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秘密罪 和の未来編


あの日から何年経っただろうか。僕は高校卒業後に念願のプロ入りを果たした。数年は成績は振るわなかったが、プロにも慣れ、周りのサポートもあり、ついに今年はゴールデングラブ賞を獲得する事ができた。

そして今日は年の瀬。怒涛のシーズンも終わり、帰省する人もいれば、せずにトレーニングする人もいる。


僕は帰省する予定だったが、とある準備の為、帰省を遅らせた。その間も、早く帰って来て、寂しいなどと"彼女"から連絡は来ていたが、何とか誤魔化していた。心は痛かった。

〜〜

12月31日


〇〇:結局帰るの大晦日になっちゃったな....怒ってないかな。


ガチャ


〇〇:ただいまー...。

遥香:おかえりー!

〇〇:え、なんで遥香がいんの?

遥香:〇〇が早く帰ってこないからでしょ!和ちゃんに呼ばれたの。

さくら:私もいるよー。

美空:私も〜!!

禅:おかえり、ゴールデングラブ賞。

〇〇:皆んないるじゃん笑 それで....和は?

遥香:自分の部屋に篭ってるよ。早く行ってあげな。

〇〇:やっぱり怒っちゃったか....行ってくるよ。


〇〇は荷物を置いて和の部屋へ向かった。


コンコンコンッ


ガチャ


〇〇:和ー?

和:.....なに。


部屋にはベッドの上で毛布にくるまって顔だけ出している和がいた。


〇〇:......怒ってます?

和:......怒ってませんけど?


確実に怒っている。原因は〇〇が中々帰らなかったからだろう。


〇〇:....ごめんね?色々しないといけない事があってさ、帰るの遅くなっちゃった。

和:.....それにしても遅すぎる。そうじゃなくても全然会えてなかったのに....。


和は高校卒業後、近くの大学に通っていた。今は大学四年生でレポートや卒論が忙しい日が続いていた。

〇〇のシーズン中は会いに行けない為、必然と会える時間はなかった。連絡は取り合っていたが、それだけでは埋められない穴がそこにはあった。

〇〇は一人暮らし。和も実家で一人暮らし、頻繁に遥香やさくら、美空が来て泊まっていた。


〇〇:...ほんとごめん。ちょっと用事に時間かかっちゃったんだよ...。

和:.....用事ってなに?

〇〇:いや.....それは今はちょっと....

和:私に言えない用事なんだ......禅さんは早く帰って来たのに....。

和:..............もしかして....浮気?

〇〇:えっ!?

和:.....部屋から出てって...。

〇〇:ちょ..和...違うよ

和:早く出ていって!

〇〇:.....わかったよ。


バタンッ


〇〇:はぁ.......。

遥香:あれ、どうしたの?

〇〇:いや...それがさ・・

〜〜

さくら:ふーん....〇〇君が悪いね。

〇〇:えっ!?僕!? そんな悪かった?

美空:彼女をほったらかしにする男だとは思ってなかったなぁー。

禅:そうだなー。俺は史緒里さんに会うためにすぐ帰って来たけどな!

〇〇:いや....だってさ...

遥香:ていうか用事って何なの? 私達にも言えない?

〇〇:.......秘密にしてくれよ?


〇〇は遥香達に何の用事で遅れたかを話した。

〜〜

遥香:ほ、ほんとに!?

〇〇:まぁ...うん。


〇〇を除いた四人は目を合わせて頷き合った。


さくら:....これは何とかしないとだね...。

禅:だな...。

美空:....協力したくないけど...仕方ない。協力してあげる!

〇〇:ほんと?


ジューーーブクブク


遥香:あぁ!お鍋吹きこぼれちゃってる!

さくら:早く止めないと!

〇〇:料理作ってくれてたの?

禅:女子チームが作ってくれてたのみたいだよ。大晦日はここで過ごす予定だし。

〇〇:....そっか。なんかごめんな。大晦日に喧嘩しちゃってて。

禅:まぁまぁ、なんとか仲直りしようぜ。

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美空:和ー!ご飯食べよー!


返事はない。


美空:ご飯冷めるよー?


またもや返事はない。


美空:子供なんだから....こうなったら!

美空:はい!〇〇あーーん!おいしい?やっぱり美空の料理が一番だよねー!!

