げていた。
女1:ちょっとあの人誰!めっちゃカッコよくない?
女2:ほんとだ。この学校にあんなカッコいい人いた?
男1:禅が今から勝負するらしいぜ!
男2:見に行こう!
女1:私達も見に行こ!
学校での禅の人気は予想以上だった。先輩後輩問わず生徒がグラウンドに集まった。それに加え、突如現れたイケメンに周りはザワついていた。
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〇〇:勝負は3打席ルールだったな。勝敗はお前が勝手に決めろ。終わったら帰る。
禅:お前誰だ。
〇〇:は?〇〇だけど。
禅:え?かっこよすぎない?
〇〇:前髪上げただけだろ。早く始めるぞ。
〇〇はバッターボックスに入り、禅はピッチャーマウンドに立った。
禅:じゃあ始めるぞ。
〇〇:早くしろ。
〇〇は大きく振りかぶり、180㎝超えの身長、長い手足から繰り出されるストレートはかなりの速度だった。
ズバンッ
捕手:ストライクな。(こいつほんとに上手いのか)
男1:やっぱ禅の球はやっ!
女1:禅君かっこいいーー!!
ギャラリーは大いに盛り上がっていた。だが〇〇は至って冷静だった。
〇〇:(まぁこんなもんか) おい捕手。どこに打って欲しい?
捕手:え?じゃあ...センター前。(打てんのか?こいつ)
禅は外角低めに逃げていくスライダーを投げ込んだ。
カキンッ
男1:おぉ!センター前だ。あいつ禅からヒット打ったぞ。
捕手:(こいつほんとに打ったぞ)
〇〇:ほら次。
禅:やるなぁ。けど次はないぞ。
捕手:次はレフトに犠牲フライ打てるか?
〇〇:了解。
〇〇は要望通りレフトに大きなフライを打った。
禅:しゃあ!アウト!
捕手:(嘘だろ。禅は高2でストレート145キロ超えてんだぞ。それを要望通り....)
〇〇:じゃ次でラストな。
捕手:5球ファールで粘って、最後はキャッチャーフライ。できるか。
〇〇:了解。
禅は今までより一段ギアを上げ、コース通りにストレート、変化球を投げ込んだ。〇〇は要望通り5球ファールを打った。
禅:粘るなぁ〇〇。でもこれで最後だっ!
渾身のストレート。普通の高校生では、まず打てない球だった。
キンッ
禅:キャッチャー!
結果はキャッチャーフライ。キャッチャーの真上に高く上がった。キャッチャーは危なげなく捕球した。
捕手(こいつ、なんつーバットコントロールしてんだよ)
遥香:やった!3打席勝負で1安打だから、禅の勝ちだ!でもあれ誰と勝負してるんだろ。〇〇君じゃないし。
男1:やっぱ禅すげぇなー。
女1:やっぱ禅君しか勝たん!
禅:約束通り野球部活入れよ〇〇。
〇〇:帰る。せいぜい頑張れよ。
禅:明日入部届持ってこいよー!
〇〇は勝負が終わった途端、すぐ帰った。同時に周りのギャラリーも散って行った。
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その夜、〇〇は和と夕ご飯を食べていた。
和:ねぇ〇〇兄。今日野球やってた?
〇〇:あぁうん。見てたの?
和:うん。皆んなカッコいいって言ってた。誰も〇〇兄って気づいてなかったけど。
〇〇:前髪上げただけでそんな変わるもんかな。ま、バレてないならいいけど。
和:なんで野球やってたの?野球やめたって言ってたじゃん。
〇〇:禅が野球部入れってうるさくて。勝負して負けたら入るって言ったの。
和:へぇー!いいじゃん!勝った?負けた?
〇〇:勝敗は禅に任せたから分かんない。
和:野球部で活躍してるとこ見たいなぁ。
その日の夜、〇〇は久々に野球をした興奮で、あまり寝付けなかった。
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〇〇:ふあぁぁ。全然寝れなかったな..。まぁこれでまた平和な日々が訪れると思ったら、眠気なんでどっか行くなぁ。
またブツブツと唱えながら、〇〇は登校していた。後ろに聞こえる足音を無視しながら。
禅:おい。おはよう。
〇〇:....関わるなって言ったろ。
禅:学校では関わらないってルールだった。
〇〇:うぜぇ。
禅:なぁ〇〇、何者なの?お前。
昨日勝負が終わった後、禅は捕手から事の全てを聞いていた。
禅:狙ったとこに打てるって、イチローかよ。なんで野球辞めたんだよ。
〇〇:うるせぇな。
禅:勝敗も俺に決めさせるって言ってたし。ほんとは、まだやりたいんじゃないのか?
