見出し画像

凡豪の鐘 #12


GW最終日


七瀬:よし!じゃあ私は帰る。

〇〇:結局最後まで家でダラダラして.....ほら早く帰れ。

七瀬:もう....冷たいなぁ。まぁ、また夏に可愛がってあげるからな?


七瀬は〇〇の頭を撫でた。


〇〇:やめろっての//

七瀬:ふふ笑 かわええなぁ。じゃ、美月ちゃんもまたな?

美月:はい!

七瀬:あと......演技が上手くなる方法忘れたらあかんで?


七瀬は美月に目配せをした。


美月:は.....はい....。

七瀬:じゃ!また夏になー!!


七瀬は大きく手を振り、スーツケースを引いて帰って行った。


〇〇:はぁ.....嵐みてぇな人だったな....


〇〇はうんざりといった様子で家の中に入ろうとした。


〇〇:....山下?


玄関の外で立ったまま動かない。


〇〇:.........おーい。もう家入るぞー。


呼びかけても反応がない。


〇〇:.........山下?

====================================

遠い遠い所に意識がある。なんだか心地が良くて。もう戻りたくない。そんな気持ちもよぎる。

段々と眼前に光が迫り、意識という、あるべきものが戻ってくるのを感じる。


〇〇:......た。......や........た。..........山下!!

美月:うわぁ!?


目の前には〇〇。何故か血相を変えている。何かおかしい。私はさっきまで七瀬さんを送る為に外にいたはず....。


〇〇:おい!大丈夫か!?

美月:え?な、なに?

〇〇:大丈夫かって聞いてんの! 意識は!? 戻ってんのか!?

美月:い、意識?戻ってるけど........なんかあった?

〇〇:っはぁぁぁぁぁあああ........良かった....


〇〇はリビングのフローリングにへたり込んだ。


美月:なに!? なんかあったの?

〇〇:なんも覚えてねぇのか?


そこから〇〇が語り始めたのは。

私が急に外で動かなくなった事。

呼びかけても何も応じかった事。

顔を見ようと回り込むと目に光は無く、体に力も宿っておらず、ただ立っていただけだった事。

そのまま背負い込み、ソファに座らせ数分呼びかけたら意識が戻った事。

そのような事を教えてくれた。


美月:ほ、ほんと?

〇〇:本当だ。........はぁ.....山下、質問していいか。

美月:......うん。

〇〇:........今までこんな事はあったか?

美月:.............ない。

〇〇:.........意識がない時、もう戻りたくないと思ったか?

美月:..........ないよ。

〇〇:そうか.......わかった。はぁ.....びっくりした....。今日の飯は俺が作るから。ちょっと休んどけ。

美月:あ、ありがとう。


〇〇はエプロンをし、キッチンへ向かって行った。

私は自室へ戻って、スマホを手に取り、電話をかけた。

====================================

GWが終わって、また憂鬱な学校生活が始まる。気温は上がり始め、自分の肌にもう一層、熱気という衣を纏っているような感覚。その感覚に踊らされ、夏というのが待ち遠しくなっていく。

〜〜

坂乃高校


麻衣:じゃあ今から進路希望調査集めるから!先生のとこ持って来てー。


進路希望調査。自分の進路を何故か先生に通達しなければならない。自分の人生だというのに。一般的な答えから外れたら矯正をするくせに。

まぁいいだろう。俺は変わらない。一番に先生の所へと闊歩していく。


〇〇:はい。先生。

麻衣:お!〇〇君は.......


第一希望 小説家

第二希望 小説家

第三希望 小説家


麻衣:これは.....大学には行かないってこと?

〇〇:行ってる暇ないんで。


なんと言われようと変わらない。


麻衣:.......いいね!

〇〇:はい?

麻衣:先生は応援するよ!さ、皆んなも持って来てー!

〇〇:............。


変な人だ。そう思いながら、自分のいく先と逆流する人の流れに逆らい席につく。自分の横の席の生徒はまだ進路希望調査を出しに行っていないらしい。


〇〇:.....ださねぇのか?

美月:いや.....だ、出すよ!


美月は立ち上がり、教卓へ向かう。


男1:美月さんと同じ大学行きてーなー。

男2:わかる......超わかる....。

麻衣:最後は美月ね。えーっと......


第一希望 女優

第二希望 なし

第三希望 なし


麻衣:.........いいね!

美月:あ、ありがとうごさいます。

麻衣:よし!じゃあ今日も一日頑張ろー!

〜〜

昼休み 屋上


〇〇:ん、なかなか美味い....


いつも通り、屋上の一個上で飯を食う。


律:よー。

〇〇:おー。


律が梯子を登り、共に飯を食らう。だが、今日は俺の弁当をまじまじと見てくる、


〇〇:.......んだよ。

律:ん?いや....なんかお前って一日ごとに綺麗な弁当だったり、汚い弁当だったりすんじゃん?

〇〇:.....そんな事ねぇよ。

律:でも今日は2日続けて綺麗だからさ。珍しいなぁって。

〇〇:.....俺だって上達すんだよ。

律:ふーん。


なんか少し嬉しかった。


〇〇:律さぁ、進路希望なんて書いたの。

律:俺? 俺は普通に近くの大学。大学卒業したら公務員にでもなろうかな。

〇〇:まぁ....そんなもんか。

律:そんなもんだよ。 まぁ妹の分も稼げるような職業に就かないとな。

〇〇:アイドル?

律:あ、知ってた? まぁ...何が起こるかわかんない職業だしな。俺が稼いどかないと。

〇〇:アイドルになるってことは信じて疑わないんだな。

律:そりゃ茉央可愛いもん。 てかお前もそうだと思ってたけど。

〇〇:なんで?

