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秘密罪 #46 最終回


実況1:さぁ、ついに最終回です。この第106回全国高校野球選手権大会。色々なドラマがありましたね。

実況2:そうですね。この決勝の神城学園対乃木高校。両エースである神宮寺君と小川君は1回戦から素晴らしいピッチングを見せています。

実況1:2回戦の夏間君と小川君の投手戦は痺れましたねー。

実況2:素晴らしい試合でしたね。かたや神城学園は神宮寺君を筆頭に危なげなく勝利しています。王者の貫禄といった所でしょうか。前評判では神城学園が優勝といった所でしょうか。

実況1:いえ、乃木高校は小川君だけではありませんよ。なんといっても乃木高校には今大会で異彩を放つあの選手がいます。

実況2:彼はもう高校にいて良いレベルじゃ無いでしょう笑 

実況1:そうですね。さぁ!最終回が始まります!2対1で負けている乃木高校の攻撃!2番打者からの打順です!

実況2:必ず回ってきますね。4番の、あの・・

〜〜

なんて夢を見た。僕は今自殺している真っ最中なのにな。地面に着くまでひどく長い時の流れを感じる。

僕は今死んでいるのか。足を空に放った時にはもう死んでいるのか。まさに生と死の間だ。こういう時は走馬灯なんてものを見るらしいが、一切頭には浮かんでこない。浮かんでくるのは夢。あり得た未来。

禅達と野球をしている。遥香と付き合っている。さくらと付き合っている。和と付き合っている。美空と付き合っている。子供ができた。息子に野球をさせている。娘には何をさせようかな。自由に生きてもらいたい。

すべて、あり得た未来。死を選ばなければあり得た未来。落ちている最中で、今更だがこの選択を後悔している。

落ちている最中でひとつ感じるものがあった。それは聴覚。遠くの方で音が聞こえる。自分の名前を呼んでいる?それと


ゴォーーーー


重い音が聞こえる。人は死ぬ時に見たいものを見るというが、自分は名前を呼ばれる事を望んでいたのだろうか。誰かに止められる事を望んでいたのだろうか。そこまで自分は衰弱していたのか。

そんな事を考えているうちに、意識が落ちた。抜け殻のまま、後は地面に打ち付けられるだけだ。


          ボフッ

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僕はゆっくりと目を開ける。目を開ける? 天国か地獄にいるかはわからない。恐らく自殺をした為、地獄だろう。

でも...目を開ける?死んでなお、目を開けるという行為は可能だろうか。それに地獄にしてはやけに明るいし、真っ白だ。

ん?呼吸をしている。お腹が減った。体に触覚を感じる。まるで生きているみたいに。

ゆっくりと頭を起こす。


遥香:....すーっ...すーっ...〇〇...

さくら:....〇〇....君...

和:....すーっ....〇〇....起き...て

美空:....すーっ....すーっ.....死ぬ...な....


自分が寝ているベッドにもたれかかるようにして四人が寝ている。

程なくして理解する。そこは、病院だった。

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天知:ほら!乗った!早く行くぞ!

禅:い、行くってどこに!?

天知:そりゃ学校だろ。

遥香:学校!? なんで!?

天知:そりゃ〇〇が学校で自殺するからに決まってる。

遥香:学校で!? ほんとなの!?

天知:50%くらいの確率。途中で他の連中も拾ってくからなー。

〜〜

天知:よし。着いたぞ。はよ降りろ。

さくら:ほ、ほんとにいるんですか!? 

天知:いいから、とりあえず昇降口まで行け。知ってる奴がいるから。

美空:......嘘だったら許さないからね。

和:.....行こう!

空には一番星が見えていた。

〜〜

飛鳥:あ、来た。

遥香:先生!? なんで!?

飛鳥:私、天知と同級生。協力してって言われたから来たのよ。

さくら:そ、そうなんですか....それで!?〇〇君は!?

飛鳥:校内の監視カメラ確認したけど、多分今屋上にいる。

和:.....屋上...じゃあ早く行きましょう!

天知:はい!ダメー!