〇〇:ちょ美空!何言って・・


美空が大声で言った。その言葉を聞いて和の部屋から大きな物音が聞こえて、勢いよく扉が開いた。


和:ダメ! 〇〇は私の彼氏!!

美空:あ、来た。ほら座って。ご飯食べよ。

私:あっ.....。


全てを悟ったかの様に和の顔は見る見るうちに赤くなっていった。


遥香:ほら、和ちゃんご飯冷めちゃうから早く食べよ?

和:...むぅ...わかりました...。


和は空いている〇〇の隣に座った。

遥香:じゃ、いただきまーす!


食事中は近況報告などの他愛もない話をした。


さくら:ねぇねぇ、ゴールデングラブ賞ってどのくらい凄いの?

禅:簡単に言うとそのリーグの、それぞれのポジションで一番上手い人かな。

禅:だから〇〇はショートが一番上手かったってこと。

〇〇:ちょっとファインプレーが多かっただけだよ。来年は取れるかわかんないし。

禅:何をいうてんすか。圧倒的だったじゃん。

美空:やっぱり〇〇は凄いね。

禅:俺の事も誰か褒めてくれ!今年10勝したんだぞ!

遥香:はいはい。すごいすごい。

禅:....くそっ....史緒里さんに褒めてもらお..。

和:.............。

遥香:和ちゃんは?卒論書き終わった?

和:.....ほぼ終わってます。

さくら:へー!すごいなぁ....私提出日ギリギリに終わったから...。

和:....〇〇と一緒にいる時間は、〇〇以外のこと考えたくなかったから...。そう思ってたのは私だけだったみたいですけど...。

さくら:あっ.......。


途端に気まづい空気が流れる。


遥香:そ、卒業出来ればいいねー...。

〇〇:.........ご馳走様。美味しかった。ちょっと疲れたからお風呂入ってくる。


そう言って〇〇は立ち上がり、着替えを持って脱衣所へ向かった。

〜〜

美空:和〜?

和:....なに?


美空は一人ソファに座ってテレビを見ている和に話しかけた。


美空:いつまでも怒ってると、幸せ逃げちゃうよ?

和:.......だって...

美空:....私はまだ〇〇の事諦めてないからね?

和:えっ!?

美空:じゃ、ばいばーい。

〜〜

〇〇:はぁ.....どうにかして仲直りしないとな。


ガチャ 脱衣所から出て頭を拭きながらリビングへ行くと、リビングにはソファに一人座っている和しかいなかった。


〇〇:(あれ?遥香達がいない)


スマホを手に取って見ると、一つ通知が入っていた。


遥香L:"先に帰ります。早く仲直りするんだよ!"


気を遣って二人にしてくれたことは目に見えていた。

LINEを返してから髪を乾かして再びリビングへ向かった。

〜〜

〇〇:和?隣いいかな。

和:.........いいけど...


不自然な感じを出さない様に〇〇はいつも通りを装って接した。


〇〇:なんか面白い番組やってる?

和:.....今見てる。


テレビに映っていたのは野球特番だった。画面上には複数人の野球選手と大物MCが映っている。野球選手の一人に〇〇の姿もあった。


MC:"さぁ!今年活躍した選手に話聞いていきましょうか!"

MC:"えー....まずは!今年ゴールデングラブ賞を受賞した井上〇〇選手です!"

〇〇:"よ...よろしくお願いします..。"

和:.....緊張してる..。

MC:"いやー...顔もイケメンで、スポーツできて、性格も良いって...なんか腹立つなぁ笑

女子アナ:〇〇選手は女性からの人気も凄いらしいですよ!

MC:"なにぃ!? 来年は成績落ちろ!"

〇〇:"はは笑 やめてくださいよ笑"

MC:"彼女とかいるの?"

〇〇:"いや....ノーコメントで笑"

MC:"これはいるなぁ笑 あの...なんだっけ...ほら君が書いた小説..."

女子アナ:"「秘密罪」ですね。〇〇選手が高校生の時に書いた自叙伝です。話題になりましたね"

MC:"そう!それよ! 俺それ読んだんだけどさ、あの中に出て来た女の子と付き合ってんじゃないの?"

〇〇:"それも...ノーコメントで笑"

MC:"君がそればっかりじゃん!笑 テレビの前の女性の方々、彼狙い目ですよ?"

