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秘密罪 #41


年が明けて、〇〇はしばらく野球から離れていた。原因は父親だった。

正雄:しばらく野球は休め。一年の復習に使え。家庭教師も見繕ってつけるからな。

〇〇:ちょ、ちょっと待ってよ。冬の内に体力をつけておかないと・・

正雄:お前、学校の成績はトップだったが、全国模試は10位だったな。話にならん。日本代表入りを許可したんだ。俺の言うことも聞いてもらう。

〇〇:......わかったよ。


小さい頃から、こんな躾をされてきた為、すぐに切り替えた。地獄が終われば野球ができる。それだけで頑張れた。

〜〜

神宮寺:うぉら!


ズバンッ!


捕手:ナイボー! また球速上がったんじゃないか?

先輩1:おーおー。神宮寺は頑張るねぇ。どっかのサボりとは違って。

神宮寺:.....〇〇はサボりじゃないっすよ。

先輩1:あ?だって年明けてから一回も来てねぇじゃん。

神宮寺:......色々事情があるんすよ。

〜〜

マスコミ:秋月社長! 取引においての裏金、それと企業内での横領の疑惑がありますが本当でしょうか!

正雄:証拠は。証拠を出しなさい。あなた達も相当暇なようで。確固たる証拠が用意できたら来なさい。


そう言って正雄はとある企業のビルの中へ入っていった。

〜〜

正雄:ふぅ.....あいつらもしつこい...。

一ノ瀬父:ずいぶんお疲れのようで。またマスコミですか。

正雄:えぇ、まぁそうです。大した証拠もないくせに、よくもまぁあんなに必死になれるもんです。

一ノ瀬父:そういうものですよ。.......まぁしかし...火のないところに煙は立たないとよく言ったものです。

正雄:ご冗談を笑 何もありませんよ。

一ノ瀬父:ほんとですか?笑 これから合併する企業先が問題を起こされちゃ困りますからね。

正雄:だからこそ問題は起こしませんよ。一ノ瀬グループと秋月グループが合併すれば名実ともに日本一大きな企業になる。

一ノ瀬父:その通りです。だからこそリスクヘッジはしっかりとしましょう。

正雄:そうですね。

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4月 始業日


神宮寺:おう。〇〇。また一緒のクラスだな。

〇〇:だな。まぁ、よろしく頼むよ。

神宮寺:....春からまた練習参加するんだよな?

〇〇:.......そのことなんだけど・・

女1:やった!! また〇〇君と一緒のクラスだ!

女2:やったぁ! 〇〇君よろしくね!

〇〇:あ、あぁ...よろしく。 話の続きはまた後でなボソッ

神宮寺:あぁ、わかった。

〜〜

昼休み


神宮寺:んで?言い淀んでたけどなんかあったの。

〇〇:んー.....今の野球部に僕の居場所ある?

神宮寺:え?

〇〇:....日本代表に入った時に気づいたんだ。あの人達は僕を受け入れてくれたけど、この学校の野球部はそうじゃない。違う?

神宮寺:.....まぁ....そう....かな。

〇〇:僕は家に居場所がない。本当の自分を出せるのは野球をしている時だけ。最近の学校生活も...なんかどんどん自分を出せなくなってきてる。


ここら辺の時期からだっただろうか。〇〇は自分の中にもう一人違う自分の存在を感じるようになったのは。本当の自分との解離を少しずつ感じるようになっていった。


〇〇:野球をする時も本当の自分を出せないなら、僕はこの学校で野球をしたくないよ。

神宮寺:......〇〇...。

〇〇:とりあえず練習には参加する。また居場所がないようだったら僕は試合にしか出ない。

神宮寺:.......そうか..。


真剣な話にひと段落区切りがつき、安堵していると、不意に教室の外が騒がしいことに気づいた。


男生徒1:おい!新入生でめっちゃ可愛い子入ったらしいぞ!

男生徒2:聞いた聞いた!見にいこうぜ!しかも金持ちの令嬢らしいぜ!