和が屋上へ向かおうとするのを静止する声が響いた。


和:な、なんで!?

天知:あいつには自殺してもらわにゃ困る。

美空:何言ってんの!?死んじゃうって!

天知:それは大丈夫。これ持ってきたから。


天知はそう言って、あらかじめ駐車場に停めていたワゴンの後ろを開けた。


禅:なんだ?これ。


ワゴンいっぱいに入っていたのは、高所降下用救助器具であるエアクッションだった。

〜〜

天知:ほらー、いつ飛び降りるかわからん。早く空気入れるぞ。


ゴォーーーー


大きなエアクッションに重い音を響かせ、空気が入っていく。


さくら:ね、ねぇ....今からでも止めに行ったほうが....

天知:ダメ。せっかくここまで来たのに、自殺しなかったら記事にならん。

美空:......あんたねぇ....ここに落ちなかったらどうすんの!本当に死ぬんだよ!?

天知:大丈夫だって。

飛鳥:....根拠は?

天知:勘。

飛鳥:はぁ....あんたはいつもそうね....。 ほら、皆んなそろそろ空気入れ終わるから離れて。

遥香:先生!この人の言う事信じるんですか!?

飛鳥:まぁ.....こいつの勘外れた事ないんだよ...。


それでも誰も屋上に〇〇を止めに行かなかったのは、行ったところで誰も〇〇を止める事はできないということを悟っていたからだった。

〜〜

空にはすでに満天の星空が広がっていた。


天知:......おっせぇなぁ。早よ飛び降りろよ。

遥香:......見れない。もしここに落ちなかったら....

禅:.....大丈夫。信じるしかない.....。


屋上を見ても、すでに暗くてよく見えない。

その時だった。


ボフッ


エアマットから音がした。瞑った目を開ける。エアマットには人影があった。

エアマットにいる人間は、目を閉じている。そして微塵も動かない。

数秒経って、そこにいるのは誰かすぐにわかった。


遥香:ま、〇〇!!


動かない。


美空:......嘘.....死んで・・


天知:大丈夫。息はある。でも落ちてる途中で意識飛んだな。救急者呼んで。

飛鳥:ん。


飛鳥は救急車を呼んだ。ほどなくして救急車がきて、救急車には天知が乗って行った。

残された人々は立ち尽くすしかなかった。

それは本当に〇〇が自殺をしたから。心のどこかで自殺だけはしないと思っていた。だが、確かな覚悟を持って〇〇は飛び降りたのだ。それを実感していた。


飛鳥:.....私...〇〇のお父さんと同級生なの。私は....彼を...救えなかった...。


飛鳥が突然口を開いた。

飛鳥:.....皆んなは?友達を....救いたい?

皆んなの心にもう迷いはなかった。


遥香:.......また...友達になりたいです。

さくら:私も。

和:....私もです。

美空:...もちろん救いますよ。

禅:......俺も、あいつとまた.....野球がしたいです。

飛鳥:....よし。じゃあ皆んな車乗って。病院に行くよ。

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そして今に至る。


禅:......すんません。飲み物奢ってもらっちゃって。

天知:いいってことよ。俺は金持ちだから。

飛鳥:調子乗るな。


〇〇がいる部屋から少し離れたところで、禅と天知、そして飛鳥の三人は話していた。


禅:.......〇〇の記憶を戻したのは天知さんですか?


ずっと疑問に思っていた事を聞いた。


天知:そうだよ。〇〇の日記と正雄の日記読ませた。一気に記憶戻ってたな。

禅:.......天知さん...あなたは本当に何をしようとしてるんですか?

天知:......正雄が捕まる前、正雄から手紙が送られてきたんだ。俺と飛鳥に。

禅:えっ?

天知:〇〇を頼むっていう手紙だった。だから俺は記事を書くことにした。金になるから引き受けただけだけどな。

飛鳥:....私は〇〇を編入させる事を押し通した。他の先生方は皆んな反対してたけど、私が無理矢理押し通した。

飛鳥:私にできる事はここまで。後はあなた達が〇〇を救ってあげるの。

禅:........できますかね。

天知:....意外と大丈夫かもよ。ほら病室行くぞ。

禅:........はい。


ガラガラガラッ 病室を開ける。


〇〇:.....あ....禅。


親友が目を覚ましている。生きて、目を覚ましている。


禅:ま、〇〇!!!


