秘密罪 禅の未来編
禅:ふぅ.....来い!呼ばれろ!
手を合わせながら祈る。周りには記者やカメラマンがいるが、特に目に入らなかった。向かいの席には家族がいる。
画面の向こうではMCが口を開いた。
MC:"第一巡選択希望選手・・
〜〜
パシャパシャ パシャパシャ
記者:小川禅選手!おめでとうございます!
禅:あぁ...ありがとうございます笑
記者:3球団競合でしたね。東北楽天ゴールデンイーグルスに入団が決まった率直な感想をお聞かせください。
禅:いや...まさか一巡で来るとは思わなかったので...とても嬉しいです。
記者:大学野球選手権大会を優勝して、ここまでどんな思いで過ごしてきましたか。
禅:そうですね...。とにかくプロで野球がしたくて、周りのサポートとか色々あった結果なので、ずっと感謝してきましたね笑
記者:今、誰に一番伝えたいですか?
禅:今目の前にいる家族です。
記者:では最後に、〇〇選手に向けて何かありますか?
禅:あはは笑 そうですね...まぁリーグも一緒なんで、対戦する機会もあればいいななんて思いますけど....まぁ、負けねぇぞ!って言ってやりたいです笑
記者:期待しています!おめでとうございます!
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四年前
禅:〇〇、お前プロ志望届出すの?
〇〇:あぁ...出そうと思ってる。禅は?
禅:俺は....出さないかなぁ...。
甲子園を優勝し、咲月との約束も果たした。だがそれ以降野球にまったく身が入らなかった。結局咲月の為に野球をしてきたんだと気づいた。とりあえず大学に入って、ちゃんとしたところに就職しようと思っていた。
〇〇:....もったいねぇ。
禅:え?
〇〇:なんでもない。先帰る。
禅:え、あ、おぉ....。
〜〜
〜〜
小川宅
禅:ただいまー。
彩:おかえり!禅兄お客さん来てるよ!
禅:お客さん?
岩沢:初めまして、小川禅君。
禅:え、あぁ..初めまして。
岩沢:私こういうもので。
一人のガタイのいい男は名刺を差し出してきた。
禅:....東北楽天ゴールデンイーグルス...スカウト!?
岩沢:ちょっと二人でお話できないかな。
〜〜
岩沢:プロ志望届、出していないみたいだね。
禅:まぁ...はい。
岩沢:甲子園優勝して、私はてっきりプロに進むもんだと思ってたよ。
禅:.....元々プロは目指してなくて...甲子園優勝する事だけ考えてやって来て...。
岩沢:「秘密罪」読んだんだが、亡くなってしまった妹さんとの約束だね?
禅:....はい。
岩沢:その約束を果たして、モチベーションが無くなってしまったと...。
禅:...その通りです...。
岩沢:そうかぁ...そのモテべーションでプロに入っても活躍はできないだろうしなぁ..
禅:え?
岩沢:あぁ..スカウトなんて言って来ているが、君が志望届を出せば競合するのは必至。ここで私がスカウトしてもくじ運悪ければ意味ないんだよ。
岩沢:でも私はスカウトしに来た。それは単純に君がプロで野球をやっている姿を見たかったから。
禅:...........。
岩沢:でも本人にモチベが無かったら仕方ない。君の人生だからね、強制もできない。大学では野球をやるのかい?
禅:まぁ...野球以外取り柄ないんで...。
岩沢:じゃあ、心変わりでもしたらいつでも連絡してくれ。大学在学中でも良いし、社会人になってからでも良いから。
禅:.....わかりました...。
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久保:キャーー!!やったぁ!ホームランで勝ち越しだよ!禅君!
禅:そうっすね笑 このまま逃げ切れますかね....
久保:絶対勝てる!いや、勝つよ!!
結局禅はプロ志望届を出さなかった。部活も引退。時間も余っていた禅は、史緒里と楽天の試合を見に来ていた。
〜〜
久保:勝った....最高だった.....
禅:最高でしたね...。
楽天が勝った余韻を噛み締めながら二人は帰路に着いていた。
禅:....大学楽しいですか?
久保:ううん。禅君いないから、つまんない。
禅:...そっすか//
久保:あれー、照れてる?笑
禅:照れてないですよ!//
久保:ふふっ笑 そっかそっか......。
史緒里は禅の将来の事については聞いてこなかった。志望届を出していない事もわかっていたが、触れてこなかった。気を遣っての事だろう。
禅:......史緒里さん。俺、この前楽天のスカウトの人と話をしたんです。
久保:えっ!?
禅:家にまで来てくれて....プロで野球をしている姿を見たいって言ってくれました。
久保:凄いじゃん!凄い凄い!
禅:でも...やっぱ何かやる気になれなくて....でも今日野球見てやっぱり面白いなって思ったりもして....
禅:....すみません。全然考えまとまってない状態で話しちゃいました。
久保:そっかそっか...。.....私の気持ち言ってもいい?