神宮寺:へぇ....美人で金持ちねぇ...。世の中そんな奴もいるんだなぁ。

〇〇:....そんなこと言ったら僕の父さんは秋月グループの社長だぞ。

神宮寺:はぁ!? まじで!?

〇〇:声デケェって! これ秘密にしてんの。神宮寺にだけだからな言ったの。

神宮寺:お、おう...。それにしてもまじか...。とんでもねぇ金持ちじゃん...。

〇〇:だから苦労してんだけどな。

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それから何日か経って、中学二年生というものにも、少し慣れてきた頃だった。


神宮寺:今日部活ないけど、すぐ帰る?

〇〇:いや、学校で少し勉強してから帰るよ。

神宮寺:そうか。じゃあな。

〇〇:おう。じゃあな。


学校に一人で勉強してから家に帰る。それが日課になっていた。理由は家に居たくなかったから。そして一人になる時間が必要だったからだった。

〜〜

〇〇:.....ん?あぁ..もうこんな時間か。


勉強をしていると良いのか悪いのか時間を忘れて没頭できた。いつもはもう少し早く帰るのだが、今日は、少し遅く星が出始めていた。


〇〇:....屋上で星見てから帰ろ。


教室からでも星は見えるが、何故かその日は屋上で星を見たいと思った。

〜〜

屋上


〇〇:ふんふーん。ふんふふーん。


ガチャ


〇〇が屋上の扉を開けると、屋上の手すりに手をかけている女性がいた。


〇〇:ん?先客がいたか。


相手は気づいていないようだったが気にせず星を見上げていた。


〇〇:うぉー。やっぱ綺麗だな...。


ガタンッ 不意に前方で音が聞こえる。何かと思って見てみると、その女性は手すりに足をかけて、柵を飛び越えようとしていた。


〇〇:.....おいおいおいおい!何やってんだ!


〇〇はすぐさまその女性の元へ向かい、後ろから思い切り抱きしめ柵から離した。

??:ちょっと!やめてよ!

〇〇:やめてよじゃないって! なんで死のうとしてるんだよ!

??:私の勝手でしょ!

〇〇:そりゃ君の勝手だけど僕の目の前で死なれたら、もうそれは君だけの問題じゃないから!

〇〇:話でも何でも聞いてやるから。な?一旦落ち着こう?

??:うぅ.....グスッ...うわぁぁぁああん!!


その女性は〇〇の胸の中でしばらく泣いていた。

〜〜

〇〇:......落ち着いた?

??:うん...グスッ...ありがとうございます。

〇〇:とりあえず座ろっか。


〇〇は上の制服を脱ぎ、女性の座るところに敷いた。


??:....優しいんですね。

〇〇:そんなことないけど。


二人は座って、話し始めた。


〇〇:....そういえば君、名前は?

??:....美空です。一ノ瀬美空。

〇〇:美空ちゃんね。中1?

美空:はい。〇〇さんは先輩ですよね。

〇〇:あぁ、僕のこと知ってるんだ。

美空:知ってますよ。この学校にいて先輩のことを知らない人はいません。

〇〇:そんな有名人になっちゃったか笑 .......んで?なんで自殺なんかしようとしたの。

美空:......っつ! 先輩に言っても分かりませんよ。

〇〇:わかんなかったら、わかんないでいいよ。わかる可能性があるから聞いてんの。

美空:....変な人ですね。

〇〇:まともな人間に話すより変な人に話した方が楽になりそうじゃん?

美空:....ふふっ笑 わかりました。話します。...実は私、一ノ瀬グループの社長の娘なんです。


そこから美空は話し始めた。自分が一ノ瀬グループという大企業の社長の娘で、小さい頃から自由がなく、一ノ瀬家にふさわしい人間になるように育てられたこと。本当の自分がわからなくなって不安に思っていたこと。中学に上がれば何か変わるかもしれないと思っていたけど、結局周りの人間は自分が社長令嬢だから集まってきていること。全てを〇〇に話した。


〇〇:........そっかぁ。

美空:.....わからなかったですよね。

〇〇:ううん。めっっちゃわかるよ。途中から僕の話してるのかと思ったくらい笑

美空:え?