つい大声を出してしまった。


遥香:......んぅ...うるさいなぁ.....え!?〇〇!?

和:.....んあ......あぁ!〇〇!生きてる!

さくら:.......ま、〇〇君!? いぎででよがったグスッ

美空:......むぅ....ん?あれ.......〇〇が....〇〇が....おぎだぁぁ!!!


四人は一斉に〇〇へ抱きついた。


〇〇:.............。


〇〇は何も言わなかった。その代わりに涙を流していた。


〇〇:................生きてる。僕......生きてるのか...。

禅:あぁ.....生きてるよ。

〇〇:......はは......生きてんのか......あはは笑


〇〇は笑っていた。天知はメモ帳とペンを取り出して、急いで何かを書いていた。


天知:〇〇。今なんで笑ってんの?

〇〇:え?......あぁ....なんか....こんな事言ったら馬鹿げてるけど....生きてて良かったなぁって。

〇〇:自分で死ぬ事を選択したけど....生きてて良かった.......本当に....ごめんなさい...。

遥香:.......もう....離さないからね。

さくら:うん。もう絶対に死なせない。

和:もうこんなバカなことしないでよ!

美空:.......私を自殺から救っておいて、自分が自殺するなんて....ほんとバカ....


四人からめちゃくちゃに言われた。ただそれは抱きつかれたまま。

四人は思いの丈をめちゃくちゃに言ってやった。

それを少し遠くから見つめている禅が言った。


禅:.....〇〇.....おかえり。


どっと涙が溢れてくる。


〇〇:......グスッ....あぁ.......ただいま...。

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あれから何ヶ月経っただろうか。夏がやって来た。身も心も焦がす夏。高校三年生の夏とは、球児の夏とは、人生で一番暑い夏だった。


実況1:さぁ、最終回の裏が始まります。依然として2対1で神城学園が優勢。

実況2:そうですね。ですがまだわかりません。この回は2番からですからね。3番の小川禅、そして4番の井上〇〇へと繋がります。

実況1:井上〇〇ですか....ちょっと見ているだけで泣きそうになって来ますね。

実況2:そうですね.....見守りましょう。


会場はここ数年で1番の盛り上がりを見せている。

2番の選手は空振り三振。

3番の禅がヒットで塁に出る。


実況1:さぁ!同点のランナーが出ました!

実況2:そしてここで回って来ますね!井上〇〇に!

実況1:これはもう....そういう星の元に生まれたと言っても良いでしょう!


〇〇:......夢の....続きか....ボソッ


バッターボックスに入る。マウンド上の神宮寺は笑っている。かつて一緒に夢を見た仲間。だがそれは途中で叶わなかった。

神宮寺が初球を放つ。ビタビタのインコース。ストライク。

そこから3球ボール。スライダーで入って来たのをギリギリカット。これでフルカウントになった。


〇〇:........ふぅ.....決める....。


神宮寺は渾身のストレートを放った。


刹那


快音が響いた。

〜〜

インタビュアー:優勝.....おめでとうございます!

〇〇:あぁ....ありがとうございます。

インタビュアー:日本中が...〇〇君を応援していましたよ。........辛かったですね.....。

〇〇:まぁ.....そうですね。......でも....僕は幸せです。

インタビュアー:最後の逆転2ランホームラン。どんな気持ちで打席に入っていましたか。

〇〇:.....あの記事を読んだ方は分かっているかもしれませんが....神宮寺は僕の親友です。最後は...感謝の気持ちでいっぱいでした。...楽しかったです。

神宮寺:俺は楽しくなかったわ!!笑


遠くの方で神宮寺の声が聞こえた。


インタビュアー:最後に何か....伝えたい事はありますか?