〇〇:"やめてくださいよ笑 今は付き合うとか考えられないです笑"

MC:"そうかー、つまらんなぁ笑"


それからMCは次の選手の紹介に移った。

〇〇は恐る恐る和の方を見るが、和は何も言わずにテレビを見ていた。程なくして、テレビを見たまま和が口を開いた。


和:.....〇〇は....私の彼氏じゃないの?

〇〇:彼氏だよ! テレビのあれは、付き合ってるって公表すると週刊誌とかめんどくさいから....。

和:....女性からの人気凄いって言ってた..。

〇〇:それは....自分ではよくわかんないけど...。

和:.....グスッ...私じゃ....釣り合ってない?


今まで我慢したものが溢れ出した様だった。


〇〇:何言ってるの! 僕が好きなのは和だけだよ?

和:....美空も...〇〇の事好きって言ってたしグスッ....〇〇を狙ってる人いっぱいいるだろうしグスッ...うぅ..

〇〇:和....ギュッ


〇〇は優しく和を抱きしめた。


〇〇:僕は和が好きなんだよ。不安にさせてごめんな。

和:...グスッ...うぅ....寂しかったよぉ...グスッ

〇〇:ごめんなぁ...


しばらく和を抱きしめて頭を撫でていたら、耳元から寝息が聞こえて来た。


和:すーっ....すーっ...

〇〇:ありゃ、年越す前に寝ちゃったか...。


〇〇は和を寝室まで運びベッドに寝かせた。〇〇もある決意をし、眠りについた。

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元旦


和:....むぅ....ん...あれ...年越しちゃってる...。


もう外はすっかり明るかった。扉の向こうから何か音が聞こえる。


ガチャ


〇〇:あ、和、明けましておめでとう!


いつもは扉を開けても誰もいない空間に〇〇がいる。


和:.....明けましておめでとう...。

〇〇:お雑煮できるから座って待っててー。

和:うん。

〜〜

〇〇:じゃ、新年一発目の食事!いただきまーす。

和:いただきます..。


久しぶりの〇〇の料理だった。

和:....ん...おいしい...

〇〇:良かった笑


この笑顔は高校の頃からずっと変わらない。安心する笑顔だった。昨日の事を思い出して何だか申し訳なくなってくる。〇〇が見捨てるなんてしないことはわかっているのに。


〇〇:ほら!和、早く食べて行くよ!

和:えっ? どこに?

〇〇:初詣。

和:え? でも....今の時間だと人多いよ?

〇〇:だから行くの!ほら早く準備しよ?

和:え、えぇ.....

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神社


〇〇:おー...結構人多いなぁ。


初詣の為に、人でごった返していた。


和:だから言ったじゃん.....。

〇〇:よし。行こっか。はい。

和:ん?...何この手。

〇〇:こんなに人多いんだからはぐれたら大変でしょ?だから手繋ご。

和:で、でも....

〇〇:ほら!ギュッ 行くよー!

和:あぁ!


〇〇は和の手を握り歩きだした。

〜〜

「おい!あれ井上選手じゃね?」「本当だ!すげぇ...」「隣にいる女の人誰?」

そこかしこからそんな様な声が聞こえる。


和:だから言ったのに......


和は手を繋がれながらも俯きながら歩いていた。周りの人がざわめきながらも本堂に着いた。

無事参拝を終えて、本堂を後にする。


〇〇:おみくじ引いていこっか。

和:え...あ、うん...。

〜〜

おみくじ売り場へ向かっている途中に声を掛けられた。


ファン:あのー....井上選手ですか?

〇〇:あ、はい。そうです。

ファン:うわぁ!本物だ...。私ファンなんです!サイン貰えますか?

〇〇:いいですよー。


〇〇がサインを書いている間、女性が話しかけて来た。


ファン:あのー....失礼かも知れませんが..隣の女性は...

和:あ!私...あの...〇〇の妹で!

〇〇:あー、彼女ですよ、僕の。

和:へっ!?

ファン:やっぱり! すっごい可愛い....。お似合いですね!

〇〇:あはは笑 ありがとうございます。可愛いでしょ? はい、サイン書き終わりましたよ。

ファン:ありがとうございます!邪魔しちゃってすいません!

〇〇:いえいえ、良いお年をー。


女性は去っていった。


〇〇:さ、和行こっか。

和:う、うん//


和の顔は寒さなのか照れなのか真っ赤だった。

〜〜

〇〇:じゃ、せーのでおみくじ見よっか。

和:うん。

〇〇、和:せーのっ!パッ

〇〇:お!大吉!