〇〇:うーーん.....実は僕もお金持ちの息子でさ。まるっきり同じ境遇。野球だってほんっとに無理言ってやらせてもらってる。模試なんて一位じゃなきゃ0点扱いだよ笑

美空:....ひどい。

〇〇:.....怖いよなぁ。自分じゃなくなるの。

美空:....はい。

〇〇:でも....僕は野球っていう生きる意味を見つけられたからさ、自殺はしなかった。美空ちゃんは?生きる意味はないの?

美空:.....ない...です。毎日ここに来て星を見る事が助けになってた。でも.....今日は綺麗に見えなかった。だから......。

〇〇:そっかぁ。生きる意味がないのは辛いなぁ...。でも今の話で一つだけ変えられる所があるよ。

美空:え?

〇〇:上、見てごらん。


そう言われて徐に美空は空を見た。


美空:あ.......綺麗....。


満点の星空だった。段々見えなくなっていた星空が、小さな頃見ていた星のように燦然と輝いていた。


〇〇:限界が来てたんだね。でも....もう大丈夫かな。


そう言って〇〇は立ち上がって背伸びをした。


〇〇:ふぅ....じゃあ僕は帰るよ。君の薄着だから僕の制服羽織って帰りな。じゃ...。


〇〇は踵を返して、屋上の出口に向かっていった。だが、足取りが止まる。服を掴まれていたからだ。


美空:.......待って。

〇〇:ん?どした?

美空:.....見つけた。生きる意味。

〇〇:え?

美空:.....あなたが....私の生きる意味//

〇〇:え、えぇぇ!?

〜〜

5月20日

星が綺麗だった。一人で星を見るより誰かと見る方が綺麗に見えたな。それにしても中々危険な場面に出くわしたものだ。一ノ瀬美空。自殺を止めてよかった。あんなに僕と同じ境遇の人間がいるんだなぁ。あの子にはなんでも話せそうな気がした。.......だが問題が一つ。あんなにグイグイくる子だとは思わなかった.....。結局帰りはずっと腕に引っ付かれた。最後は頬にキスまでしてきた....。今の中1はこんなに進んでるのか?

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そこからの日々は大変だった。


美空:〇〇〜! 一緒に昼ご飯食べよ!

〇〇:げ.....また来た....。

美空:美空とご飯食べるの嫌?

〇〇:....そんな目で見るなよ//

神宮寺:あはは笑 毎日毎日飽きないねぇ笑

美空:いくら神宮寺さんでも〇〇の事は渡しませんよ!

神宮寺:大丈夫、俺彼女いるから笑


あの日以降、美空は〇〇にべったりだった。美空自身はもう〇〇と付き合っている気のようで、毎回〇〇がそれを否定する。そんな夫婦漫才のような事をしていると、自然とクラスの連中は〇〇の事を恋愛対象ではなく、友達として接するようになっていった。


美空:ほらほら〜、もう〇〇には私しかいないよ?だからさ付き合お?

〇〇:ぐぬぬぬ...。

美空:ダメ?.....ダメだったら私....もう...。

〇〇:あー!もう!わかったわかった!付き合うよ!

美空:ほんと!?やったぁ!!ギュッ

〇〇:はーなーれーろー!

こうして半ば無理やり〇〇は美空と付き合うことになった。まぁ〇〇も美空のことを好きになるのは、すぐだったのだが。

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そしてまた夏が来る。〇〇は再び日本代表に選ばれていた。神宮寺は.....。


神宮寺:......またダメか...。

〇〇:まぁ....ピッチャーは層が厚いからな。まだ来年ある。頑張ろう。

神宮寺:.....おう。


かく言う〇〇も、父に許可を取っていなかった。

〜〜

秋月宅


コンコンコンッ


〇〇:父さん、入るよ。


ガチャ


〇〇:日本代表の件なんだけど....