律:だって茉央がアイドル目指すきっかけって〇〇じゃん。

〇〇:え?


ガラガラガラッ


下から扉が開く音が聞こえた。


律:隠れろ!ボソッ

〇〇:はいはい、てかもうバレてんじゃないの?ボソッ

律:いや、中庭で食ってることになってるからボソッ

美月:はぁー!! いい景色。

美波:美月のそれ、もう飽きたよー。

蓮加:もうお腹減ったー。早く食べよ。


案の定、屋上に来たのは美月達だった。


美波:美月さ、進路希望調査に女優って書いたの?

美月:.....うん。書いたよ。

美波:へぇー!! あんなに隠してたのに。なんかあったの?

美月:ちょっと色々あってさ。もう逃げないことにした。

美波:なんか....かっこいい。

蓮加:ほぇー.....美月って女優になりたいんだ。

美月:うん。そうだよ。

蓮加:いひひ笑 私も美月も叶いにくそうな夢だね笑

美月:ふふっ笑 そうだね。

律:美月さんって女優になりたいんだなボソッ

〇〇:あぁ、そうだよボソッ

律:知ってたの?ボソッ

〇〇:あ....いや初知りボソッ

美月:美波はさ、なんで書いたの?

美波:私は.......普通に大学行こうかな。

蓮加:......なに今の間。

美波:え? い、いや、別に。

蓮加:......そう。

美月:大学かぁ......楽しそうではあるよね。

美波:ほ、ほら!ご飯食べよ? ......あれ、今日は美月のお弁当綺麗だね。

美月:あ、ほんとだ。

蓮加:ほんとって笑 自分で作ったんじゃないの?

美月:あ、自分自分。自分で作った!

====================================

放課後 部活


〇〇:なーんか.....あっちぃなぁ....この部室、扇風機とかないの?

美月:ないよ。 それよりさ、ここのセリフどういったら良いと思う?

〇〇:えー.......あっつくて答えんのもめんどい.....

美月:もー!仮にも演劇部でしょ!ちゃんとして!

〇〇:人数合わせだっつの。 てかさ、この部活って顧問いないの?

美月:いるよ? でも先生来る前に〇〇君帰っちゃうじゃん。

〇〇:あ、いるのね。じゃあ顧問に聞けば・・


ガラガラガラッ


麻衣:やってるー!?

〇〇:んぁ!?


勢いよく部室に入って来たのは、担任の麻衣先生だった。


〇〇:え? まい先何しに来たの。

麻衣:何しにって....私演劇部の顧問。

〇〇:え!? あ、そうなの!?

麻衣:そうだよ。ていうか先生には敬語!

〇〇:あ、すんません。

麻衣:そんなことより!


麻衣は美月にずいずいと近づいて行った。


麻衣:美月って女優になりたかったの?

美月:あ......はい。そうです。

麻衣:......いいね!最高!

美月:え?

麻衣:実は私ね、昔女優目指してたの。

美月:え?そうなんですか!?

麻衣:うん。そういう劇団とか入ってたんだけどね、なんか向いてないなぁって、あとすんごい才能にあてられてやめたけど。

麻衣:その時やった先生の役が面白かったから、先生になろうと思ったんだけどね。

美月:そ、そうだったんですか...

麻衣:だからさ!やるからには本気でやろうよ!

麻衣:全力で協力するからさ!

美月:ありがとうございます!

麻衣:よしよし!.......あ、会議の時間だ.....また終わる前に来るから!


ガラガラガラッ


先生は出て行った。


〇〇:.......良い先生だな。

美月:そうだね。.......でも麻衣先生くらい可愛くても...女優諦めちゃうのかぁ....

〇〇:なに、弱気になってんの?笑

美月:.....その人を馬鹿にしたようなニヤけ面.....腹立つ.....

〇〇:失礼なやつだなお前は。

美月:お前じゃありませんー!

〇〇:ガキくさ........あれ、今日茉央遅くね?

美月:そう言われたら....そうだね。珍しい。

〇〇:........なんかあったんかな。

美月:なにも連絡は入ってないけど......

〇〇:まぁ....待ってりゃ来るか。

美月:そうだね。...よし!ここのセリフどんな感じで言えばいいか教えて!

〇〇:えーーーー。

〜〜

〜〜

ガラガラガラッ


麻衣:ごめん!遅くなった!

〇〇:まい先、もう終わりの時間っすよ。

麻衣:あ、ほんとだ....

美月:また明日教えてください!

麻衣:美月は良い子ねぇ....あれ?茉央ちゃんは?

〇〇:え、まい先にも部活休むとか連絡入ってないんすか?

麻衣:入ってないけど....

美月:なんか用事で連絡忘れてたんじゃない?

〇〇:そうかなぁ.....


結局茉央は部活に来なかった。〇〇は何か、嫌な予感がしていた。そして、〇〇の予感は、何故かよく当たる。

====================================

少し暗くなった道を歩いて家に帰る。美月には先に帰らせた。

今日は何故だか、あの神社に立ち寄りたくなった。


〇〇:ふんふーん.....ん?


神社の屋根の下に人影が見える。


〇〇:先客か......あれ? 


段々と近づけば輪郭がはっきりとしてくる人影には見覚えがあった。


茉央:あっ....

〇〇:えっ!?


そこにはいたのは、茉央だった。

だが、ただの茉央ではない。びしょ濡れで、身体中に痣ができた茉央がそこにはいた。

====================================

              To be continued





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?