いざこざの後、地固まる4_死ノ宮 華蘭

「……」
「……」
 沈黙の帰り道。
 行き交う人々の雑踏とカラスの鳴き声だけが空しく鳴り響く。
 兄弟同士横に並びながらで家路へと歩むも、二人を包む空気は寒い冬の晩のように冷え切っていた。
「……なぁ」
 先に沈黙を破ったのは葵だった。
「何だよ葵」
「あのさ……お前も本当は俺と同じでリベンジしたいんだろ?」
 ぶっきらぼうに返事を返す凪に問いかける。
 凪は前回のボイスドラマでの声あてに納得いってないと認めていた。
 それに、先程の田中とかいう友人相手に、凪は兄弟で絶対に良い作品を作ると言い放ったのだ。
 ということは、口では消極的な事を口走っていた凪も自分と同じ気持ちなのではと、確信した上での問いかけだった。
「……そうだよ! 俺だって本当は前回の失敗を挽回して成功をおさめたいんだよ!」
 凪は怒鳴りつけるような勢いで自身の本音を吐露した。
「でも……また前回と同じように失敗するんじゃないかと思うと怖くてさ…..」
 次に凪が吐いたのは、弱音。
 それは、葵に迷いを抱かせていた元凶そのものでもあった。
 また前回のように失敗したらどうしよう。
 またデジタルタトゥーを残すような結果に終わったらどうしよう。
 失敗することを恐れる気持ち。
 それこそがこの兄弟にリベンジへの覚悟を鈍らせていた。

「でもさ……俺、思うんだよな」
「何が?」
 葵の発言に凪が問いかける。
「失敗したらどうしよう、とかじゃなくてどうしたら成功するのかって考えたほうが有意義じゃないのかって」
「どうしたら成功するのか……を考えろと?」
「ああ、確かに今のままでリベンジを果たそうとしても失敗する可能性が高い。だが失敗したらどうしようって考えのままじゃ失敗するか、挑戦せずに終わるかのどっちかしかない。それで後悔するのは他でもない俺たちだ。お前だって後悔するような選択はしたくないだろ?」
「まぁ…...それは確かに」
 葵の力説に妙な納得感を覚える凪。
 だが凪にはどうしたら成功するか、という明確なアイデアがなかった。
 なので葵に訊いてみる。
「でもどうしたら成功するかって……葵には何か考えでもあるのか?」
「俺の考えとしては、まずは前回のどういった所が問題だったか、というのを炙りだしてそれを虱潰しに解決していく方法だ」
「プッ、葵にしては随分と地道な考えじゃないか」
 凪は葵の考えを聞いてそのらしくなさに少し吹き出す。
「おいおい真面目に言ってるんだぞ。確かに俺らしくない考えかもしれないが、俺たちが確実に成功を収めるためにはこれしかないと考えている。そこでだ、家に帰ったらまずは遅めの反省会だ! 前回のドラマCDを聞き直してどこが悪かったかを挙げていくぞ!」
「……はいはい」
 こうして家に帰った後の予定が、凪の話から前回のボイスドラマの反省会へと変わったのだった。

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