正雄:勝手にしろ!今はそれどころじゃないんだ!

〇〇:ビクッ.....わ、わかった。


バタンッ

〜〜

7月14日

日本代表に今回も参加できる....でいいのか?父に勝手にしろとは言われたが....。父が最近おかしい。頻繁に部屋から怒鳴り声が聞こえる。かすかに聞こえる言葉といえば「それは事実で間違いないんだな!」「隠し通す事はできないのか!」「ここまで来て台無しになるのだけは避けろ」まぁ大企業の社長だ。なにも全てキレイなことだけをしているとは思っていないが....まぁ僕の邪魔にならないことだけを願う。

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時は一旦現在に戻る。


禅:.............。

遥香:..........。

和:............。


日記の内容を知らない3人は固唾を呑んで日記を見ていた。内容を知っていて、中学時代の〇〇をよく知っている美空だけが、ボロボロと泣いていた。そしてページを捲る手も止まっていた。


遥香:........美空ちゃん?

美空:......この先は...グスッ....めぐりたぐないグスッ

さくら:......美空ちゃん.....。


ガチャ 家の扉が開いた。


天知:お邪魔しまーす。....ってお友達大集合か。

禅:あ、天知さん!?

天知:おー....〇〇の日記読んでんのね。そりゃ丁度良かった。ほいこれ。


ドサッ 天知は鞄から一冊の本を取り出し、テーブルに置いた。


禅:....これは..。


表紙に書いてあったのは、ただぶっきらぼうに「日記帳」のみ。ただ右下に小さく名前が書いてあった。

"秋月 正雄"

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7月14日

副社長が横領していた。それを知っているのは俺と秘書だけ。こう書き残すのも証拠になる為書かないほうが良いのだが、まぁ....もういい。おそらく裏金の件も副社長の独断でのことだろう。一ノ瀬社長の言う通り、火のないところに煙は立たない。その通りだった。これからどうなるんだろう。強くなる為に生きてきた。人を信用していなかったのが原因なのか...。マスコミに掴まれている以上、もう....無理なのか

〜〜

正雄は日記を書き終え、椅子にもたれかかった。


正雄:っはぁぁ....くそっ....


ピロンッ スマホに通知が入った。


正雄:ん?.....まぁ考えてもなんともならんし...行くか。


ガチャ


正雄:すまない。旧友と飲みにいってくる。

母:あぁそう。いってらっしゃい。

〜〜

ガラガラガラッ


正雄:.....よぉ..。

卓人:おぉ!久しぶりだな。


一人で居酒屋のテーブル席に座っていたのは旧友の卓人だった。(卓人は後に〇〇の義父となる人物です)


卓人:立派な社長になられて笑

正雄:茶化すなよ。あいつは?

卓人:まだ。

正雄:誘っといてまだ来ないのか。


ガラガラガラッ


飛鳥:.....久しぶり。

正雄:おぉ.....飛鳥か。

飛鳥:久しぶり。元気だった?

卓人:俺は元気。

正雄:俺は....まぁぼちぼちだな。


ガラガラガラッ


天知:おまたせー。

卓人:おう!天知おせーぞ。

天知:すまんすまん。


天知、卓人、正雄、飛鳥。この四人は学生時代からの友達でいつも行動を共にしていた。

〜〜

卓人:もう転勤多くて嫌んなるよ。娘にも会えないし。

正雄:まだお前んとこの娘、中1だろ?寂しい思いさせてやるなよ。

卓人:ふんっ。お前にそれを言われるとはな!

飛鳥:あはは笑 それよりさ、天知なんで今日は私達を呼んだの?

天知:ん?あぁ、そうだった。正雄、お前の会社、裏金と横領してるだろ。

飛鳥:えっ!?

正雄:.......ほんっとうにお前はデリカシーがないというか....。

天知:デリカシーとかめんどくさい。で?どうすんだ?俺も上から秋月グループについての記事を書けって言われてる。

正雄:.........時間の問題だからな。それに......お前にはお前の仕事がある。どうせ書く気なんだろ?

