ヤンデレVSツンデレ7

ブランコの揺れる。甲高い金属音からが聞こえ、子供の楽しい声の幻聴が遠くから聞こえてきそうだった。
真っ赤な公園。ベンチの周りに女性が二人、ベンチに座る男を囲むように立ち塞ぎ、男は女性二人を避けるように、うつむいていた。


「大丈夫?北斗くん。どうしたのどこか調子悪いの?」

「ちょっと、それ以上先輩に近づくなっす‼︎ それ以上近づいたら…」


旭が千歳の肩にめがけて、手を伸ばそうとしたがのびた手首を強く掴んだ。旭は小さく悲鳴をあげ、逃げようと振り払おうとするが、それも叶わず、千歳の方に体は引っ張られる。恐怖と痛さでされるがままにするしかなかった。


「それ以上近づいたら…何? 今のあなたに何ができるの」

「痛っ…やめるっす…」


ゆっくりと金髪の髪に千歳の顔が近づく。旭の足に力が入らない。目の前の男のように何かされてしまうのでは。恐怖が旭に襲う。そして千歳は旭の耳元で囁いた。


「今のあなたには、何もできない」


握った腕を千歳は強く振り払った。腕を支えに立っていた旭の体は地面に叩きつられた。


「う…」

「お、おいやめろ。千歳…もう、やめてくれ。」


男の前に立つ、女の体半分は赤く染り、もう半分は黒い影に覆われながらも彼女は、子供をあやすような優しい顔で北斗の頭をゆっくりと撫で始めた。


「北斗くんはそこで見ていればいいの。私があなたの全てを決めてあげる。あなたの着るもの、身につけるもの、いつに寝て、何を口にするのか、そして、いつ用を済ますかも」

「先輩から、離れるっす‼︎」

「きゃっ‼︎」


旭の体当たりで、千歳の体は横に吹っ飛んだ。不意をつかれた千歳は受け身を取れずに倒れ込む。


「何するの‼︎離せ‼︎」

「離さない‼︎」


暴れる千歳の体を抱きつくようにして、旭は全身の力で動きを止めようとする。そして、ついには、旭は千歳の体に馬乗りになるようにして両腕を拘束した。


「私はあなたを許せない。だけど…」

「何す…っ…」


一時、千歳の脳が理解を拒んだ。何をされたのか。赤い空の下で二人の顔が最も近づき、千歳が北斗にもできなかったことを、されたと。


「あなたの今まで、人生に何があったか知らないけど。私はあなたの全てを受け入れてあげるっす。」

「あなた何をいって…」

「拒まれて続けて、思い通りにいかなかったら力技で解決してきたかもしれないけど…でもそれでも、手に入らない物があるって教えてあげるっす」

「勝手なこと言わないで…」

「だけど、力技じゃなくても、手に入る物もあるって教えてあげるっす。だから、今のあなたを私は受け入れるっす。受け入れるっす」


ゆっくりと旭が体を起こした。すぐ横に倒れた千歳に旭は手を差し出した。それに応えるように千歳が手を取り、体を起こした。


「帰るっすよ。先輩」
「あ、ああ…」


北斗はただ帰路を眺めることしかできなかった。


すでに暗くなった夜道に、旭の機嫌の良い鼻歌と、旭の手を握りながら泣きじゃくる千歳。

北斗はただ、二人の後ろをついていくことしかできなかった。

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