和:私も大吉だ!

〇〇:おー!良いことしか書いてないな..逆に不安になってくる笑


和も内容を見る為自分のおみくじに目を向ける。すると気になることが書いてあった。


恋愛・今の関係のままではいられない。


和:えっ!?(これって....別れるってこと?)


すると〇〇が和のおみくじを覗き込んできた。


〇〇:どれどれ.....恋愛....おー...神様も当ててくるなぁ笑

和:え.......

〇〇:よしっ!そろそろ帰ろっか。

和:.............うん。

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2人は手を繋いで帰路についた。


〇〇:初詣良かったなぁ....今年も頑張れそう。

和:...........。


〇〇がさっき言ってたことの真意がわからない。やっぱり〇〇は私となんて......。そんな事を思う度に〇〇の事を想う気持ちが強くなる。

気がついたら、家の前だった。


〇〇:......この家とも後少しでお別れかぁ..。

和:(....やっぱり、〇〇は...)


〇〇は玄関を開けず、和に話しかけた。


〇〇:和はさ、僕との生活楽しかった?

和:え?

〇〇:高校の時から一緒に生活してさ、色んな事あったけど、家に帰れば和がいた。それがとても嬉しくて、なんでも頑張れる気がしたんだよねー。

〇〇:....和は?楽しかった?

和:......楽しかったに決まってるじゃん...でも...〇〇がもっと良い人見つけたなら...私は...

〇〇:....和、目瞑って?

和:え?

〇〇:いいからいいから、ほら早く。

和:わ、わかった。


和はギュッと目を瞑った。暗闇の外側から〇〇の声が聞こえる。


〇〇:和、目開けて良いよ。


その声を聞いて、目を開ける。真正面に〇〇はいなかった。少し目線を下に落とすと、片足をつき、小さな箱を持っている〇〇がいた。


和:....え?

〇〇:井上和さん。僕と...結婚してください。

和:...へ?

〇〇:和とずっと一緒にいたいです。僕の隣に居てくれませんか?

和:....へ?....え、え?


何が何だかわからなかった。


〇〇:指輪...どんなのがいいか探しててさ、結局オーダーメイドで作ろうと思ったら結構時間かかっちゃってさ、帰省遅れちゃったんだ。

和:.....グスッ...うぅ...

〇〇:え?和?どうしたの!?

和:...ううんグスッ...なんでもないの...


涙が止まらなかった。〇〇は常に私の事を考えていてくれている。それなのに〇〇を怒ってしまった自分が情けなかった。

〇〇は和の頭を優しく撫でた。


〇〇:....返事、聞かせて欲しいな。

和:...うぅ...グスッ....私でいいの?

〇〇:和じゃないとダメなんだよ。


その言葉を聞いて、和は一度深呼吸して、言葉を発した。


和:...ふぅ....井上〇〇さん。私でよければ...よろしくお願いします!

〇〇:....ほんと?

和:うん!

〇〇:やったぁああ!!ギュッ


〇〇は和を強く抱きしめた。


〇〇:ありがとう...ほんとに....いっぱい不安にさせちゃって...

和:私も...ごめん。何も知らずに怒っちゃって...

〇〇:じゃ、お互い様だね笑 和、左手出して?

和:うん。


〇〇は和の左手の薬指に指輪をはめた。


〇〇:きつくない?

和:うん。ぴったり....綺麗....。

〇〇:良かった笑 おみくじの結果当たってたね笑

和:今の関係のままではいられないって、彼氏から夫になるって事だったんだ///

和:でも....この家ともあと少しでお別れって言ってたけど...あれは?

〇〇:あー....その事なんだけど、一緒に住まない?

和:えっ?

〇〇:和も大学卒業するしさ、一緒に住みたいなって思って、ダメかな。

和:うぅ....グスッ....うれじい...また一緒に住めるの?

〇〇:うん。ずっと僕の隣にいてよ。

和:....〇〇!ギュッ

〇〇:うわぁ! あはは笑 寒いから中入ろっか。


バタンッ

〜〜

これは井上和と井上〇〇の未来で起こりうる可能性の物語。何が起こるかはわからないが、ただ一つだけ確かなことがある。

それは"幸せ"であるということだ

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                   Finish







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