天知:まぁな。金になるなら書く。それよりどうするか聞いたのはその事じゃない。奥さんと息子の事だよ。

天知:お前が問題になれば親族の被害は大きいぞ。

正雄:ずっと考えていた......。卓人.....妻と〇〇を頼めないか。

卓人:はぁ!?

正雄:無理ならばいい。だが....少しでもいいから気にかけてやってくれないか。

卓人:ちょ、待てって! 話が進みすぎてる。まだ俺は追いついてない!

飛鳥:.....無責任ね、正雄。


そう言って飛鳥は居酒屋を後にした。


正雄:.....飛鳥の言う通りだな....。でも.....〇〇は俺の息子じゃない方が...良いと思うんだ。

卓人:............考えておく。とりあえずお前の方をなんとかしろ。

正雄:.....すまないな。

天知:記事は俺が書かなくても、他の奴が書く。出来るだけ、被害が少なくなる方法を考えろよ。

正雄:.....わかってる。

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9月14日

日本代表戦、決勝で負けてしまった。悔しかった。ただ......楽しかったな。夏間の他に春川と冬島という友達もできた。練習には美空がいつも付いてきた。練習が終わったらすぐくっついてくるのだが....美空が見ていると思うと何故か頑張れるし、やる気が出る。既に僕は美空の事が好きなんだろうな笑 来年こそは優勝したい。

〜〜

この時期から父から〇〇への干渉はほぼなくなっていた。少し不気味なほどに。だが〇〇は嬉しかった。父と関わらなくていいということは〇〇にとってこの上ない幸せだった。

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そして何もないまま冬になる。何も起こらないというのは何かが起こる前兆。事件の冬だった。


秋月グループ本社


正雄:そろそろ退社するか....。後どれくらいこの会社は残っていられるのか...。


この時点で当然一ノ瀬グループとの合併は打ち切られていた。一ノ瀬社長の情報収集能力はずば抜けていた為、記事が出る前に手を引いた。記事が出るまでの空虚な日々。正雄の精神はほとんど崩壊していた。

正雄は社長室から出て、退社をする。ただ一つその日は何故か副社長室が気になった。虫の知らせというかなんというか。


ガチャ


副社長室に入ると、信じられない光景が広がっている。それは秘書と副社長が生まれたままの姿で繋がっていた。

秘書はまるで嫌がっていない。恍惚の表情すら浮かべている。こちらに気付き何かを言っているが、よくわからない。視界が歪む。ただある事がわかった。どうやら秘書と副社長は結託していたようだった。今まで隠し通していたが、ついにバレ始めた為、隠す必要がなくなったというところだろう。

副社長はそんなことを笑いながら話している。バレたからもうどうでもいいということなのだろう。

〜〜

それから何分経ったのだろうか。気づいたらさっき立っていた所とは違うところにいる。手元にはカッターナイフ。地面には首元から血を垂れ流している副社長と秘書。

正雄:......あぁ....俺は....殺したんだ。

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ガチャ


父が帰ってくる音が聞こえた。〇〇は今日こそ言うと決心していた。自分がプロ野球選手になりたいという旨を。今回の日本代表戦に出た事で、さらにしっかりとしたビジョンになった。なかなか言い出せずにいたが来年は受験生。受験生になる前に伝えたいと思った。〇〇は意を決して部屋を出る。


ガチャ


〇〇:父さん、今いいかな。


父はテーブルに座って酒を飲んでいる。今までこんなことはなかった。浴びるように飲んでいた。


〇〇:父さん、その.....って....え?


今、気づいた。父の体は血まみれだった。しかも外傷はない。つまり返り血ということだ。理解するのに時間は掛からなかった。


〇〇:父さん?.....何を....したの?

正雄:....あっはは!!?あははははははは!? 殺したんだよ!? 俺は人を殺したんだよぉ!!