禅:...はい。
久保:私は....禅君がプロで野球やってるの見たい。楽天じゃなくても、どの球団でもいいから。
久保:だって....禅君は野球やってる時が一番楽しそうだから。
禅:............。
久保:....でも...それは禅君が決めればいいと思う。野球してなくても私は禅君の事好きだし。
禅:...ありがとうございます...。
久保:ま!ゆっくり考えればいいよ!悩んでも、迷っても、私が支えるし!一生!
禅:一生ですか?笑
久保:一生だよ! むぅ....別れる気?
禅:わ、別れませんよ!一生!
久保:ふふっ笑 なら良かった笑
この笑顔が見れるなら、自分は何でもしたいと、そう思った。
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それから1ヶ月程経った。
彩:禅兄!ドラフト会議始まるよ!
禅:ん、今行く。
2階の自分の部屋を降りて、リビングへ行く。
ずっとモヤモヤしていた。〇〇達と肩を並べていたい。だが、どんどん〇〇達との差が開いていると感じる。それは今野球に打ち込めていないから。もう何日もボールを握っていない。
こんな気持ちのままプロを目指しても、それは失礼だと思っているのも確かだった。
〜〜
彩:〇〇さん選ばれるかな!
禅:はは笑 選ばれるに決まってるよ笑
彩:あ!始まる!
テレビの画面がドラフト会議を映し出している。
数分の解説が始まり、程なくして選択が始まる。選択を待っている選手達はどんな気持ちなんだろう。そんな気持ちで見ていた。
〜〜
彩:凄かったね!
禅:そうだなぁ...。
結果は〇〇が4球団、神宮寺が3球団、夏間が3球団、春川と冬島が共に1球団ずつの競合だった。
彩:この後ネットでインタビューあるらしいけど一緒に見よ!
禅:んー.....いや...俺はいいや。
彩:えっ?
禅:部屋戻るね。
彩:あ....わかった。
〜〜
部屋に戻ってベッドに体を預けた。
悔しかった。テレビを見ていてただただ悔しかった。隣にいた選手達がどこか遠くへ行った様な気がした。自分で選択した事はわかっている。その選択にも不甲斐なさを感じて、もうどうしようもなかった。
そのまま気がついたら眠りに落ちていた。
〜〜
コンコンコンッ
禅:......んぁ....はい。
ガチャ
彩:入るよー....寝てた?
禅:ん、今起きた。どうかした?
彩:うん。ちょっとこれ見て欲しくて。
禅:なに?
彩:これなんだけど....
そう言って彩は禅の隣に座り、スマホを横向きにして持った。
画面に表示されていたのは、ドラフト会議後のインタビュー映像だった。
〜〜
記者:第一巡で指名された瞬間、どう思いましたか?
〇〇:率直に.....嬉しかったです。周りのサポートあっての今なので、感謝でいっぱいです。
記者:目標はありますか?
〇〇:そうですね....期待にそぐえる様な活躍をしたいです。求められている事をこなす、それだけですね。
記者:最後に、対戦したい選手はいますか?
〇〇:そうですね...先輩方とは全員対戦したいですけど....まぁ、小川禅ですね。
記者:え...小川禅君はプロ入りしないはずですが...
〇〇:はい。だから待ってます。僕はあいつと対戦したいので。
記者:そ...そうですか。ありがとうございました。
〜〜
禅:....彩....これ....
彩:次はこれとこれね。
〜〜
記者:おめでとうございます!
神宮寺:ありがとうございます。
記者:非常に注目されていたと思いますが、選ばれた瞬間の感想などありますか?
神宮寺:今までやってきた事の結果が今の結果だと思います。それが評価してもらえた気がして、嬉しかったです笑
記者:対戦したい選手やライバルはいますか?
神宮寺:対戦したいのは〇〇選手です。俺は〇〇からヒット打たれてばっかりなので笑
神宮寺:ライバルは....小川禅ですかね。
記者:小川君ですか? ....確かプロ入りは...
神宮寺:しないみたいですね。まぁ...でも禅ならいずれプロ入りすると思うので。それに甲子園で投手戦負けましたからね。俺が勝つまで逃しませんよ。
〜〜
記者:プロ入り、おめでとうございます!
夏間:ありがとうございまーす!めっちゃ嬉しいです!
記者:夏間選手には野球界を盛り上げて欲しいなどの声が寄せられていますが、どうお思いですか?
夏間:盛り上げますよー!! 先輩達からバンバン三振とってやります!
記者:あはは笑 凄い自信ですね笑 対戦してみたい選手はいますか?
夏間:〇〇! 俺あいつから三振取った事ないんです。だから絶対三振とります!
記者:ライバル意識がある選手はいますか?
夏間:神宮寺ですかね。甲子園でも対戦する事なかったので。
夏間:あとは、禅! 俺あいつに負けたまんまで終われないっす。なのにあいつ...プロ入りしないって...ちょっとカメラ寄ってもらっていいですか。
夏間:おい!禅!見てるか!絶対プロ入りしろよ!勝ち逃げはゆるさねぇからな!
〜〜
映像はここで終わっていた。
彩:.....禅兄はさ、咲月さんとの約束を果たしたから、今やる気がなくなっちゃってるんだよね。
禅:.......うん。
彩:じゃあさ....私と約束しよ!