〇〇...うるせぇって言ってんだろ。やりたくても、やれない奴もいるんだよ。
禅:え?やりたかったらやれ・・
禅は立ち止まってしまった。〇〇の表情と声は、酷く悲しかった。〇〇は禅を置いて、1人で行ってしまった。
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ガラガラ
男1:お、〇〇おはよー。
〇〇:おはよう。
男2:なんの部活入るか決めたか?
〇〇:どこにも入らないよ。
男1:えーもったいねぇー
遥香:〇〇君おはよ。
〇〇:関わるなって言ったはず。
遥香:負けてたじゃん。しかも代理なんか用意しちゃって。
〇〇:(あぁわかってないのか) とにかく関わらないでくれ。
遥香:無理。君と話したいことがあるから。
〇〇:勝手にしろ。僕は応じない。
それぞれの思いを抱えて、また1日が始まった。
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昼休み
遥香:(よし!〇〇君に話しかけよう!)
遥香:ってもういないじゃん!
禅:急に大きな声出すなよ笑。遥香さぁ今日一緒に昼飯食べない?
遥香:いいよー。
禅と遥香は空いている教室を探し、昼食を食べた。2人とも話したい事は同じだった。
禅:なぁ〇〇の事なんだけどさ。昨日屋上で何話してたの?
遥香:.....あの事、話してみようかと思って。
禅:まだあの事、気にしてんのか?あれは遥香のせいじゃない。けどなんで〇〇に?
遥香:私と似てると思って、話そうと思ったけど、わかってるみたいだった。そして怒られた。逃げるなって。
禅:...........〇〇ってさぁ、何者なんだろうな。
遥香:え?
〇〇:昨日俺勝負、負けたんだよ。〇〇は俺が勝った風に周りに見せてくれたみたいだけど。
遥香:え!?昨日のあれ、〇〇君だったの?
禅:うん。イケメンすぎてビビった。
遥香:私達、〇〇君の事全然知らないよね。
禅:そうなんだよな。だからさ一個提案なんだけど・・・
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放課後
〇〇:帰るか。
〇〇は1人教室で本を読み、皆んなが帰ったのを見計らって帰宅した。
帰宅途中、〇〇は誰かに尾けられている気がした。
〇〇:おい。誰だ。僕の後をつけてるのは。
??:ねぇ!バレちゃったじゃん!
〇〇:その声、遥香さんだな。
禅:イヤー、グウゼンダナァ。
〇〇:白々しい嘘つくな。何の用だ。
遥香:私達、まだ全然〇〇君の事知らないなぁって思って。だから知ろうと思って。んで、その一歩として放課後どんな事してるのかなぁーって。
〇〇:それでストーカーみたいな事してたのか。
禅:まぁ俺が提案したんだけどな。
〇〇:......いいよ。家来いよ。
禅、遥香:えっ!?
禅と遥香は、予想だにしていない言葉に驚きを隠せなかった。
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〇〇:入れよ。
禅、遥香:お邪魔しまーす。
〇〇は和の帰りが遅くなる事を知っていた為、その故の行動だった。
〇〇:んで、僕の事を知りたいんだっけ。
遥香:うん。せっかく一緒のクラスなんだし。
禅:あと、なんで野球を辞めたかも知りたい。いきなり失礼かも知れないけど。
少し間が空いて〇〇は口を開いた。決意を固めて、閉ざしていた心を、開いた。
〇〇:僕、殺人犯の息子なんだ。
禅、遥香:えっ?
〇〇:僕の父さんは殺人を犯したんだ。野球を辞めたのもそのせい。顔を隠してるのもそのせい。クラスメイトと必要以上に関わらないのもそのせい。
禅:.....ちょっと待てって。
遥香:...........
〇〇:君達には将来やりたいことでもあるんだろ。僕と関わる事で、それが叶わなくなるんだ。そんな人をたくさん見てきた。
〇〇:殺人犯の息子と関わるのはデメリットしかないだろ。これはお互いの為なんだ。
禅、遥香:............
〇〇:わかったら帰ってくれ。そしてもう関わるな。もううんざりなんだよ。
半ば強引に禅と遥香は家を追い出された。
帰り道でも禅と遥香は、何かを言い出そうにも言葉が出てこなかった。鉛が溶けた中を歩くように足取りが重い。〇〇に対して、どんな感情を抱いているか、2人は自分でもわからなかった。
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To be continued
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