とてつもない大声、狂気を帯びた声だった。恐ろしい。怖い。逃げたい。あぁ...もうダメだ。

気がついたら〇〇は家を飛び出し、走った。

数分経って、父も気づいたのだろう。〇〇が家を飛び出したことに。今日は自分は自分を失ってしまった。〇〇まで失う訳にはいかない。一気に正気に戻っていた。酒を飲んでいたが、車に乗り込み〇〇を探した。

クリスマスの12月25日だった。

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遥香:なんか夜のコンビニってワクワクするね!

咲月:ふふっ笑 そうですね!早くいっぱい買ってホテル戻りましょ!

〇〇:うぅ......うぁぁぁあああぁあ!!!

遥香:うわ....何あの人、大声出しながら走ってる笑

咲月:東京は変な人いっぱいいますね笑


キキィィィ!!


遥香:あっ!? さっちゃん危ない!!


ドグシャッ

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12月26日

朝に家に帰った。テレビを見たら、父が交通事故を起こしたようだ。良かった。これでもう父と関わることはなくなる。なにも僕の邪魔をするものはない。僕はようやく父から解放された。

〜〜

12月30日

父は二人を殺害していたようだ。なにが立派な人間だ。強い人間だ。あいつは全て間違っていたじゃないか。でも僕は逃げない。僕は僕の人生を模索する。僕が僕であると証明する。

〜〜

4月9日

父の記事が出たようだ。僕は見ていないが、クラスの皆んなは見ていたようだ。露骨に僕を見る目が変わっている。変わらず接してくれるのは美空だけだ。正直美空がいれば生きていける気がする。僕は...大丈夫だ。

〜〜

5月10日

神宮寺も普通に話してくれるようになった。神宮寺は彼女を亡くしてしまったらしい。残念だ。僕は慰めることはしなかった。たぶん僕に慰められても辛いだけだろうから。立ち直る方法を教えた。顔が晴れていくのを感じた。まだ僕は人の役に立てる。

〜〜

6月18日

最近、いじめられていると実感する。僕の記事が出てきたあたりだろう。上靴はない。椅子には画鋲。教科書は隠される。なんて古典的ないじめだろう。僕は屈しない。

〜〜

7月3日

日本代表には選ばれなかった。代わりに神宮寺が選ばれた。あいつは頑張っていたからな。おめでとう。

〜〜

8月1日

久しぶりに美空と遊んだ。最近ずっと美空といる。この時間が一番楽しいし、幸せだ。僕は........クッシナイ。

〜〜

8月9日

美空の父親が僕の元へ来た。要件は美空と関わらないでほしいとの事だった。殺人犯の息子とは関わらせたくないという事らしい。それを聞いて僕もハッとした。僕の幸せしか考えていないことに。美空の連絡先を消した。もう僕は美空と関わらない。そう決めた。

〜〜

8月10日

幸せになりたい。幸せになりたい。幸せになりたい。幸せになりたい。幸せになりたい。幸せにナリタイ。幸せニナリタイ。幸セニナリタイ。シアワセニナリタイ。シアワセニナリタイ。シアワセニナリタイ。シアワセニナリタイ。シアワセニナリタイ。

〜〜

8月10日の日記を黒のマーカーでぐちゃぐちゃに塗りつぶし、〇〇は学校に行くのをやめた。高校は通信制に通うことにした。通っているうちに心は徐々に回復。母が再婚し新たな家族もできた。そんな生活を送るうちに、こう思うようになった。人のために生きたい。その為にはまず、遺族の方に謝罪しなければならない。そう感じて、〇〇は今の街に行くとこを決めた。

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遥香:うっ....うぐっ....うぁぁ.....

禅:...............。

和:グスッ.....うぅぅぅ....うぁぁあ


涙が止まらない。この日記の内容を中学生が経験しているのだ。ありえないことだった。


天知:というわけで、皆んな決心はついたかな。

さくら:....決心?

天知:ついさっき連絡があってね。〇〇君、意識戻ったらしいよ。

遥香:えっ!?

天知:ほら、だから準備して、行くよ?東京。

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                                           To be continued





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