禅:え?
彩:今の妹は私なんだし! 私との約束はね...
彩:今映像に出てた人達全員に勝って!禅兄が三振とってるとこ見たい!
禅:彩........
彩:禅兄は...やっぱり野球してる時が一番楽しそうだよ!グスッ
気づけば彩は目に涙を溜めていた。今までずっと気を遣わせていた事に、今気づいた。
禅は彩の頭を優しく撫でながら行った。
禅:...ごめんな、彩。もう迷わない。俺決めたよ。絶対プロ入りして、あいつらを三振にとる。
彩:ほんと?
禅:うん。彩との約束。ちゃんと見ててね?
彩:うん!ずっと見てる!
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そして四年後、禅は見事プロ入り。獲得権を得たのは楽天だった。
そして今日は入団2年目の禅のデビュー戦だった。
〜〜
久保:な、なんか緊張してきた....
彩:大丈夫です! 絶対に!
久保:で、でも相手は〇〇君だよ?
彩:私達が信じないでどうするんですか!絶対勝ちます!
史緒里と彩は2人で観覧していた。
〜〜
試合が始まり、1番2番とゴロで抑え、3番。
〇〇:ふぅ.....よし。
解説:"これは...同級生対決ですね!非常に昂るものがあります!"
球場もこの対決が見たくてかなりの人数が見にきていた。
禅:おらっ!
渾身のストレートでワンストライク。その後変化球も織り交ぜ、フルカウントまで持ち込んだ。
カキンッ
渾身のストレートは快音響かせセンター前。1打席目は〇〇の勝利だった。
禅:.....ふぅ。
久保:あぁ....打たれちゃった...。
彩:大丈夫です。禅兄落ち着いてる。
その後は4番を三振に抑え、チェンジ。
味方の援護もあり、3対0で優勢。そのまま最終回を迎えた。
〜〜
解説"この回を抑えればデビュー戦で完封という快挙です、小川禅"
解説:"ですが現在二死満塁。厳しい状況ですが.....ピッチャーは変えないようです!"
解説:"ここで回ってきますね....次のバッターは井上〇〇です。ホームランなら逆転サヨナラです!"
解説:"この勝負は見応えがありますね!"
正直禅の体力は限界だった。監督に交代を打診されたが、断った。投げさせて欲しいと訴えた。
禅:はぁ....(やべぇ...力入んなくなってきてる)
バッターボックスから声が聞こえた。
〇〇:禅!
禅:....え?
〇〇:決着つけよう!
力が沸いた。鼓舞とも言い難いが、確かに体の底から力が沸いた。現在、3打席で3打席ともヒットを打たれている。
精一杯返答した。
禅:おう!
聞こえる筈のない応援席からも声が聞こえた。
久保:禅君! 頑張れー!!! 勝てるよー!!!
彩:禅兄!! かてぇー!!!
禅:ふぅ.....よし....
〇〇との勝負が始まる。耳には史緒里と彩の声しか聞こえない。目にはキャッチャーと〇〇しか見えていなかった。
キャッチャーがサインをだす。ストレートだった。
禅:....おらぁ!!
バスンッ
その日最速のストレートだった。その後、再びフルカウント。要求はストレートだった。
禅:(打たれないのか....)
打たれた記憶が蘇る。
久保:自信持って!禅!!
はっきりと聞こえた。禅は首を縦に振りモーションに入る。
禅:.......おらっ!!!
感覚的にも人生で一番のストレート。
バスンッ!
疲れていて、よく見えなかったが、確かに〇〇のバットは宙を切り、ボールはミットに収まっていた。
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インタビュアー:ヒーローインタビューです!小川選手おめでとうございます!
禅:はぁ..はぁ...ありがとう...ございます...
インタビュアー:デビュー戦での完封、快挙です!感想は!
禅:はぁ...なんか...あんま覚えてないですけど...〇〇に勝てて良かったです...
解説:"随分と疲れている様子が伝わってきますね"
インタビュアー:勝利できた要因は!
禅:皆んなの...応援のおかげです...はぁ....スタンドにも...妹と彼女が見にきてくれてて...
久保:言っちゃった.....
インタビュアー:衝撃の発言が出ましたが笑 最後に何かファンの皆様に!
禅:えっと....これからも頑張るので...応援よろしくお願いします。
禅:....はぁ...ほんとに勝てて良かった....彩、約束一個守ったよ...
インタビュアー:お、小川選手? もう終わっても...
禅:はぁ....史緒里.....僕と...結婚してください...。
観客:えぇええええええ!!!??
久保:ええぇええぇええ!!///
〜〜
次の日の新聞は禅が一面だった。公開プロポーズとデカデカと書かれていた。
その後二人は結婚し、見事彩との約束も果たす。
総合戦績で見たら、〇〇の方が勝っているのだが。二人はこれからもライバルとしてずっと戦っていくことになる。
後悔先に立たず。死ぬ時に後悔するくらいなら、やって清算したほうが絶対に良い。
これは、才能に囲まれた、一人の野球少年の物語。
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Finish
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