〇〇:.....そうですね....僕と同じ境遇の人....今自分が不幸だと感じている人。

〇〇:.....人間...不幸ですよ皆んな。....でも...それで良いと思います。....一人じゃなければ。一人じゃなければ....少なくとも絶望は...しないんじゃないかな。

インタビュアー:〇〇君だからこそ、言えることだと思います!優勝おめでとうございます!

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僕は病院にいる間、カウンセリングを受けていた。

それで分かったことがある。僕の病名は心身症。医者には一生付き合っていく病気だと言われた。

心と体の両面からの治療が必要だった。

体の治療は病院へ通った。心の治療は主に遥香達が付き添ってくれた。遥香達にとっては治療という感覚はなかったようだが、遥香達にとっても、その期間は僕の事を深く知る時間になった。

僕もそれに答えるように、遥香達と関わっていった。次第に僕の心は回復していき、学校にも復帰できるようになった。


そして、一冊の週刊誌に記事がでた。それは僕についての記事だった。

一人の男子高校生の悲惨な人生。そこから立ち直っていく詳細が事細かに書かれていた。あまりに信じがたい内容だったため、閲覧者は疑っていたが、すぐに信じた。

書いた人間が天知正義だとわかったからだ。天知正義は事実しか書かない。それが天知自身が作り出したことであっても。それは界隈で知れた事だった。

実名も明かした。顔も出した。自分が高校球児である事も明かした。それは天知に提案されたから。この記事を出す事で、同じ境遇にいる人を勇気付けられる。社会人になっても生きづらさを感じる事は少なくなると言われたからだった。


そこから僕は学校に復帰し、普通の生活を送った。禅と咲月ちゃんとの約束を果たす為、甲子園優勝に向けてがむしゃらに取り組んだ。

結果優勝できたわけだが、、僕の人生は誰にでも起こりうることではない。

だが、一人でも同じ境遇の人がいれば聞いてほしい。

秘密は隠した分だけ罪が大きくなる。誰でもいい。一人でもいいから、罪を共有してほしい。きっと、必ず、誰かはそばにいてくれる。僕がそうだったから。

最後に、この作品はこれで終わるけど、誰かの心にこの作品が残ってくれたら、僕は幸せです。


ここまで読んでくれてありがとう。

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〇〇:ふぅ.......終わった。


コンコンコンッ


和:〇〇〜、書き終わった?

〇〇:うん。徹夜したら何とか書き終わったよ笑


〇〇は天知の提案で今までの人生を本にした。題名は「秘密罪」 なかなか乗り気ではなかったが、自分の人生ということもあり、すぐ書き終わった。


〇〇:和、今日の放課後さ、屋上に来てくれるかな。あの時の返事をしたい。

和:.....うん!わかった!


この本を書き終えたら返事をしようと決めていた。書いている期間が、再び自分と向き合う時間になった。

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放課後 屋上


〇〇:.....来てくれてありがとう。


遥香:もう!遅いよ!

さくら:....ふぅ....緊張してきた....

和:〇〇は誰を選ぶのかなぁ...

美空:私でしょ〜〜?

禅:.....俺か?

〇〇:なんでお前がいるんだよ...。

禅:見守りです笑

〇〇:....まぁ...いいや笑

〇〇:ゴホンッ...んん...ふぅ...答えを出すのが遅くなってごめん。

遥香:うん。

〇〇:ようやく答えがでました。

さくら:良かった。

〇〇:....誰を選んでも恨まないでね?

和:恨まないから笑 ほら!早く!

〇〇:僕が....

美空:うんうん。

〇〇:僕が....付き合いたいのは!・・・・

〜〜

これは一人の不幸な少年と、5人の高校生の物語。帰る場所があるというのは、案外普通ではないことで、帰る場所があるというのは幸せだということ。

秘密は時間が経てば消える物もあるが、確かに胎動し、大きくなっていく。そのまま殺すも良いが、産んだ方が、楽になるだろう?


〇〇:じゃあ....よろしくお願いします!

??:うん!


訂正する。これは一人の幸せな少年と、5人の幸せな高校生の物語。

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                  Finish




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